おにぎりの本多さん

とっても美味しい『市場創造』物語
未読
おにぎりの本多さん
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とっても美味しい『市場創造』物語
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おにぎりの本多さん
出版社
プレジデント社

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出版日
2016年08月02日
評点
総合
3.3
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

『おにぎりの本多さん』。ほのぼのとした物語を連想させるタイトルだが、本書の中身はそんなイメージとは大きく異なる。本書は好奇心からコンビニエンスストア業界に身を投じ、その後長きにわたって物流や品質の改善に寄与し、そして海を越えた韓国で食文化を改革したというバイタリティに満ちたビジネスパーソンの回顧録である。

韓国に赴任して間もなく、著者が直面したのは「意識」の壁だ。「冷めたものを食べるのはお金がない人を意味するので、おにぎりや弁当は好まれない」「ヒット商品を出してもすぐ他のコンビニエンスストアが真似をするので、商品開発しても意味がない」といった社員や店舗オーナーの頑なな意識である。彼らのその頑なさに対し、おにぎりや弁当がいかにコンビニエンスストアにとって重要な商品であるかを訴え、説得するのは相当骨が折れることであっただろう。また当時のコリアセブンでは、コンビニエンスストアにとってなくてはならない清潔感がまるでなく、あまりの汚さに衝撃を受けるほどだったそうだ。「きれいにしろ」と口だけ言ってわかってもらえるものではないと、著者は自ら雑巾とモップを手に店内清掃を始めたという。

著者は5年間の韓国での孤軍奮闘の中で少しずつ仲間を増やし、成功と失敗を積み重ねていった。その結果、韓国でもおにぎり記念日ができるほどに「おにぎり」の知名度を高めていったその過程と、長年の経験で培われた商売に対する考え方は、多くのビジネスパーソンの参考となるに違いない。

ライター画像
下良果林

著者

本多 利範 (ほんだ・としのり)
1949年3月5日、神奈川県生まれ。1971年明治大学政治経済学部卒業。1971年(株)大和証券入社。1977年(株)セブン‐イレブン‐ジャパン入社。同社のボードメンバーとして「単品管理」「仮説検証の仕組み」「物流・情報システム」など、日本のコンビニエンスストア業界の基礎をつくる。1998年ロッテグループ専務取締役。経営危機にあった韓国セブン‐イレブン(コリアセブン)の再建に招かれ、2001年に黒字化、店舗数を130店から1500店まで増やす。おにぎりをヒットさせ、韓国で珍しかった専用の米飯工場を創設するなど、同国のコンビニエンスストアの発展に寄与。2003年(株)スギ薬局専務取締役。コンビニエンスストア業界で培ったチェーンストア理論を取り入れ、マーチャンダイジングやマネジメント、情報システムなどを整え、一部上場企業としての基礎を固める。2005年ラオックス(株)代表取締役社長兼営業本部長。ファンド資本の下で同社の再建を図る。家電業界にチェーンストア理論を応用するほか、秋葉原発信の新業態開発にも取り組み、現在の「アキバ」文化のベースづくりに貢献する。2008年(株)エーエム・ピーエム・ジャパン 副社長執行役員、2009年同社代表取締役社長。赤字体質からの脱却を目標に収益改善をし、ファミリーマートへの売却の道筋をつける。2010年(株)ファミリーマート常務執行役員、2015年同社取締役専務執行役員。食品及び、物流・品質管理の本部長を兼任するほか、これまでの経験を活かし、コンビニエンスストアと薬局やスーパーマーケットなど、異業種との一体型店舗などをつくりあげる。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代は「モノがないから買う」時代ではなく「目を引くから」「自分へのご褒美に」といった「刺激」を求めてモノを購入する時代である。どういう状況なら財布のひもを緩めてくれるのか、を考え抜く必要がある。
  • 要点
    2
    マーケティングは特別なことではない。季節やイベントといった要因から何が売れるのかを予測し、チャンスを逃さないようにきちんと売れる見込みのある商品を確保し、しかるべきタイミングで売る。この精度を上げることが重要である。

要約

コリア困ったセブン

韓国のコンビニ事情
Vorawich-BoonsengiStock/Thinkstock

コンビニエンスストアの基本は、顧客の望む品揃えがどこまでできるかにある。日本の業界トップであるセブン‐イレブンの成長を支えた要因のひとつに、おにぎりや弁当といったフードの充実があった。フードは毎日の生活に欠かせない商品であるとともに、セブン‐イレブンのオリジナル商品であるため利益率が高く、競合他社との差別化もしやすい商品であった。

