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社会に蔓延する「お金は増える」という幻想
「ビジネス書グランプリ」リベラルアーツ部門賞受賞!

社会に蔓延する「お金は増える」という幻想

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」リベラルアーツ部門賞に選ばれたのは『お金の不安という幻想』(朝日新聞出版、以下「本書」)。 著者の田内学さんは、ゴールドマン・サックスでトレーディングに従事した後、独立して「お金の向こう研究所」を設立。現在は講演や書籍の執筆などを通じて「お金と社会の関係」を伝える活動をしています。 物価高が続きお金に対する不安がより強まる中、「お金の不安からどう抜けるか」というテーマに挑んだ本書は、どのような思いを持って書かれたのでしょうか。 受賞を記念して、田内さんにお話を伺いました。

「お金を増やさないといけない」風潮が強まっている

── 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」リベラルアーツ部門賞の受賞、おめでとうございます! まずは受賞の感想をお聞かせください。

本当にうれしいです。受賞もうれしいですが、本を書くこと、本を作ること自体がとても楽しかったです。

これまでも仕事で金融商品を作ってきましたが、お客様から反応を直接聞く機会はあまりありませんでした。それが本だとメールやDMをいただきますし、いろんなレビューサイトで反響をいただいたりするのも励みになりますね。今回こうした投票という形で選んでいただけたことも非常にうれしいです。

お金の不安という幻想
お金の不安という幻想
田内学
朝日新聞出版
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お金の不安という幻想
お金の不安という幻想
著者
田内学
出版社
朝日新聞出版
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── 2024年にご著書『きみのお金は誰のため』が同グランプリで受賞(総合グランプリとリベラルアーツ部門賞)されました。あれから2年経ちましたが、世の中の風向きや読者の反応に変化はありますか。

2年前はちょうど金融教育が始まった時期で、学校の先生がよく読んでくださって、いろんな学校でお話しする機会が増えましたね。

ここ2年でいうと、「どうやったらお金儲けできるのか」という本が増えている気がします。というのはやはり、生活がより苦しくなっている事実があるのかなと。特にこの1年ぐらいの物価高はかなり実感するところですよね。

2022年ぐらい物価が高くなり始めて、一時的なものかと思いきやそのまま続いちゃった。その前から「老後2000万円問題」をはじめ、「お金を増やさなきゃいけない」っていう風潮はあったけど、特にこの2年くらいで強くなったように感じます。

きみのお金は誰のため
きみのお金は誰のため
田内学
東洋経済新報社
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きみのお金は誰のため
きみのお金は誰のため
著者
田内学
出版社
東洋経済新報社
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お米は増やせるけど、お金は増えない

── 本書を執筆されたきっかけを教えてください。

この本を書こうと思ったのは、2024年11月です。ちょうどそのころ金融教育について話す機会があったのですが、一緒に呼ばれていた有識者の方が「若い人ほど早く投資を始めないといけない」というようなことを言っていたんですね。

大学とかで話していても「早く投資を始めないといけない」「奨学金を返さなきゃ」という学生がいて、ちょっと本末転倒になっていると感じていました。そもそも大学に行くって、知識や能力、経験、人間関係など、お金以外の資産を築くためですよね。でも最近は、その貴重な時間に「いかに投資を学ぶか」とか「投資するためにバイトしてお金を増やさなきゃ」と考える学生が増えている。それは裏で「資産運用しないと」と煽る人がいるからではないか……と感じました。

── そうなんですね。

資本主義はお金を儲けることで回っていく世界だから、例えば「お金以外に大事なものがありますよ。そっちの資産を増やしましょう」っていうよりは、「資産運用しましょう」という方が、受けがいいんですね。

いま盛んにいわれる「投資」は、何かしらの金融商品を売ることだし、世の中に出ている情報は「商品を買うことで問題解決しましょう」ということが大半です。もちろん生活していくにはお金が必要だし、お金の不安や物価高もありますから「お金を増やそう」って話になる。

SNSの影響もより強くなっていると感じます。「まわりの人は投資しているのに、こんなに稼いでいる人がいるのに、自分だけ乗り遅れたらどうしよう……」と。

例えば、「地震が起きて津波が来るかもしれないから不安」であれば、みんなで堤防を作ろうとか考えるわけじゃないですか。ところが「お金の不安」になると、手元にお金を持っておきたいと思う。お金って金利とかで増えるような気がするけど、実際は誰かが支払っているんですよね。そもそも金利は銀行が支払っているものだし。

その銀行は何で金利を払えるかというと、それ以上の金利を誰かから受け取っているからです。お金って誰かから来ているものなんですよ。お米なら育てたら増やすことができるけど、お金はそういうものではない。結局それで何が起きるかというと、奪い合いになっちゃう。

「お米が足りない」という問題を解決したいなら、お米自体を作る必要がある。それが、強い資本主義の世界だと「商品を買うことで解決しましょう」になってしまうんです。そうするとみんなが協力できなくなって、分断を呼んでしまう。それを問題意識として強く感じて、この本を書こうと思いました。

目に見えない労力を想像すること

── 「お金さえあれば大丈夫」という価値観は、人口構造に関係していると本書に書かれています。今後、人口減により構造が変化していく中で、私たちは考え方をどう変えていけばいいでしょうか。

