意思決定の心理学
脳とこころの傾向と対策

未 読
意思決定の心理学
ジャンル
著者
阿部 修士
出版社
定価
1,430円(税込)
出版日
2017年01月11日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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脳とこころの傾向と対策
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阿部 修士
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出版日
2017年01月11日
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レビュー

生きているということは、言ってみれば連続的意思決定の状態である。食べ、歩き、読み、休む――私たちは、生きている限り常に何らかの判断をしつづけている。この判断はどのように行われているのか。また、理性と感情が対立するような難しい道徳的判断の場合には、どんな心理的メカニズムが働くのか。本書は、脳科学に関する最新の研究成果を紹介しながら、こころのはたらきについて考察している。

本書のベースになっているのが、意思決定には直観や欲求などの「速いこころ」と論理的な「遅いこころ」がかかわっているとする「二重過程理論」だ。二重過程理論は、心理学において歴史のある理論であり、さまざまな研究者が類似の理論を提唱しているという。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』で、この理論を知ったという方もいらっしゃるのではないだろうか。

脳科学の著しい発展によって、生きた人間の脳活動を間接的に測定できるようになったいまは、二重過程理論を想定しつつ、意思決定のとき、実際に脳がどのように動いているのかを知ることができる。人工知能の研究と神経生理学の研究が、互いに影響し合いながら進んできたように、心理学は脳科学の成果を取り入れながら、着実に進んでいるようである。

「午後のほうがズルしたくなる」「素早く決断する時のほうが他者への協力度合いは高くなる」など、興味深いトピックを楽しみながら、最新の心理学を理解できる著書である。

ライター画像
谷田部卓

著者

阿部 修士(あべ のぶひと)
一九八一年北海道釧路市生まれ。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻博士後期課程修了。博士(障害科学)。東北大学大学院医学系研究科助教、ハーバード大学心理学科/日本学術振興会海外特別研究員、京都大学こころの未来研究センター助教を経て、同センター上廣こころ学研究部門特定准教授。専攻は認知神経科学。健常被験者を対象とした脳機能画像研究と脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究によって、主にヒトの正直さ・不正直さを生み出す脳のメカニズムについての研究を進めている。平成二七年、日本心理学会国際賞奨励賞受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    意思決定は、直観的思考や欲求などの自動的な「速いこころ」と、合理的判断や自制心などの意志の力による「遅いこころ」の二種類でなされているというのが、この分野における重要な理論である、「二重過程理論」である。
  • 要点
    2
    普段の意思決定の大半は、「速いこころ」が自動的にしている。余裕がある状況下では、「遅いこころ」が熟慮に基づく意思決定をし、より合理的な行動を選択している。
  • 要点
    3
    お金などのかかわる意思決定では、「速いこころ」を「遅いこころ」によってうまく制御できないことがある。しかし、欲求の対象から意図的に気をそらしたりすることで制御できることもある。

要約

【必読ポイント!】 意思決定の理論

二重過程理論

意思決定にかかわるこころのはたらきには、情動的反応や直観的思考、欲求などの自動的な「速いこころ」と、合理的判断や論理的思考、自制心などの意志の力による「遅いこころ」の二つの種類があると考えられている。この二種類のシステムを想定し、人間の意思決定を説明する理論は、「二重過程理論」と呼ばれる。二種類のシステムについて学術的によく使われる呼び名が、「システム1」と「システム2」である。

たとえば、お菓子屋さんのショーケースでケーキを見たとき、食べたい、と瞬間的にパッと思うのは、システム1のはたらきである。そして、食べたいけれどカロリーと出費のことを考えて我慢しようとするのが、思考に基づく理性や自制心などによるシステム2のはたらきである。

システム1は、自動的に働き、論理性よりも直観に依存している。どちらかと言えば非言語的であり、知能や処理能力とはあまり関係ないとされている。システム1の中核にあるのは欲求や情動だが、文字があれば無意識に読む、周りで音がしたら振り返るといったプロセスも、システム1によるものだ。

一方で、システム2は、システム1のはたらきにブレーキをかけようとする意志の力といえる。学習によって獲得された論理性や、特定のルールに基づいて思考が展開されるため、言語に依存する部分が大きい。長期的な利益を勘案することも可能である。

システム2を働かせるには、ある程度集中力を必要とする。このため、システム2では一度に処理できる量には限界があり、同時に複数の仕事を掛け持ちすることができない。また、連続して機能させることも難しい。これらは様々な実験によって裏付けられている。

システム1とシステム2の相互作用
monsitj/iStock/Thinkstock

システム1の存在によって、わたしたちは外界の刺激を素早く評価し、危険な場所からとっさに逃げるなど、緊急時に迅速な行動を起こすことが可能となる。また、膨大な情報量に飲み込まれることなく行動できるのも、システム1が働いているからだ。一方、余裕がある状況下では、システム2の熟慮に基づく意思決定で、より合理的な行動をとれる。システム1は自動的駆動であり、システム2は意識して処理するメカニズムといえる。

このシステム1とシステム2は、対等な関係ではない。普段は、自動的なはたらきであるシステム1が仕事を担っており、特に問題が無いかぎりシステム2は稼働しない。外界の情報に対して、システム1は敏感であり、システム2は鈍感であるともいえる。

これらのシステムについて、本書が明らかにしようとする問いは下記のとおり2つある。どちらも、意思決定のしくみと、それに伴う脳のはたらきを考える上で大事な問いだ。

・システム1のはたらきは、システム2のはたらきでコントロールできるか?

・システム1とシステム2を、脳のはたらきで十分に説明できるか?

前者は、意思決定において、「速いこころ」は「遅いこころ」によって統制されるのかということである。後者の脳の問題については、限定したプロセスであれば、「速いこころ」と「遅いこころ」それぞれの、脳の対応領域をある程度特定できるようになってきているという。両方の問いを手掛かりにしながら、次項以降、さまざまな研究成果を紹介する。

「自制心」の研究

マシュマロテスト
EvgeniiAnd/iStock/Thinkstock

「遅いこころ」が、「速いこころ」をコントロールできるという可能性は、「マシュマロテスト」と呼ばれる心理学の実験によって示されている。米国スタンフォード大学の心理学者であるウォルター・ミシェルが、保育園の子供たちに対して行なった実験である。個室にいる子供の目の前に、マシュマロを1個置く。そして、大好きなマシュマロを今すぐ1個もらうか、それとも20分待ってから2個もらうか、子供たちに選ばせるというものだ。

目の前にあるお菓子という誘惑に抗えるかどうかは、当然個人差がある。が、はっきりとした傾向として、目の前にあるマシュマロを見たり、さわったりする子供はマシュマロを食べてしまいがちなこと、マシュマロから注意をそらそうとする子供は我慢できる場合が多いことが認められた。このシンプルな実験からは、「速いこころ」である欲求と、「遅いこころ」である自制心がどのように日常生活で働いているかを観察することができる。

また、マシュマロテストを受けた子供達を追跡調査すると、

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