日本のセブン‐イレブン本部で商品開発に携わっていた著者が、韓国ロッテグループが運営するコリアセブン(韓国のセブン‐イレブン)の立て直しのために韓国に赴任したのは1998年のことである。しかし当時のコリアセブンではフードが売れていなかった。その背景のひとつが、韓国の街のいたるところで見かける「クモンカゲ」という雑貨屋の存在である。一坪ほどの広さの店内には、酒やたばこ、飲料、インスタントラーメン、菓子類までひと通り揃えられている。そして街頭では海苔巻きが立ち売りされ、よく売れていた。

コカ・コーラのないコンビニ

コリアセブンの問題は競合やフードだけではなかった。コンビニエンスストアの基本である、クリンネス(清掃)や、フレンドリー(接客)、商品陳列など日本のコンビニエンスストアと比較すると、なにもかもできていなかった。

さらに店舗の品ぞろえにも問題があった。飲料、牛乳、ハム・ソーセージ、菓子など並んでいる商品の大多数がロッテグループのものだった。コリアセブンはロッテグループが経営しているため、棚はロッテ製品で埋め尽くされ、さながらロッテのショールームと化していたのだ。この顧客不在の売り場では、ロッテグループ会社がペプシコーラを製造販売しているという理由で、世界中で圧倒的に売れているコカ・コーラですら置いていなかった。

著者は経営サイドのエゴではなく、顧客が望む商品を置かなければ。顧客は他の店に流れていき、店は利益を逸してしまうことを社内外で説いた。さらに競合コンビニエンスストアではペプシコーラよりコカ・コーラのほうが売れていることも突き止め、最終的にはコリアセブンにもコカ・コーラが置かれるようになった。このケース以降は、各カテゴリの商品はメーカー目線ではなく、顧客目線で見直し、実際に韓国で売れている商品を扱うようになった。

おにぎり革命

美味しいおにぎりへの道
Amarita/istock/Thinkstock

著者が赴任した当時のコリアセブンの店頭では、おにぎりをはじめとするフードはわずかに数個が置かれているだけ。味も良いとは言えなかった。韓国では「冷めたフードはお金のない人が食べるもの」とされていて、積極的な施策が行われていなかったのだ。

しかしフードは利益率が高く、店舗の収益に直結する重要な商品である。さらに自社でオリジナルの美味しいおにぎりを開発すると他社との差別化もできる。著者はこのことを韓国人スタッフに力説したが「自社で商品開発をしても、競合他社に真似をされてしまうので意味がない」と言い返されてしまった。当時の韓国では、どこのコンビニチェーンでも同じ食品ベンダーを使っていたため、例えヒット商品を出したとしても、その製造方法がすぐに競合他社に漏れる危険があったのだ。

ツナマヨと海苔

著者は、他社に真似されないような、おにぎりの開発に乗り出すとともに、コリアセブン専用の食品ベンダーを設立することにした。

おにぎりの開発にあたっては、日本で一番売れている具材、ツナマヨの再現に苦労した。韓国のマヨネーズは卵黄がほとんど含まれず卵白主体で作られていて、日本のものとは風味が相当異なるものであった。原価を抑えつつ日本のマヨネーズの味に近づけるのに約二か月を要した。

またおにぎりの肝である海苔でも問題があった。厚さが一定でぱりっとした日本海苔と固い食感とあえて繊維を残して厚さにムラのある味付けの韓国海苔のどちらが美味しいのか侃々諤々の討議となったのだ。

社内全体を巻き込んだ議論が尽くされ結果、双方の良いところを合わせた折衷案に落ち着いた。この海苔議論はコリアセブンの社内に「本当に美味しいものをつくろう」という気運を広げ、一体感を生むことになった。

韓国初のおにぎりのTVCM

2001年1月、コリアセブンのおにぎりラインナップは、ツナマヨに加えてキムチプルコギなどを含め全8種となった。他にキムチだけを詰めたおにぎりも開発したが、韓国の食堂ではキムチは無料で提供されており、顧客はキムチをただ白米に入れただけのものには価値を見出さなかった。外国人の著者ならではの失敗だった。その失敗を踏まえ、韓国人にも価値を見出してもらえるような魅力的なおにぎりを追求していった。

だがどれほど魅力的なおにぎりをつくっても、来店してもらえなければ意味がない。そこで着手したのが、

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要約公開日 2017.02.24
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