まずは無駄な仕事を減らすことですね。例えば、クリックすれば家にいても簡単に物が手に入りますが、「送料無料」でも実際は配送コストがかかっていています。この「コスト」って、お金だけじゃないんですよ。荷物を配送してくれる人の労力もそうだし、車のガソリンとか電気とか。「送料無料」であっても、そういったコストがかかっているんです。

おそらく今までは、いかに仕事を増やしてお金を稼ぐかを考えていたから、仕事が増えた方がよかったわけです。でもこれからは「どうやって必要のない仕事を減らすか」ということが大事になってくる。つまり、かかる労力を想像して、消費活動をしようということです。

村社会の時代に生きていたら、自分の知人に再配達とか気軽にお願いしないだろうし、せっかく作ってもらったものを粗末に扱ったりもしないでしょう。でもお金を使って解決することで顔が見えなくなってしまったから、そういう労力に気づけなくなってしまっているのかなと思います。

最近はいろんな仕事がAIで代替されるようになってきて、仕事がなくなる不安もあると思いますが、むしろ効率化してなくなっていった方がいい。効率化を進めないとまずいですよ。人がいなくなってしまうから。

実際、すでに色んなところで人手が足りなくなっていますよね。AIが仕事を奪うかどうかというのは、AIがさらに発達してリアルに仕事がなくなってきたときに考えればいいんじゃないでしょうか。それに、仕事を減らして自分の好きなことに使える時間を増やした方がうれしいですしね。

AIは「何に困っているか」は教えてくれない

── 本書では「観察力」の大切さについて繰り返し触れています。あらためて、観察力を身につけると何がいいのか、どうしたら観察力をつけられるのかを教えていただけますか。

観察力の本ではないので困っちゃいますけど(笑)。しいて言うなら、自分で考えることですかね。偉そうな言い方かもしれませんが、自分個人を生きるというか、自分が自分という車を運転するようなイメージです。

例えばAIは、問題解決は得意かもしれないけど、「いま自分たちが、何に困っているか」ということについてはわかっていない。AIは国レベルで起きていることなら多少は把握しているかもしれないけど、あなたが住んでいる地域や所属しているコミュニティで起きている問題については、おそらく知らないでしょう。

そもそも、僕ら一人ひとりが集まってこの社会ができていて、その中で潤滑油的に働いているのがお金です。僕らが生活している社会はどんな問題を抱えているのかに気づいて、自分は何ができるのか、協力してどうやって解決しようかを考える。それこそが、人間のやるべきことではないでしょうか。

子どもに学び続ける姿勢を見せる

── 子どもたちは社会に蔓延する「お金が大事」というメッセージを無意識に吸収しているように感じます。私たち大人は、子どもに「お金」をどう教えていけばいいでしょうか。

教えるのではなく、一緒に考えればいいんじゃないでしょうか。大人だってわからないこともあるだろうし。これが数学とかだったら一つの答えがありますけど、お金はそうではないですよね。

お金ってそれぞれの生き方や価値観に関わることで、知識を与えるのとは違うわけです。「お小遣い帳をつけて計画的にお金を使おう」ってどれだけ言っても、親が放漫財政だったら説得力ないですよね。

だからどう教えるかというより、自分がどうお金を使っているか、自分がどうお金と向き合っているか、なのだと思います。「親の背中を見せる」という感じですかね。

── 田内さんはお子さんにどんな背中を見せていますか?

この年になっても学び続けていることだと思います。お金に直接は関係しないですけど。僕にとってのお金は、生きていく中での道具ですから。

僕が優先するのは、自分が挑戦したいことをやるためにお金を使うことですね。何かの本か記事に「年をとっても学び続けることが大事」と書かれていたけど、その通りだと思っています。

不安を話せる場や仲間を作りたい

── 最後に、本記事の読者にメッセージをお願いします。

つい正解探しをしちゃって、失敗しにくい空気がありますよね。成功するために正解を探したい、失敗する姿を見せたくない……みたいな。でも実際は、失敗した方が得るものは大きいです。だからもっと、失敗に寛容になってほしいと思います。

── これからやりたいことなどあれば、教えてください。

間違ったことを言っても許されるような場を作りたいです。会社でも「間違ったこと言っちゃまずいな」と思うとしんどいですよね。打ち解けていない人だったら、もうそこで「この人はこういう人なんだ」とレッテルを貼られちゃう。だけど、ある程度人となりをわかっている人たちと話すのであれば、何かおかしなことを言っても指摘してくれますよね。

お金の不安ってそうそう人に話せないけど、その不安がどこから来ているのかを考えたら、それについては話せるかもしれない。僕自身そういう話ができる仲間を見つけたいし、そういう場を作っていきたいと思っています。

お金の不安という幻想
お金の不安という幻想
田内学
朝日新聞出版
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お金の不安という幻想
お金の不安という幻想
著者
田内学
出版社
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田内学(たうち まなぶ)

社会的金融教育家。お金の向こう研究所代表。2003年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日本銀行による金利指標改革にも携わる。2019年に退職し、執筆・講演活動を通じて「お金と社会の関係」を伝える活動を始める。主な著者に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)があるほか、『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」で総合グランプリを獲得した。

文責:矢羽野晶子(2026/03/06)