再起を目指す経営者に贈る 会社の正しい終わらせ方

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再起を目指す経営者に贈る 会社の正しい終わらせ方
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再起を目指す経営者に贈る 会社の正しい終わらせ方
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出版社
定価
1,540円(税込)
出版日
2014年08月18日
評点
総合
3.5
明瞭性
4.0
革新性
3.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「倒産」という言葉には、どこか後ろ暗く、得体の知れないまがまがしい印象がつきまとう。しかし、「倒産」に関する正しい知識を持ち、きちんと順序立てて説明できる人は、そう多くはないのではないか。

著者は、中小企業診断士・認定事業再生士にして、自身の夫が経営する会社の倒産に立ち会ったという、異色の経歴を持つ。本書は、中小企業経営者に向けて、「倒産」とは何なのか、その実際のところを、やさしく丁寧に説いた一冊である。経営者にとって重要なトピックであるはずの、「会社の終わらせ方」は、日本社会においてタブー視され続け、従来、あまり大っぴらには語られてこなかった。著者は、そのような現状に疑問を呈す。中小企業が長きにわたって生き延び続けるには、あまりに厳しい昨今の社会状況を踏まえ、廃業と再起について、積極的に考えていかなければならないことを、強く主張しているのである。

中小企業の現代社会における立ち位置の分析や、中小企業に対する公的支援の紹介、「倒産」と「破産」の違いはどこにあるかなど、中小企業経営者にとって役立つ情報が満載だ。著者の実践的な理論を支えるのは、著者自身の「企業」と「経営」に対する、深い造詣と、ブレない考え方である。「哲学」とも呼ぶべき著者の思想は、中小企業経営者にとどまらず、これから起業を考えている方、そしてすべてのビジネスパーソンに、自分の仕事に対する姿勢を見直すヒントを与えてくれること請け合いである。

著者

筒井恵
有限会社リンク・サポート代表。中小企業診断士、認定事業再生士(CTP)、ITコーディネーター。中堅小売業のSEを経て、1998年、経営コンサルタントとしてリンク・サポートを創業。以後、相談・支援に関わった案件は、3000件を超す。経営革新、事業再生を中心とした経営戦略策定、ITを活用したビジネスプロセス・リエンジニアリングなどを支援。全国の企業と事業改革・再生支援を進めている。特に、破産・金融調整などを含む再生事例を多く経験。2008年、中小企業診断協会シンポジウムにて、論文「初期見極め診断」を発表し、最優秀賞である中小企業庁長官賞を受賞した。現場を主体とし、定量的成果が出せるような指導を得意とする。

本書の要点

  • 要点
    1
    中小企業経営者にとっては厳しい社会状況が続いているので、今までタブーとされてきた「会社の終わらせ方」を積極的かつオープンに考えていかなければならない。また、国の中小企業支援策についても、会社の衰退期から終焉期、さらには倒産後についてフォローできるような政策を増やしていくべきである。
  • 要点
    2
    経営者は、倒産を必要以上におそれず、引き際を見極めよう。倒産は人生の終わりではない。再起へのステップである。
  • 要点
    3
    倒産しても、夜逃げだけはしてはならない。会社の従業員や、取引先などの関係者に対する責任をまっとうすべきである。

要約

ある会社の創業から倒産まで

中山ステンレス工業の歩み
potowizard/iStock/Thinkstock

中山ステンレス工業株式会社は、1956年に建築金物工事業として香川県に創業した。著者・筒井恵氏の父親が興し、父親の没後は母親が経営を継いだ。

著者の夫は、中山ステンレス工業に入社後、著者と結婚。製品の製造や、現場施工を担う「職人」畑の社員であったが、専務を経て、2004年に社長へ就任した。その頃には、会社の経営状態はかなり悪化していた。建設業界の不景気に加え、計画性のない資金繰りと、「利益管理」という発想に乏しく、仕事がありさえすれば儲かっている気分になる企業体質が祟ったのである。

その頃すでに自身の会社を立ち上げ、中小企業診断士として活躍していた著者は、夫の会社にコンサルタントを紹介した。コンサルタントの協力のもと、中山ステンレス工業は銀行に事業改善計画を提出。受注を増やし、とにかく営業利益を上げていくという方針で営業活動に励み、売上は回復したものの、資金不足の深刻さは増すばかりであった。著者の会社名義で多額の貸付金を中山ステンレス工業に流入させ、当時は会長となっていた著者の母の個人資産も投入していたが、資金不足は解消されない。そんな中、会社の資金繰りを担当していた母の入院も重なり、会社はますます立ち行かなくなった。そして、2012年、中山ステンレス工業は倒産を免れ得ない状況にまで追い込まれた。

破産までの具体的な流れ

中山ステンレス工業を倒産させる決意を固めた著者らは、弁護士とコンサルタントと共に、破産手続のスケジュールを確認し、行動計画を立て始めた。まずは、手続に必要な書類や費用の手配を済ませた。

何かと出金が多く、前月の売上金450万円を銀行口座から全ておろし、残高はほぼゼロになってしまうなど、綱渡りの捻出も余儀なくされた。出金の具体的な内訳は、破産手続の予納金や、優先債権である社員の労務費などである。

また、社員へ破産する旨を伝える説明会を開き、社長である夫は、社員たちの次の就職先へのあっせんも行った。

並行して債権者への受任通知などを済ませ、著者は夫の債務のうち連帯保証していた分について、テナントビル・工場・事務所なども手放し、代位弁済した。

その後、夫個人と、中山ステンレス工業という法人の両方の破産申立手続が、高松地方裁判所にて行われた。時をほぼ同じくして、4度の債権者集会が開かれ、一連の手続は幕を閉じた。

そのとき、家族はどうしたか
topdeq/iStock/Thinkstock

中山ステンレス工業が倒産するまでの流れが冷静かつ客観的な筆致で語られるが、時折、著者の夫に対する「家族」としての視点が垣間見られる。たとえば、危機に瀕した中山ステンレス工業を著者自身がコンサルティングしなかった理由は、「夫婦だと喧嘩になってお互いの言うことを聞かなくなってしまう」からであると説明されているし、「職人」気質の夫が経理に明るくないことを心配しつつも、必死に仕事を受注する夫の頑張りに対する著者の目線はとてもあたたかい。会社の先行きが全く見えなくなった段階で、責任感の強い夫が、関係者に迷惑がかかることに心を痛め、自死まで考え始めるくだりは、著者の悲痛な思いが読者にダイレクトに伝わる箇所だ。

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要約公開日 2015.04.03
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