
『言語化の魔力』著者インタビュー
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」で自己啓発部門賞に選ばれた『言語化の魔力』(幻冬舎、以下「本書」)。本書は『アウトプット大全』など多くのベストセラーを発表してきた樺沢紫苑さんの41作目の作品となります。精神科医の視点から、健康や幸せ、メンタル疾患の予防法などをわかりやすく説き、幅広いファンから支持される樺沢さん。初の受賞となる本作では、人間関係や職場の悩み、自己肯定感の低さなどのさまざまな「悩み」にフォーカスしています。
ライター・矢羽野晶子
── 自己啓発部門賞の受賞おめでとうございます! まずは受賞の感想をお聞かせください。
これまでもノミネートはしているけど、最高位は『アウトプット大全』の3位でした。こういった賞を受賞できたことは、本当に励みになりますね。


── 今回はどのような思いで本を執筆されたのでしょうか。
コロナ禍であったこの3年間は、本当にストレスの多い時期でした。国際情勢も不安定になってきて、今は悩み多き時代だと思います。ですから精神科医としてみなさんのストレスや悩みを減らし、ひいてはメンタル疾患や自殺を予防したいと思っています。
私は8年間YouTube番組「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」をやっていて、これまで4000本以上の動画を投稿してきました。毎日視聴者からいろんな悩みが送られてくるのですが、1カ月で1000件、8年かけて10万件以上の悩みが集まっています。そういったことから、10万件の悩みに対して1冊で解答できる本があればいいなと思い、編集の人と話し合いました。
── 10万件!とてつもない数ですね。
ただ、10万件といってもほぼ同じような質問なんですよ。悩みに回答していくなかで見えてきたのは、「言語化」というキーワードです。みなさん、共通したことで悩んでるんですよね。
── 悩みのキーワードは「言語化」ですか。
言語化とは、心の中でモヤモヤしているものを言葉にして表現することです。日本人はこれがすごく下手なんですよ。会社で仕事がうまくいってなくても、同僚や上司に相談しないじゃないですか。私は「言語化する勇気」と言っているのですが、まずは勇気をもって言ってみることが大切です。「言語化」って言うか言わないかの違いだけで、上手い下手ではありません。でもみなさん、上手にやろうとしすぎるんですね。
自分の思っていることや辛いことを少しでも言葉にすると、うまく回っていくのではないでしょうか。

── たしかに、日本人はあまり「助けて」と言いませんね。世代的な傾向はありますか?
私は世代ではなく時代的な問題があると思います。東日本大震災のあった2011年まではお金が価値観の中心でしたが、震災以降は「絆」や「つながり」という言葉が言われるようになり、「心の時代」に変わりました。そして今度はコロナになって、「コミュニケーションしたいけどできない」という時代になった。だから今は自分の気持ちをあえて言語化したり、友達と会ってコーヒーを飲んだりとか、そういうことが大切だと思います。
── 本書では、悩みを「解決」ではなく「解消」すると表現していることが印象的でした。
みなさん悩みや問題があったら、解決しようとしますよね。解決とは、原因を見つけて対処することです。でも原因ってそう簡単には取り除けないですよね。そうすると「ああ無理だ!」となって、どんどん落ち込んでいくわけです。
では、解消とはどういうものか。マイナス10をいきなり0にするのが解決ならば、マイナス9にするのが解消です。たとえば、人に話を聞いてもらうだけでスッキリして元気が出た、となると、もうマイナス9になるわけです。できることをひとつずつやっていくことによって、マイナス8になり7になり、気がついたらマイナス3くらいになっている。すると「なんとかなる」って思えますよね。
── つまり、マシにしていくということですね。
あと、精神的に余裕がもてると良いアイデアが出てくるんですよ。マイナス3くらいになったら「これもやったらいいなあ」と思えてくるので、ポンポントーンと0になっていきます。本書『言語化の魔力』はマイナス10を0にしていく本ですが、前著の『毎日を楽しめる人の考え方』(きずな出版)は、0を10にする本なんです。日々の生活で「映画面白かったわ」「友達と飲みに行って楽しかった」というとプラス1で、それをどんどん増やしていくとプラス10になります。たとえ今がマイナスでも楽しいことを増やしていけば、プラスにすることもできるんですよ。


