「戦争と平和」の世界史の表紙

「戦争と平和」の世界史

日本人が学ぶべきリアリズム


本書の要点

  • 世界は、戦争の被害を抑制するために、「国際法」を定めたり、軍事条約を定めたり、さまざまに努力してきた。だが一方で、領土問題や経済の問題など、自国の利益を確保するための戦争はなくならなかった。

  • 現在は平和を実現するための組織として国際連合があるが、拒否権や旧敵国条項といったことを考えれば、現状の平和を過信することはできない。アメリカによる安定的な一極支配の時代も終わりつつある。日本における「戦争と平和」については、こうした現実をふまえて冷静かつ合理的に考えることが必要だ。

1 / 5

国家と国際法の誕生

ウェストファリア体制

Nastasic/gettyimages

17世紀、神聖ローマ帝国(ドイツ)での宗教内乱に端を発した「三十年戦争」は、欧州の各国・地域を巻き込むことになった。その後、1648年に締結された「ウェストファリア条約」は、現在にも続く国際間の枠組みの基礎となった。

条約では、欧州の諸侯・都市が「主権国家」として独立を認められ、中世以来のローマ教皇や神聖ローマ皇帝といった超国家的な権威が否定された。「主権」とは、何者にも従属しない最高権力を意味する。条約以降、各国間の内政の不干渉と、対等な外交関係が大原則となった。これをウェストファリア体制という。

一方、インドのムガル帝国や東アジアの中華帝国(明・清)などでは、小国が帝国に朝貢し、帝国が小国へ莫大な金額の下賜や軍事援助を与えるという関係で、国際秩序が維持されていた。豊臣秀吉が朝鮮へ攻め込んだときも、朝鮮王からの要請に応えて明からも兵が派遣された。国際平和維持軍の役割を帝国が果たしていたのだ。

欧州の場合、超国家的存在を否定することで調停者も失ってしまい、ウェストファリア体制後も戦争は続くこととなった。そうしたことを見通していたオランダの法学者、フーゴー・グロティウスは、国家間の法の上に人間の生命や自由を保障する自然法があり、戦時にも自然法が守られるような国際的な取り決めをすべきだと説いた。

近代国際法の成立

ウェストファリア体制以降、欧州各国はさらに条約という形で国家間の関係を維持し、一定のルールのもとに戦争の被害を抑制しようとした。

18世紀のスイスの法学者エメリヒ・ヴァッテルは、グロティウスの考えを発展させ、著書『国際法』で近代国際法を具体的に構築した。ヴァッテルは、個人が自然権の一つとして生存権を持つように、国家も自衛権を持ち、自衛権の発動が戦争であると考えた。その上で、戦争の被害を最小化するためのルールを定めた。たとえば、戦闘員と非戦闘員を区別する、開戦と停戦を明確に宣言するといったことである。

さらに、ナポレオン戦争の終結で、1815年に「ウィーン議定書」が交わされたのを機に、条約の締結手続きや特命全権大使・公使の常駐などの外交儀礼がほぼ確立された。これを、アメリカのヘンリー・ホイートンが、1836年に『国際法原理』を著して集大成した。ただし、清朝と外交を結ぶための西欧の武力行使であったアヘン戦争からもわかるように、当時アジア・アフリカ諸国は「非文明国」であるために近代国際法の「適用範囲外」とみなされていた。アヘン戦争後、『国際法原理』は翻訳され、欧米諸国の脅威に直面した東アジア諸国で読まれるようになった。

2 / 5

日本が歩んだ、戦争への道

文明国をめざした日本

ペリー来航以来、欧米の圧力にさらされていた日本は、主権を持った「文明国」の一員として認められる必要を自覚した。そのために取った戦略が、第一に海軍力の強化であり、第二に近代国際法をマスターすることだった。

かたや欧州では、ナショナリズムの高揚とともにドイツ・イタリア諸国に革命が広がった。ドイツではビスマルクが外交交渉によって複雑な同盟関係を結び、ドイツ帝国が建設され、ヨーロッパの勢力均衡に変化が生じていた。

このビスマルクのもとを、

もっと見る
この続きを見るには...
残り3185/4513文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2019.11.02
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

インテグラル理論
インテグラル理論
ケン・ウィルバー加藤洋平(監訳)門林奨(訳)
未来の地図帳
未来の地図帳
河合雅司
マネーの魔術史
マネーの魔術史
野口悠紀雄
「追われる国」の経済学
「追われる国」の経済学
川島睦保(訳)リチャード・クー
オリジン・ストーリー
オリジン・ストーリー
柴田裕之(訳)デイヴィッド・クリスチャン
奇跡の経済教室【基礎知識編】
奇跡の経済教室【基礎知識編】
中野剛志
教え学ぶ技術
教え学ぶ技術
苅谷剛彦石澤麻子
人口で語る世界史
人口で語る世界史
渡会圭子(訳)ポール・モーランド

同じカテゴリーの要約

経営者のための正しい多角化論
経営者のための正しい多角化論
松岡真宏
サピエンス全史(上)
サピエンス全史(上)
ユヴァル・ノア・ハラリ柴田裕之(訳)
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ブレイディみかこ
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
リンダ・グラットンアンドリュー・スコット池村千秋(訳)
無料
グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか
グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか
河原千賀
FACTFULNESS
FACTFULNESS
ハンス・ロスリングオーラ・ロスリングアンナ・ロスリング・ロンランド上杉周作(訳)関美和(訳)
無料
デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか
デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか
針貝有佳
サピエンス全史(下)
サピエンス全史(下)
ユヴァル・ノア・ハラリ柴田裕之(訳)
となりの陰謀論
となりの陰謀論
烏谷昌幸
2050年の世界
2050年の世界
ヘイミシュ・マクレイ遠藤真美(訳)