デザインの次に来るもの

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ジャンル
出版社
クロスメディア・パブリッシング

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出版日
2017年05月01日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

EUでは、2020年に向けた成長戦略で6つの重要なプロジェクトを定めた。その1つにイノベーション政策があり、その政策には、日本では耳慣れない「デザイン・ドリブン・イノベーション」という手法が取り入れられている。本書では、このデザイン・ドリブン・イノベーションによって果たされる「意味のイノベーション」が詳しく解説されている。

イノベーションと聞くと、多額の技術開発費を投じる必要があり、中小企業では取り組みにくいという印象があるかもしれない。しかし、本書を読むと「意味のイノベーション」なら中小企業でも実践に移しやすいことが実感できる。「意味のイノベーション」とは、製品の仕様やパッケージを変えることなくイノベーションを起こす方法にもなり得るからだ。

著者たちは「そもそもデザインとは何か」という根源的な疑問からEUにおけるデザインとビジネスの現状、最先端の研究結果まで、余すことなく紹介してくれる。さらには、日本の中堅・中小企業が意味のイノベーションを起こす意義や、実現のためのアプローチ方法についてもカバーされている。そういう意味で、ビジネスにおけるデザイン全般をしっかり学び、事業でデザイナーやクリエイターとのコミュニケーションを円滑に進めたいビジネスパーソンにとって、実践を促してくれる非常に有用な一冊といえるだろう。デザイン・ドリブン・イノベーションの奥義を学びたいのなら、迷わず本書をお読みいただきたい。

ライター画像
新井作文店

著者

安西 洋之(あんざい ひろゆき)
モバイルクルーズ株式会社代表取締役。いすゞ自動車に勤務後、1990年よりミラノと東京を拠点としたビジネスプランナー。多くのデザインプロジェクトに参画。また、異文化理解アプローチ「ローカリゼーションマップ」を考案し、執筆や講演などの活動を行う。著書に『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『イタリアで、福島は。』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヨーロッパの目 日本の目』(日本評論社)。共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?』(日経BP社)。毎週、SankeiBizにコラム「安西洋之のローカリゼーションマップ」を連載。
「ローカリゼーションマップ」
http://www.localizationmap.com/

八重樫 文(やえがし かざる)
立命館大学経営学部教授、立命館大学デザイン科学研究センター長。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。デザイン事務所勤務、武蔵野美術大学助手、福山大学専任講師、立命館大学准教授を経て現職。2015年度ミラノ工科大学DIG(Dipartimento di Ingegneria Gestionale:経営工学研究所)客員研究員。専門はデザイン論、デザインマネジメント論。著書・訳書に『デザイン・バイ・マネジメン』(共著、青山社)、『デザイン・ドリブン・イノベーション』(監訳/訳、クロスメディア・パブリッシング)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    EUでは「デザイン思考」以外にも様々な手法を用いて、デザインによるイノベーションをめざしている。
  • 要点
    2
    特に注目すべき手法は、「デザイン・ドリブン・イノベーション」である。この手法は単に製品の色やカタチを変えるのではなく、製品に新しい意味を見出すことを目的とする。
  • 要点
    3
    デザイン思考では、課題を設定するのが難しいという弱点がある。その解決策となるデザイン・ドリブン・イノベーションにおいては、各専門家の見解をネットワーク化し、デザインの課題を見出すことが出発点となる。

要約

ヨーロッパはこう動いている

「デザイン思考」一本やりではないEU

まずはEUの成長戦略がどのように定められたのかを振り返ろう。リーマンショックの影響でGDPが年4%も下落したEUは、2010年に生産性と競争性の向上をめざすために、現実的な成長戦略を必要とした。2000年に立てた「リスボン戦略」を「欧州2020」に改め、その中でイノベーション政策に取り組むことを決めた。

EUのイノベーション政策は、デザインがイノベーションを牽引できるという認知を広めることが期待されている。中でも注目すべき点は、人を対象として重んじる「ユーザー中心デザイン」と、それを基礎にデザインの考え方やプロセスをビジネスパーソンが活用できるように体系化した「デザイン思考」、そして日本ではまだ耳慣れない「デザイン・ドリブン・イノベーション」という3つのアプローチを重視するという点だ。

こうして2011年に欧州デザインリーダーシップ評議会が設置され、2013年には「EUにおけるデザイン・ドリブン・イノベーションに向けたアクションプラン」が策定されている。

イノベーションの対象は中小企業
Rawpixel Ltd/iStock/Thinkstock

2016年には、EUで中小企業に向けたデザイン導入教育が始まった。なぜ中小企業をターゲットにしたのだろうか。

EUが調査した企業のうち79%が、「2011年以降に1つでもイノベーションを導入した」と回答し、3年間で25%もの売上増加を果たしていた。しかし、従業員500人以上の企業の85%がイノベーションに取り組めたのに対し、10人未満の企業は63%にすぎなかったという。そのうち、71%の企業が「資金不足」を原因としていた。

このように、技術開発に依存していると、開発投資がかさみ継続性が保たれない。デザイン思考によりイノベーションを図ろうとしても、ユーザーの意見を重視する手法であるため、「変革を遂げたい」という内なる動機を持つ中小企業の経営者にはマッチしづらい。そこでEUは「デザイン・ドリブン・イノベーション」に注目した。

EUのイノベーション政策立案者は次の2つの選択肢を考えた。1つは、テクノロジー開発の背中を押すことだ。もう1つは、市場に新しい意味をもたらす土壌を作ることである。この「新しい意味」をもたらすのが、「デザイン・ドリブン・イノベーション」の狙いだ。

デザイン・ドリブン・イノベーションとは何か
Smileus/iStock/Thinkstock

技術が「How」を求める一方、新しい意味は「Why」を追求する。その具体例として、EUの中小企業向けデザイン導入コースでデザイン・ドリブン・イノベーションを担当するクラウディオ・デレッラは、ロウソクを挙げている。

電気のない時代、ロウソクは灯をともす道具だった。しかし電気が普及した現在もロウソクは使われている。その理由は、例えば特別な日の食卓に雰囲気を添えるといった、新しい意味を生み出したからだ。

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要約公開日 2017.11.03
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