要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2019年3月号)


いよいよ春の幕開け。外で本を読んでも大丈夫な季節になってまいりました(花粉症の場合を除けばですが……)。
2月に要約が公開された書籍の中から、フライヤー社員がイチオシしたい一冊をご紹介いたします。



「ある領域では当然とされている考え方も、別の領域ではそうではない」ということは本当によくあります。たとえば「利他主義」「慈善活動」という言葉を聞いたとき、そこに「効果」「効率」を結びつける人はそこまで多くないでしょう。多くの人がまず想起するのは「ボランティア精神」「博愛主義」といったものであり、そこには「慈善事業で重要なのはメンタリティであって、効率を追い求めるのは間違えている」という意識が見え隠れします。ビジネスにおいて「効果」「効率」を追い求めるのは自明なのに、チャリティにおいてはそうではないわけです。
ですがここ最近、事業によって社会課題の解決を図る「社会起業家」(ソーシャルアントレプレナー)たちが徐々に頭角を現し始めました。またそのような流れに連動してか、従来は採算が度外視されていたチャリティ分野においても、「もっと効果・効率を重視するべきだ」と唱える論者が出てきています。
本書ではまさにタイトル通り、世の中にできるかぎりよい影響を与えるための指針を示すものです。ボランティアに携わる方にとっては、社会的意義と効率性について再考を促されるようになるでしょうし、実利主義者(プラグマティスト)にとっては、チャリティ活動が身近に感じられるようにあるでしょう。



副業解禁、働き方改革、パラレルキャリア、レンタル移籍。日本でもキャリアや働き方をめぐって地殻変動が起きつつある。
変化の波を乗りこなすためのおすすめの一冊が、『複業の教科書』である。著者は複業研究家の西村創一朗さん。複業をスタートさせ、軌道に乗せるためのポイントを一挙公開している。
複業のメリットの1つは、キャリアチェンジの失敗リスクを減らせること。本業という安全地帯を確保しながら色々試せるので、失敗しても無傷。そのうえ、自分の得意・苦手分野まで明らかになる。まさに仕事の適性を探る、「試食」ならぬ「試職」の絶好のチャンスだ。これは活用しない手はない。
印象深かったのは、『ライフ・シフト』でおなじみの「人生100年時代」において、複業がより大きな意味をもつというメッセージである。寿命が延び続け、たとえ定年が70歳に延長されたとしても、その後の生活は自分で守らなければいけない。すると新たなキャリアとして、フリーランスの道を選ぶ人が自然と増えていくだろう。
そのとき役立つのが、現役時代の複業経験である。挑戦するマインドセット、社外のネットワーク、組織を超えて通用するポータブルスキル。複業を通じてこれらを培っていけば、ちょっとやそっと挫折したり回り道をしたりしても「まぁ大丈夫」と思わせてくれるような、一生モノの財産になるのではないだろうか。
複業という道を照らし出しながら、私たちのしなやかな生き方を支えてくれる書だ。生き方・働き方を見直したい方にぜひお読みいただきたい。



「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」へ――これが、本書のなかで最も印象に残ったメッセージでした。
日本人は1日の大半を仕事に充て、仕事と食事、入浴、睡眠で1日24時間を使い切ってしまいます。この生活は単調で刺激がなく、イノベーションなど起きようはずもありません。
そこで提案されるのが「人・本・旅」です。長時間労働をやめ、定時で仕事を終える。そうすれば、人と会い、本を読み、旅に出る時間を確保できるでしょう。そこから得た刺激が新たなアイデアを生むというわけです。
「じゃあ、労働生産性を上げて、残業せずに帰れるようにしよう!」――残念ながら、そうもいきません。もはやビジネスパーソンの24時間は、その人だけのものではないのです。早く仕事が終わったとしても、同僚の仕事を手伝ったり、飲みニケ―ションしたりといった“協調性”が求められます。残業時間が少ない「仕事ができる」人に業務が集中するのも、日本中どこの会社でも見られる光景ですよね。
本書のメッセージが浸透し、日本における働き方が一刻も早く次のフェーズへと移行していくことを期待しています。それが回り回って、よりよい仕事、よりよい社会につながるはずですから。



もう改めて紹介する必要はないかもしれない。1月15日に刊行され、発売後わずか20日間で20万部を超えたと言われている。SNSや書店などのどこかで毎日のように目にする『FACTFULNESS』。世界を悲観的でも楽観的でもなく、正しく見るための示唆にあふれた書だ。
様々な感情をあおるニュース記事の見出しのためか、悲劇的な事件、外交問題、貧困問題などのすぐに解決できない出来事に触れては、日々いたたまれない気持ちになる。メディアとしては、記事を多くの人に見てもらうことも事業上大切なため、問題の構造や時系列推移から離れた象徴的な一断面を見出しにせざるを得ない、という背景もあるように思う。
だが『FACTFULNESS』を読めば、多くの人が感じている抑圧感を解き放つような希望に満たされて、心が温かくなる。貧困、人口問題、健康・教育格差をはじめ、長きにわたり課題とされてきたものが、解消までは時間がかかるにせよ以前よりはるかに良くなっている事実が示される。「悪い」と「良くなっている」は同居できるのだ。
著者のハンス・ロスリングは余命の限られた病気になった後、あらゆるスケジュールをキャンセルして、この本に想いを残したのだという。チンパンジーに負けるという笑いや屈辱で幕を開け、夢中で読み進めていくうちに、世界的なインテリジェンスに導かれることだろう。