── ビジネスの世界では、自分の本音や弱みを隠して頑張っている人も多いと思います。ビジネスパーソンの悩みを解消するにはどうしたらいいでしょうか。
悩みが小さいうちに「これってどうなんですかね?」と軽く聞くのがいいと思います。困って困ってどうしようもなくなってから相談しても、「なんではやく言わないんだ!」と怒られてしまう。それでも難しいなら、私はもう「雑談」しかないと思います。
たとえば普段の会話で「あの件どうなってるの?」と聞かれたら、「A社の担当者がちょっと渋ってるんですよね」とか、気軽に言ってみる。このくらいのときに言えると、すぐに対処できますよね。
私は「キャッチボール」とよく言うのですが、とりあえずボールを投げたら返ってきます。でもみなさん投げないで、ずっと持っているんですよ。それでは進まないですよね。
── 頭ではわかっていても、一歩を踏み出せない人も少なくないと思います。メンタルブロックはどうやったらはずせますか。
「自己洞察力」をつけることですね。メンタル疾患になりやすい人は、自己洞察力が低いんです。たとえば「最近、仕事が忙しくて疲れてるな」と自覚できる人は、「今日はきちんと睡眠とろう」とか「飲み会には行かないで休もう」と対処できるけど、それに気づけないから、「睡眠時間減らしてもっと頑張らないと!」となる。根性で乗り切ろうとするから、おかしな方向に行ってしまうんです。だから、自己洞察力をつけること。そのためには、普段から書く習慣をつけることですね。
私は映画を見たあとに感想を書いているのですが、「この映画は面白かった」「ではなぜ面白いのだろう」「主人公が自分にないものを持っているから」と感想の理由を深堀りすると、必ず自己洞察につながっていくんです。

── チームや組織の言語化力を上げるために、心がけるべきことはありますか。
リアルなコミュニケーションを大切にしてほしいですね。その基本は、挨拶や雑談。休憩時間に「どう?」と声をかけることはメンタル的にもいいし、職場の生産性を高めるという結果も出ています。
オンラインではミーティングの前に「今週あった楽しいこと」など、誰でも話せるお題を決めて、アイスブレイクをしたらいいのではないでしょうか。楽しいことを話すだけでドーパミンが出て、楽しい気持ちになるんですよ。
── 本書では「あきらめること」の重要性にも触れています。
本当に追い詰められたときに、あきらめたり手放したりすることができたら、少なくともメンタル疾患にはならないと思います。昭和的な根性論を引きずっている人もいますが、そろそろ卒業してほしいですね。
── 樺沢先生ご自身はあきらめた経験はありますか?
私は基本的に淡々とやり続けますね。たとえばYouTubeは今でこそ40万人の登録者がいますが、最初の3年くらいは大変でした。でもまあ「1000本くらいアップすれば、みんな見るようになるんじゃないの?」と考え、8年間毎日欠かさずアップし続けました。未来の自分を信じて、淡々と行動したんですね。
みなさんもたとえば「本や映画を見たらTwitterに感想を書く」など、できることをできる範囲で続けてみたらいいのではないでしょうか。
── 淡々と続けるのですね。
「やるぞー!」というのは、せいぜい3カ月しか持ちません。会社のプロジェクトなど期間限定であればいいのですが、1年や2年になると燃え尽きたりうつになったりします。できる範囲でやることが大事です。
私が患者さんによく言うのは「できる範囲でやっていれば、病気にはならないんですよ」ということ。無理してやるから病気になるんです。ただ、力が100あったとしたら、そのギリギリを攻めることが大事です。怠けて70~80でやっていたら結果は出ませんから。自分のパフォーマンスのギリギリを攻めていくことが、疲れずに長く続けられるコツだと思います。
── そのようにして本をたくさん出されて、YouTubeやSNSで毎日発信しながら映画の感想も書かれているのですね。
文章を書いたり情報発信をしたりするって、基本的に楽しいんですよ。ポジティブな反応が必ず起きますので。でもみなさん、ネガティブな反応に注目しちゃうんですね。私は「1:2:7の法則」とよく言うのですが、10人いたらあなたを嫌いな人は必ず1人はいる、でも応援してくれる人は2人いて、残りの7人はどうとも思っていない。これは職場にも当てはまり、反論してくる人は必ずいるけど、応援してくれる人はその倍くらいいます。でも、その人たちは自分で探さないと見つかりません。本書にも「相談する人がいません」という人が出てきますが、絶対にいるんですよ。それに気づくには、自分から相手に話しかけてコミュニケーションをとっていくことが大切なのではないでしょうか。
── 最後に、樺沢さんが今後やっていきたいことを教えてください。
情報発信によるメンタル疾患の予防ですね。たとえば、睡眠を削るとうつや認知症になるリスクは高まります。でも、みなさんそれを知らないんですよ。知っていれば「今日は徹夜しないで早めに終わらそう」とか思うはずです。知るだけで予防できることがある。だから健康や予防に役立つ情報を、できるだけ多くの方にお伝えしたいと思っています。










樺沢紫苑(かばさわ しおん)
精神科医、作家。1965年北海道生まれ。91年、札幌医科大学医学部卒。同神経精神医学講座に入局。2004年から米国シカゴのイリノイ大学精神科に3年間留学。帰国後、東京にて樺沢心理学研究所を設立。「情報発信によるメンタル疾患の予防」をビジョンとし、YouTube(チャンネル登録者数約40万人)、メールマガジンなど累計80万フォロワーに情報発信をしている。『精神科医が教える 毎日を楽しめる人の考え方』『学びを結果に変えるアウトプット大全』など著書41冊、累計発行部数220万部。