佐藤オオキのボツ本

未読
佐藤オオキのボツ本
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佐藤オオキのボツ本
出版社
出版日
2016年12月09日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

華々しい完成品の裏で、日の目を見ることなく葬り去られたボツ案。こう聞くとマイナスイメージを抱く方も多いだろう。しかし、ボツ案に至るまでのデザイナーの葛藤や苦悩にこそ、本質的な価値があると著者はいう。

本書は「ボツを活かして最高のアイデアを生む」という逆転の発想を体現した画期的な書である。しかもそれは単に「失敗は成功のもと」という話にとどまらない。大量のボツ案を生みながらもベストな案を導き出す中で、プロジェクトの推進力やチームの結束までも高めてくれるというから興味をそそられる。

著者の佐藤オオキ氏は、デザインオフィスnendoを率い、現在400以上のプロジェクトを同時進行させているという。その中でボツ案が生まれるプロセスを「見える化」し、アイデアの生み出し方、プロジェクトの動かし方、思考の整理術という形で披露している。クライアントの業界における根本のコンセプトを考え抜いたうえで、それをプロダクトのデザインや見せ方にどう落とし込んでいくのか。こうしたプロセスの肝が、わかりやすい図式や実際のデザイン案とともに紹介されている。しかも、理美容業界のタカラベルモント、早稲田大学ラグビー蹴球部、重工業のIHI、かばん製造販売のエース、ロッテなど、「ここまで公開していいの?」と心配になるくらい、登場する事例も大盤振る舞いである。

著者渾身のボツ案から、プロジェクトメンバーが画期的な着想を得る過程を存分に追体験していただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

佐藤 オオキ
デザインオフィスnendo代表
1977年カナダ生まれ。2000年早稲田大学理工学部建築学科首席卒業。2002年同大学大学院修了、デザインオフィスnendo設立。建築、インテリア、プロダクト、グラフィックと多岐に渡ってデザインを手がける。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」に選出され、Wallpaper誌(英)、および、ELLE DECOR誌のデザイナー・オブ・ザ・イヤーをはじめとする世界的なデザイン賞の数々を受賞。作品はニューヨーク近代美術館(米)、ビクトリアアンドアルバート博物館(英)、ポンピドゥー・センター(仏)など世界の主要美術館に多数収蔵されている。著書に『ウラからのぞけばオモテが見える』(日経BP社)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ボツ案は発想を磨き上げるための宝の山である。多数の案をボツにして、一つの方向性に絞り込む中で相当な覚悟を迫られることがプロジェクトの推進力となる。
  • 要点
    2
    複数の課題の解決策を出したいときは、2つのテーマに絞り込んで、その重なったレイヤーを串刺できるアイデアを多く出し、組み合わせていく「レイヤー型」のボツ活用法が役に立つ。
  • 要点
    3
    デザイナーが業界の慣習や常識に縛られず、面白いと思う提案を投げかけることで、クライアントも意見を言いやすくなり、議論が活発化する。

要約

ボツ案は宝の山?

デザインオフィスの舞台裏

新商品開発や定番商品のリニューアル、企業のコミュニケーション戦略の立案。著者が率いるデザインオフィスnendoには、こうした多彩な依頼が寄せられ、現在400以上のプロジェクトが同時進行しているという。

著者は、クライアントへの提案の数・質・スピードすべてを満たすことを重視している。クライアントにユーザー視点でデザインをとらえてもらい、議論を活性化させるのが狙いだ。

まるで息をするように渾身のデザインを生み出す舞台裏では、当然、大量のボツ案が積みあがっている。このボツ案にこそ、最高の発想を生み、プロジェクトを成功させるための本質が宿っているというのだ。

【必読ポイント!】 未来を導くボツ案

ボツをプロジェクトの推進力に変える

著者のもとにくる依頼内容は、「自社商品の売り上げを増やしたい」、「自分たちの得意な技術を活かして新規事業を立ち上げたい」など、多岐にわたる。こうした課題に対し、解決までの道筋と、その解となるデザインを示すのが著者の役割である。そのため、企業の経営戦略によって、おのずと提案するアイデアは異なってくる。

著者が心がけているのは、「極端に方向性の異なる案を多角的に提案すること」である。例えば、挑戦的な案と、徹底的に安全な案を提示し、各戦略に応じた商品やパッケージ、コミュニケーションをデザインする。すると、クライアント企業は多数の案をボツにして、一つの方向性に絞り込む中で、相当な覚悟を迫られる。こうして、絞り込んだ案をメンバー全員で磨き上げるにつれ、プロジェクトの成功確率が高まっていく。つまり、ボツ案がプロジェクトを推進するエンジンとなってくれるのだ。

理美容業界に横たわる3つの課題を解決するには?
dolgachov/iStock/Thinkstock

複数の事業組織の課題を解決する新規事業を創造する際、著者はどのようにボツを活用していったのだろうか。ここでは、著者のクライアントで、理美容業界に長い歴史を持つタカラベルモントの例をとり上げる。

理美容業界は次の3つの課題を抱えている。1つ目は低価格化が進み、利用客の来店サイクルが長期化するという「市場の変化」である。2つ目は若いスタッフの技術力の育成が難しく、離職率も高いことによる「人材不足」。そして3つ目は利用客の嗜好の多様化によって、新しいサービスモデルの開発が進まないという「新コンセプトの欠如」だ。同社はこれらを解決する先見性の高いビジネスを生み出すことで、企業のブランディングにもつなげたいと考えていた。

著者はまず、同社の中で、理美容室向けの椅子を扱う「機器部門」、シャンプーなどの製造、販売を行う「化粧品部門」、そして理美容室向けインテリアデザインを提案する「空間部門」の3つの事業部を横断したプロジェクトチーム設置を提案した。部門同士が課題を共有し、ともに会社の未来を考えることが議論の活性化につながるという狙いだ。

著者は、3つの問題の解決の糸口を探すべく、まずは「機器」、「化粧品」、「空間」の3領域を書き出した。そして、そのうち2つの事業領域の共通課題を浮かび上がらせようとした。これには、1つの解決策を他の状況に重ねて新たなアイデアを炙り出すという著者の狙いがあった。

例えば「機器」の領域で、「立ち姿で全身のプロモーションを見ながらカットできるハイスツール」というアイデアを思いついたとする。今度は、これを「空間」の領域にも応用できないか考えてみる。すると「ハイスツールを使えば省スペース化が可能なので、空間の有効活用ができるかも」、「カットに特化して、カットの技術とスピードを売りにした高単価な理美容室はどうか」というように、隣接領域の課題解決につながるアイデアが出やすくなる。

逆張りの発想と、他業界のアナロジー
Foxys_forest_manufacture/iStock/Thinkstock

アイデアを増殖させる効果的な方程式はほかにも存在する。例えば、人が当然だと思ってきたものに対し「それを逆手にとるとどうなるか?」と考えてみる。これは「逆張りの発想をする」という方程式だ。

つづいて、「ほかの業界にたとえるとどうか?」といった、アナロジーを使った方程式も有効だ。

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要約公開日 2017.02.16
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