ダーク・マネー

巧妙に洗脳される米国民
未読
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出版社
東洋経済新報社

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出版日
2017年02月09日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書で描かれているのは、アメリカの政治が人口のわずか1%の超富裕層の意向によって支配されているという「現実」である。それを主導するのが、石油産業で財をなしたコーク兄弟だ。彼らは過激な保守思想を持ち、アメリカの政治を変えるために着々と準備を進めてきたと著者は主張している。

コーク兄弟はフィランソロピー(慈善活動)に注力しているが、その理由は節税だけではない。彼らがフィランソロピーに注力する真の理由は、それが「兵器」であると認識しているためである。NPOやシンクタンクに寄付することで、自らの思想を実現させるための政策研究やロビー活動を行なわせているのだ。こうした活動が、過激な保守思想を社会に広めているというのが本書の主張である。

また、オバマ政権と右派富裕層の戦いを見事に描き出しているのも本書の特徴のひとつだ。コーク兄弟に代表される超富裕層にとって、大きな政府を唱えるオバマ大統領の誕生は悪夢そのものだった。そのため、政権発足後すぐにあらゆる手段を講じてオバマの政策を封じた。“We can change”という印象的なフレーズとともに熱狂的に迎えられたオバマが、あっという間に支持率を失っていった様子を記憶されている方も多いだろう。その裏には右派富裕層の暗躍があった、という著者の主張はたしかに説得力がある。

「どの石をひっくり返しても、そこには敵」という状況の中で、2期8年の大統領を務めたオバマの苦闘の記録としても貴重な一冊だ。

ライター画像
猪野美里

著者

ジェイン・メイヤー (Jane Mayer)
『ニューヨーカー』誌の記者。同誌に署名入り記事を書き、批評家に絶賛されているノンフィクションのベストセラーを三作著わしている。Landslide: The Unmaking of the President, 1984-1988はドイル・マクマナスとの共著、Strange Justice; The Selling of Clarence Thomas はジル・エイブラムソンとの共著で、全米図書賞の最終候補に残った。自著Dark Side: The Inside Story of How the War on Terror Turned into a War on American Idealsでグッゲンハイム・フェローシップを授与された。同書は『ニューヨーク・タイムズ』の年間ベストテンに選ばれ、J・アントニー・ルーカス図書賞、ゴールドスミス図書賞、エドワード・ワインタル賞、ライデンアワー賞、ニューヨーク公立図書館のヘレン・バーンスタイン・ジャーナリズム優秀図書賞、ロバート・F・ケネディ図書賞を受賞。全米図書賞と全米批評家協会賞の最終候補に残った。『ニューヨーカー』での報道について、ジョン・チャンセラー賞、ジョージ・ポルク賞、トナー政治報道優秀賞、ハーヴァード大学のニーマン財団によるジャーナリズム独立のためのI・F・ストーン勲章を授与されている。ワシントンDC在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    コーク兄弟は、過激な保守主義思想を持つ知識層の育成、その思想を政治に反映するシンクタンクへの投資、政策実現に向け圧力をかける市民団体への資金提供という3段階を通じ、政治を動かしている。
  • 要点
    2
    アメリカでは、慈善活動を偽装したロビー活動が行なわれている。寄付者の匿名性を守る法律により、資金の流れは不透明なものとなっている。
  • 要点
    3
    2010年以降、アメリカでは候補者への資金協力が事実上無制限となっている。そのため、莫大な資産を持つわずか数名の超富裕層の意向が、選挙結果を左右するという事態が続いている。

要約

世論を味方につけるために

節税のために設立した慈善財団を活用

アメリカの超富裕層は自ら設立した慈善財団に寄付をし、節税を行なっている。寄付は無制限の控除が受けられるため、寄付した金の使途は財団の自由となる。

この制度を利用し、チャールズ・コークとデイヴィット・コーク――しばしばコーク兄弟と呼ばれる――をはじめとする超富裕層の保守主義者は、自らの政治信条の実現を後押しするシンクタンクや学術団体に、財団を通じ巨額の寄付を行なってきた。

シンクタンクに中立性を装わせる
FOTOKITA/iStock/Thinkstock

リチャード・スケイフも保守主義運動に莫大な寄付を行っている超富裕層の一人だ。彼の代表的な寄付先がヘリテージ財団である。ヘリテージ財団は従来のシンクタンクとは異なり、明確に政治的な組織で、きわめて保守的な概念をアメリカ政治のメインストリームに注ぎこんでいる。

こうしたシンクタンクは政治的に偏向しているという批判を避けるため、中立的で超党派な組織に見せかけることに注意を払っている。

次世代の育成に力を入れる

超富裕層はアイヴィー・リーグをはじめとする一流大学にも寄付金を注ぎ込み、政治的に右寄りの思想を持つ次世代の育成に力を入れている。その仕掛け人の一人がジョン・オリンである。

オリン財団は1985年から1989年にかけて、ハーヴァード、イェール、シカゴなどの一流大学を含む、アメリカのロースクールすべての「法と経済学」プログラムの83%の費用を負担し、自由市場と小さな政府を指向する理論を大学のプログラムに埋め込んだ。

また、オリン財団は判事向けのセミナーも提供している。後の最高裁判事を含む660人の判事がそれに参加し、環境規制と労働規制がいかに最悪で、インサイダー取引を取り締まる法律は害が大きいということを学んでいる。実際、オリンの目論見通り、法曹界の風土は右傾化しつつある。

すべてが経済的利益と完全に噛み合っている

コーク兄弟が多額の資金を投入しているのが、ヴァージニア州のジョージ・メイソン大学だ。コーク兄弟は寄付金を投入して、この大学にマルタカス・センターを設立させ、自分たちの意向に沿った研究をさせている。

マルタカスの研究員の提案により、ジョージ・W・ブッシュ大統領が廃案にした規制は14件にのぼる。そのうち8件が環境保護関連の規制だ。たびたび環境保護庁と揉めているコーク兄弟の意向を反映しているのは明らかである。

批判者によれば、マルタカスはNPOを装ったロビー組織であり、その内実は資金提供者の経済的利益と完全に噛み合っているという。

【必読ポイント!】「人工芝」だったティーパーティ

草の根運動の資金源は大企業である
chairboy/iStock/Thinkstock

コーク兄弟が創設した団体のひとつに、非営利の「教育」団体である「健全な経済のための市民(CSE)」がある。当初、CSEの資金のほとんどはコーク兄弟が提供していたが、その後はエクソンからマイクロソフトに至るまで、アメリカの最大手企業数十社が競って寄付を行なっていた。このように、草の根運動を装って政府を攻撃するのがCSEの実態であった。

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要約公開日 2017.07.18
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