大前研一ビジネスジャーナルNo.16

人材戦略は「軽く・薄く・少なく」 ~20世紀の人材観が会社を滅ぼす~
未読
大前研一ビジネスジャーナルNo.16
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人材戦略は「軽く・薄く・少なく」 ~20世紀の人材観が会社を滅ぼす~
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大前研一ビジネスジャーナルNo.16
出版社
出版日
2018年09月28日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

大前研一氏による経営者向けセミナーの内容を再編集し、各テーマの最先端の動向をわかりやすく解説した本シリーズ。今回のテーマは、企業の命運を左右する「人材戦略」である。

人材戦略をゼロベースで見直さなければ、自社の未来は危ういのではないか? 優秀な人材に選ばれる会社になるために、そして本質的な人材確保・育成の施策を経営陣に腹落ちしてもらうために何ができるのか? こうした危機感を抱く方、とりわけ戦略人事にこそお読みいただきたいのが本書だ。具体的なトピックは、日本企業の人材戦略の問題点、北欧の労働市場改革のキーワード「フレキシキュリティ」、10年後の企業に真に必要な人材像を具体化する方法、企業を活性化させるシニアキャリアパスのつくり方などだ。

「人材戦略は『軽く・薄く・少なく』すべき」と唱える大前氏は、いったいどのような構想を描いているのか。読者の期待どおり、大前氏の指摘や提言はどれも核心を突いており、一気読み必至だ。また、その的確さに爽快な読後感が得られることだろう。提言の根拠も明確であるため、21世紀型の人材戦略を具体的な施策に落とし込み、経営陣を説得する際の材料としても有効活用できる。このように、極めて実践志向な一冊といえる。

21世紀型経営に舵を切るための戦略人事の要諦を学びたいのなら、読むべきは本書だ。

ライター画像
松尾美里

著者

大前 研一(おおまえ けんいち)
株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長
1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本企業の人材戦略の根本的な問題は、新卒一括採用と自前主義によって、人を抱え込んでいるという点だ。21世紀の人材戦略は「軽く、薄く、少なく」である。コア社員に絞り込んで人材を抱え、それ以外は外部人材の活用やアウトソーシング、自動化を検討するという発想が求められる。
  • 要点
    2
    経営戦略と人材戦略の整合性をとることが重要だ。幹部候補を選び、フォローするためには、各社員の適性の理解と最適な仕事のアサインを可能にする「人事ファイル」の作成が欠かせない。
  • 要点
    3
    日本に必要なのは、フレキシキュリティを促す本気の構造改革、労働市場改革である。

要約

【必読ポイント!】 「みんなで頑張ろう」は崖にぶつかるのが早まるだけ

多くの日本企業で起きている「雇用の膠着化」

20世紀の経営資源は「ヒト、モノ、カネ」だったが、21世紀の経営資源は「ヒト、ヒト、ヒト」である。会社の方向性を転換するほどの才能をもつ尖った人材を発掘し、育てることが、重大な経営課題の1つとなっている。

日本企業の現状とはどのようなものか。まず、他国と違って、まだまだ終身雇用が続いている。また、経済成長期に大量に雇用された「高齢化した人たち」に対する有効なソリューションを見出せていない。早期退職を促しても、自由に解雇できず、「雇用の膠着化」が起きているのだ。

日本企業の人材戦略の根本的な問題は何か。それは、新卒一括採用と自前主義によって、人を抱え込んでいるという点だ。これにより、ビジネス環境の急激な変化に対応できないままでいる。

こうした状況にかかわらず、日本は非正規雇用を正規雇用に押し上げようとしている。しかし、労働市場の固定化は、今の日本にはマイナスばかりである。「みんなで頑張ればどうにかなる」という時代は過去のものとなった。20世紀の経営観・人材戦略から一刻も早く脱却しなければならない。

フレキシキュリティを追求せよ
Rawpixel/gettyimages

本来日本が追求すべきは、デンマークやスウェーデンなど、北欧で1990年代から進められてきた労働市場改革のカギとなった「フレキシキュリティ」である。フレキシキュリティとは、解雇規制を緩和して雇用の柔軟性を高める一方、効果的な失業対策で労働者の生活の安定を保障しようという考え方を指す。これは、企業側にはフレキシビリティ(柔軟性)、労働者・社会の側にはセキュリティ(安定)のメリットをもたらす。

2003年にドイツのシュレーダー首相は、まさにこれに則った労働市場改革と社会保障改革を断行。ドイツ経済を回復へと導いた。企業が人員を整理しやすくした一方で、職業訓練や就労支援を国が積極的に進めたことが奏功した。日本でも、この「シュレーダー改革」が早晩必要になるだろう。

21世紀型人材戦略とは?

21世紀の人材戦略は「軽く、薄く、少なく」以外にありえない。これから15年後には、ほとんどの業界に、旧来の体制が限界を迎える時期、すなわち「破断界」が訪れる。そして20年後には、さまざまなビジネスが消滅していることが予測できる。

こうした状況下で人を抱えると、方向転換が難しくなってしまう。必要なのは、小回りの利く状態にしておき、自由に方向転換できるようにすることだ。よって、本当に必要な人材(コア社員)に絞り込んで人材を抱え、それ以外は外部人材の活用やアウトソーシング、自動化を検討するという発想が求められる。

これからは「エクセレント・パーソン」の時代
NiseriN/gettyimages

デジタル・ディスラプションの影響により、エクセレント・カンパニーの時代は終焉を迎えた。これを象徴するのが、エクセレント・カンパニーの代表格であったGE崩壊の危機である。

これからは、組織や技術、資本よりも、たった一人の個人がブレイクスルーを起こせる時代だ。ビジネスで企業が勝つ条件は、多くのエクセレント・パーソン、すなわち傑出した個人を獲得することである。個人にとってはエクセレント・パーソンをめざすことが、生き残りを左右する条件となる。

10年後の会社に本当に必要な人材像を描く

経営戦略と人材戦略を整合させよ

人材戦略を立てる際、経営者はまず、自社をどんな会社にしたいのか、明確なビジョンを描かなければならない。そのうえで、必要となる人材像を明確にし、「人材スペック」を設定する。こうして経営戦略と人材戦略を整合させるのだ。

つづいて、この人材スペックに適合する人材の採用・育成戦略を練り、実行するのが、人材マネジメントの仕事となる。この順序を間違えてはいけない。

経営者の特権は人事である。では人事という重要な業務に、経営者はどれくらいリソースを割くべきか。著者の経験では、経営者は自分の時間の2割以上を後継者・リーダー育成に使うべきだという。重要なのは、事業を成長させ、会社の方向転換をめざせる人材を、経営者自ら発見し、選択することである。

コア人材に関しては、年齢や国籍、性別を問わず、世界中からLinkedInなどを使って発掘することが求められる。また、そのために人材データベースを構築することも有用だ。

事業と人材を一緒に育てるサイバーエージェント

21世紀型の人事戦略をとっている先駆企業の例として、サイバーエージェントを紹介する。

同社がとっている戦略は、「オーガニック・グロース(自立的成長)」というものだ。まずは新規事業をたくさん立ち上げて、経営判断に社員を巻き込んでいく。撤退ルールを明確化しておき、うまくいけば増資する。ダメならすぐに撤退し、失敗しても社員にはセカンドチャンスを与える。こうすると事業と人材を一緒に育てられる。この仕組みを回せば、社員の「決断する経験」が増え、経営人材の育成にもつながっていく。

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要約公開日 2019.01.30
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