トヨタの伝え方

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出版社
出版日
2016年08月02日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

1937年の設立以来、時代とともに成長し、2016年時点では営業利益2兆円を超えるトヨタ自動車。そんなトヨタで生まれたコミュニケーション術「トヨタ式」の42のポイントを紹介したのが本書である。

トヨタ式には、「付加価値をつけて伝える(何かを伝えるときは、新たな価値を加えた上で渡す)」「相手の負担をなくすように伝える(伝える内容を紙1枚にまとめ、理解する労力を相手に押しつけない)」「伝えたあともフォローする(相手が行動を起こすまで徹底的につきあう)」の3本の軸がある。そして「伝える」とは、伝えたことを最終的に相手が正しく実行したときに完結する行為であると定義している。つまり一方的な行為ではないということだ。たとえば、部下に仕事を教えたにもかかわらず、相手が教えた通りに行動しないのであれば、それはトヨタ式では「伝えた」ことにはならない。著者は、相手の理解度を責めるのではなく、自身の伝え方はどうだったかを見直すよう提言している。また円滑に意思疎通を図るには、相手を尊重し、人間関係を深めることが重要だとも述べている。

ちなみに、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスも、このトヨタ式について学び、活用していたという。多くの企業が赤字にあえぐなか、好業績を維持してきたトヨタが育んできた「人を動かす伝え方」を身につけて、職場に新しい風を吹き込んでみてはいかがだろうか。

ライター画像
名久井梨香

著者

桑原 晃弥(くわばら てるや)
1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。業界紙記者、採用コンサルタントなどの分野で実績を積んだ後、ジャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で知られたカルマン株式会社の顧問となって、トヨタ式の実践現場や大野耐一直系のトヨタマンを幅広く取材。トヨタ式の書籍、テキストなどの制作を主導した。一方で、スティーブ・ジョブズなど成功した個人の研究もライフワークとし、ビジネススキルから人材育成まで鋭い発信を続けている。
著書に『トヨタ 最強の時間術』『スティーブ・ジョブズ名語録』(以上PHP研究所)、『ゼロを1つ取るトヨタ式発想革命』(電波社)、『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『フェイスブックをつくったザッカーバーグの仕事術』(幻冬舎)、『ジェフ・ペゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『スティーブ・ジョブズだったら、こうするね!』(あさ出版)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    本書はトヨタで生まれたコミュニケーション術「トヨタ式」を紹介した一冊である。「伝える」とは、最終的に相手が正しく実行したときに完結する行為だと位置づけられている。
  • 要点
    2
    トヨタ式では、「付加価値をつけて伝える」「相手の負担をなくすように伝える」「伝えたあともフォローする」ことを重視している。
  • 要点
    3
    部下に考える余地を残したり、相手の知恵を引き出したりする工夫に加え、うまく伝わるような人間関係を築くことも重要である。

要約

思考を整理する

伝える前に自分の思考を整理しておく
peshkov/iStock/Thinkstock

わかりやすく物事を伝えるには、「何をどのように伝えるべきか」を、事前に自分の頭の中で考えておく必要がある。言いたいことが伝わらないのは、決して相手の理解力が足りないからではなく、言いたいことを整理できていないという、伝える側の思考不足のせいだ。よく整理された内容ならば、ストレートに伝えるだけで、誰もが理解できる。話し方や文章術のような「伝える」テクニックよりも、「伝わる」ように内容を整理することを重視するほうが、成果につながる。

シンプルなメッセージほど相手に伝わりやすい

トヨタ式には「付加価値をつけて伝える」という思想がある。これは、「1」の情報を「1」として伝えるのではなく、「2」「3」ときには「10」にしなければならないということだ。しかし、情報量が多くなればなるほど、相手には伝わりにくくなってしまう。

そこで、トヨタ式ではシンプルに思考をまとめるための2つの方法が存在する。それは、「伝えたいことにタイトルをつける」ことと、「伝えたいことを3つにまとめる」ことだ。トヨタでは、資料づくりの際、プレゼンソフトを使わずに、A3またはA4サイズの紙1枚にまとめるよう決められている。なぜなら、量が多いと読む側の負担が大きくなるうえに、発案者が資料のレイアウトや図表の作成に時間を費やして、考え抜く作業をおろそかにしてしまうからだ。このように、シンプルにまとめる習慣が、ムダのない考え方をする思考風土を生み出している。

異論を常に想定し、プランBを用意する

伝える力を身につけるのに効果的な方法の一つは、常にプランBを用意することである。たとえどんなにプランAが素晴らしいアイデアだとしても、それはあくまで主観的推測に過ぎない。代替案と比較検討することが求められる。

もし異論がないとしたら、自分自身で異論を想定することが欠かせない。異論がないということは、リスクや失敗の恐れを考慮しにくくなることにほかならない。それらを気に留めないと、万一のトラブルに対応できなくなってしまう。

また、トヨタでは「予測値」「いい情報ばかりのデータ」「課題のない報告」などの資料はNGとされた。最もムダなのは、現場を見ていない報告である。自分の思い込みやネットの情報を頼りにした提案は、現実離れしており、結局は役に立たないからだ。現地現物に即した情報こそが、高い説得力を持ち、相手をうなずかせる。

相手を大切にする

見える化でモチベーションアップ
Zhenikeyev/iStock/Thinkstock

目標を達成できる人とできない人の差は、目標を数値化したり、期限を設けたり、他の人と目標の達成状況を共有しあったりするなど、目標の「見える化」でモチベーションを高められるかどうかにある。人間は、目標を達成するための道筋が不明瞭になっていると、なかなか達成に向けた意欲がわかない生き物なのだ。

また、目標を立てたら「やり切る」のがトヨタ式である。やり切るためには、当事者だけでなく、関係者みんなが関心を持ち続けられるような環境をつくることが必要となる。

率先垂範で熱意を示す

熱意を見せない人の言葉は、たとえ正論であっても相手の心に伝わらない。人の心を動かすには、熱意を示すことが何よりも大切である。熱意が「伝わる言葉」や「協力したくなる行動」に変化していくと、黙っていても相手が協力してくれるようになる。

指示はするが行動で示さない者は、口だけだと思われてしまう。しかし、みんながなかなか動かないときこそ、言い出した者が率先して行動を起こせば、周りからも信頼を得られる。自ら動くことで、伝わる速度が一気に加速される。

伝え上手は聞き上手

ビジネスで大切なのは、「話し合い」よりも「聞き合い」である。相手の意図やニーズをくみ取り、相手の懸念や課題に耳を傾けて意識するからこそ、豊かに伝えることができる。もし相手に話が伝わらないとすれば、それは自分に聞く態度が不足しているからだろう。相手の意見に耳を傾け、信頼関係を築きながら仕事を進めることこそ、実は最もスピーディーなやり方である。

【必読ポイント!】 行動に移してもらう

励ますだけで終わらせない

トヨタ式では、伝わったかどうかは、相手がその内容を実行に移したかどうかで判断される。部下に改善を促したいからといって、「がんばろう」と励ますだけでは無意味だ。

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要約公開日 2017.03.01
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