【書店員のイチオシ】
世を変えられるのか『武器としての「資本論」』
【ブックスタマのイチオシ】


アレクサンドリア・オカシオ・コルテスは、「正義とは本で読む概念ではない。(中略)正義とは女性たちの賃金がいくらかということ」と喝破しましたが、著者の白井聡は、「資本論」とは勉強するための本ではなく、新自由主義に対抗する武器だと言っています。「何もスキルがなくて、ほかの人と違いがないんじゃ、賃金を引き下げられても当たり前でしょ。もっと頑張らなきゃ」という考え方がいかに倒錯しているかを、この本は比較的優しい言葉とマルクス経済学の専門用語を並べながら解説しています。


AIやドローンなど技術革新がどんどん進んで、人々の暮らしが楽になってよさそうなものですが、ますます忙しくなるばかりで暮らしは一向に楽になりません。それがいったいなぜなのか、100年以上前に書かれた「資本論」にその答えがすでに書かれているのです。
私たちは資本主義が当たり前の時代に住んでいて、資本主義が生まれる前の世界を想像できなくなっています。つい数十年前はお茶は家で淹れるものでしたが、今はコンビニやスーパーで買ってくるものになっています。このようになんでも商品化されてしまうのが、資本主義社会の特徴です。「資本論」の冒頭に「われわれの研究は商品の分析をもって始まる」とありますが、商品とは何かを知ることが資本主義を理解することにつながり、その欠点を克服するのにも役立つのです。
資本はその価値を増殖させることを目的としていきます。労働者は自分の暮らしをよくするために働いて、商品を製造していきますが、実は自分のためだけでなく、資本の価値を増殖させるためにも、働いているのです。生活レベルの低下に労働者が反発しなければ、資本は自分の価値を増大させる方向に突き進んでしまいます。
資本論を、世の中を変えるための「武器」にしようという著者の意気込みが、真っ赤なカバーと、それを外すと現れる漆黒の装丁に、形として表現されているように思います。
この本が最後に示す、階級闘争の原点はちょっとユニークです。そんなことが社会を変える役に立つのか、という意見もあるかも知れませんが、産業革命の発祥の地であるイギリスが例に挙がっており、説得力があると思います。わたしが関わっている料理レシピ本大賞とつながってきているようで、個人的には楽しく感じました。

