機会発見とは、「枠外の視点を探索して、統合・構造化によって新しい市場の可能性を創出する」アプローチだ。残念ながら、MECEなどに代表されるような、既存の問題を分析的に解くアプローチが有効なケースはかぎられている。状況が明確で、データが取得しやすく、論理的意思決定によって大きな成果が見込めるときにしか、分析的アプローチは効果をうまく発揮できないのだ。
まだ存在しない新しい市場では、取り組むべき問題が不明確で、定量的なデータ収集が難しいことも少なくない。そうした場面において、機会発見アプローチは枠外の視点を探索し、定性情報を拾い集め、それらを統合的に操作することで、新しい市場を創造するための糸口を見出していく。
たしかに成熟化した市場においても、カイゼンを積み重ねることによって、「いまよりいいもの」を創りだすことは十分可能だろう。だが企業が大きく成長するためには、「いままでにないもの」、つまり革新的な製品・サービスの開発が急務である。そうしたとき、機会発見アプローチが役に立つのである。
機会発見における「機会」とは、これまでの常識にはない製品・サービス・事業を生み出すための「見立て」のことだ。そして、成熟市場において「事業領域の設定」と「製品の企画」の橋渡しとして、新しい機会を特定すること。それが機会発見である。
たとえば、今ではおなじみのノンアルコールビールも、「ビール製品といえばアルコール飲料である」というそれまでの常識を覆したものである。それを可能にさせたのは、「ビールの気分で飲めるノンアルコール飲料」という新しい機会を特定できたからに他ならない。
新しい機会を発見することは、新しい製品・サービス・事業を生み出す土台となる。機会とはいわば製品企画の「根拠」であり、「発想のジャンプ台」だ。ジャンプ台なき発想は、方向感が定まっていないため、レベルの低いものになりがちである。たとえば、単に「新しいビールを」という土台では、なんでもありになってしまい、うまくいく確率にバラつきがでてしまうだろう。「ビールの気分で飲めるノンアルコール飲料」というように、具体的に機会を特定するからこそ、不安定な市場でも安定した成果を求めることができるようになるというわけである。
くわえて、機会をきちんと特定しておけば、仮に製品の企画がうまくいかなくても、振り出しに戻ることなく、ふたたびその機会に立ち返って、製品企画をやり直すことができる。製品がうまくいくかどうかは、そもそも個別の事情に大きく左右されるものだ。確度の高い機会を捉えておけば、ふたたびその機会を土台にして別の製品を検討することができるようになる。
イノベーションという概念は日本に導入された際、「技術革新」と翻訳されていた。このことからもわかるように、イノベーションはこれまで、技術起点の文脈で語られることが多かった。だが近年、こうした状況が少しずつ変化してきており、イノベーションの源泉が「技術起点」から「生活者にとっての価値起点」へと移行しつつある。技術の進化が一定のレベルに達した結果、技術だけでは顧客にとっての価値創出に結びつかないケースが多いからだ。
実際、いま起きているイノベーションは、技術の革新性ではなく顧客体験の革新性を源泉としている。
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