つながる脳科学
「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線

未 読
つながる脳科学
ジャンル
著者
理化学研究所 脳科学総合研究センター(編集)
出版社
定価
1,253円
出版日
2016年11月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
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理化学研究所 脳科学総合研究センター(編集)
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2016年11月20日
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レビュー

本書は、1997年に理化学研究所に設置された脳科学総合研究センター(BSI)の設立20周年にあたって、9人の研究者たちが脳研究の最前線を、一般向けにわかりやすく解説した内容になっている。

脳は他の臓器と違ってニューロン(神経細胞)によって働きが異なるため、一つ一つの働きを理解できるようになるには困難を極める。よって、医学や生物学にとどまらず、物理学・化学・数学などの自然科学から人文・社会科学などに及ぶあらゆる学問を総動員して研究を進めなければならない。脳科学の中核的研究施設としてBSIが設立された背景もそこにある。近年になって生きている動物の脳を細胞レベルで観察することが実現し、脳の中で起こっているさまざまなニューロンの働きが徐々に解明されてきた。

例えば、記憶については脳の海馬が大きく関係しているという。マウスを使った実験では、光を感知する特殊なタンパク質を用いた新技術によってニューロンの働きを操作し、マウスの脳内に「経験したことのない記憶」を作ることに成功した。さらには、こうした研究成果を応用することで、うつやアルツハイマー病などの脳疾患の治療に脳科学がどこまで貢献できるのかについても探究が続いている。

本書にはさまざまな脳研究の手法が多彩な図やイラストとともに示され、脳科学に詳しくなくても理解しやすい構成になっている。それぞれの研究者たちの個性が色濃く表れており、本書を読むことで脳科学がより身近に感じられ、知的興奮を覚えることだろう。

山崎 裕介

著者

理化学研究所 脳科学総合研究センター
1997年、理研和光地区に設置された脳科学研究機関。通称「BSI」(Brain Science Institute)。創立以来、国内外から研究者が結集し、世界をリードする脳研究の拠点となっている。工学、計算理論、心理学まで含めた学際的かつ融合的学問分野を背景に、研究対象は、脳内の分子構造と神経回路の解明、認知・記憶・学習のしくみの理解、脳回路の数学的理解、脳疾患の発症機序の解明等まで幅広くカバー。「心」を生み出す「脳」の解明を目指し、学際的かつ融合的な研究を推し進めている。

本書の要点

  • 要点
    1
    ある出来事を記憶したり思い出したりすることには、ニューロン(神経細胞)の発火が大きく関係する。接しているニューロンどうしはシナプスでつながり、神経伝達物質の受け渡しを行う。
  • 要点
    2
    脳はニューロンで構成され、巨大な神経回路を形成する。これを応用したのが人工知能のディープラーニングであり、計算・情報技術の向上により進化を遂げている。
  • 要点
    3
    脳の研究がさらに進展すれば、脳疾患の治療や、親子関係と脳の関わりの解明などにつながる。

要約

ニューロンの働き

記憶とニューロンの発火
sakkmesterke/iStock/Thinkstock

この20年ほどの研究によって、記憶のメカニズムが細胞レベルで解明されつつある。まずは記憶とは何かについて考察していく。

目の前に起こっている一連の出来事を覚えることを「エピソード記憶」という。脳内にある「海馬」は、記憶を作ったり取り出したりすることに関係する。もし海馬が壊れていれば、エピソード記憶を作ることが困難になり、自分がどこで何をしていたのかがわからなくなる。

記憶したことを思い出すことを「想起」という。ある経験をすると、脳内ではニューロン(神経細胞)が発火する。発火はやがておさまるが、それ以降何らかの刺激がきっかけとなってニューロンが再び発火すると、そのとき経験したことを思い出す。また、ある出来事を記憶すると、脳内に物理的・化学的変化が起こる。この変化を「記憶のエングラム(痕跡)」という。そして、そのエングラムを保持するニューロン群を「エングラムセル」と呼ぶ。

マウスを用いた研究では「オプトジェネティクス」という光照射の技術によって、ニューロン群の発火を人為的に制御することが可能になった。研究で用いるのは「トランスジェニックマウス」というマウスだ。このマウスは、ある探索行動をした際に、「チャネルロドプシン」という光を感知するタンパク質が海馬のニューロン群に発現する仕組みを持つ。このマウスをあるケージに入れてしばらく内部を探索させ、床に軽く電気を流すとマウスは驚いてフリーズする。そして、このケージは危険だという記憶が形成される。

こうした「恐怖記憶」に対応したエングラムセルは、チャネルロドプシンによってマウスの脳内で標識されている。このマウスを別のケージに移し、同様に探索させてからマウスの海馬に光を当てると、電気が流れていないにもかかわらずマウスはフリーズする。チャネルロドプシンが発現したニューロン群、つまり恐怖記憶に関するエングラムセルが発火して、電気ショックを受けた記憶が想起されるからである。

こうしてニューロンレベルで記憶を人為的に操作する方法が開発された。将来的には、エングラムセルを安全に発火させる技術を開発し、うつやアルツハイマー病などのさまざまな脳疾患の治療につなげていくことが期待されている。

場所細胞と空間認識

人間の脳の中には、地図やカーナビのようなシステムがある。神経生理学者のジョン・オキーフ博士は、1970年代に空間情報をつかさどる「場所細胞」と呼ばれるニューロンを発見した人物だ。

オキーフ博士は、空間を自由に動き回っているラットを用いて、海馬のニューロンの活動パターンを観察した。その結果、あるニューロンはケージの左上の隅に来たときだけ発火し、別のニューロンは右上の隅に来たときだけ発火することが判明した。つまり、場所特異的に活動するニューロン、場所細胞がたくさん集まることですべての空間をカバーできるようになるということである。場所細胞は地図のように機能するニューロン群である。

さらに研究が進むと、ラットが目的地に到達してから休憩しているときに、経路の逆順で場所細胞たちが発火するという現象が見つかった。

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