本書の要点

  • 2016年にApple Payが日本に登場すると、その使い勝手と安全性で「おサイフケータイ」を急速に置き換えていった。

  • モバイルウォレットは日本で実用化が始まったが、世界では様々なプレイヤー間で利害の対立があり、なかなか普及が進まなかった。

  • Apple Payは登場のタイミングがよく、その先進的な機能と安全性により、モバイルウォレットの救世主となった。

  • Apple Payで弾みのついたモバイルウォレットは、財布が不要な社会の実現に向けて進化の途上にある。

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【必読ポイント!】 Apple Payの登場

決済の革命児、Apple Payとは

2016年10月、とうとうApple Payが日本に上陸した。アップルは、ティム・クックCEOが来日するほどの力の入れようだった。このApple Payは、財布やクレジットカードを不要にする、「決済」の革命を起こそうとしている。従来のSuicaなどの交通系ICカードやクレジットカード、NTTドコモの「おサイフケータイ」の役割を、iPhoneに置き換えてしまうサービスなのだ。一度iPhoneに登録さえすれば、後は多数のプラスチックカードを持ち歩かなくても、買い物の支払いや乗り物への乗車が可能となる。この新たな電子マネーの登場で、少額決済の市場は勢いをつけていくことが期待されるようになってきた。アップルは、使い勝手と安全性の2点を徹底的に追求してApple Payを開発した。設定は簡単で、スマホのカメラでクレジットカードを自動認識させるだけ。Suicaはスマホにタッチするだけだ。店舗で利用する際には、iPhoneのホームボタンに指を添えて、指紋認証させながらレジのリーダーに近づければよい。Apple Payでは、このTouch IDという指紋認証によって安全が確保されている。万一iPhoneを紛失しても、指紋が一致しない限り決済ができないためだ。ただし駅の改札では、スムーズに通過できるように指紋認証は不要となる。また、買い物履歴などのプライバシー情報は、アップル側は収集しないという安心設計になっている。

Apple Payの優位性

audioundwerbung/iStock/Thinkstock

アメリカでは2015年10月から、ICチップ内蔵のクレジットカード統一規格EMVに、店舗が対応することが決まった。これはスキミングによる偽造磁気カードでの、不正利用被害を減らすためだ。店舗がEMV対応をすることで、POSレジがNFC用リーダーに対応できるようになり、これがApple Payの導入に追い風となった。Apple Payは安全な決済のために、「バーチャルカード」を用いている。具体的には、クレジットカード番号や個人情報などの機密情報を店舗側に伝えず、代わりに「トークン」と呼ぶデータに変換して決済処理を進める。これにより、スマホの盗難があっても、バーチャルカードを無効にすれば、クレジットカードの番号が漏れるわけではないのでカードの再発行の手間もかからず、ユーザーに被害は生じない。またApple Payは、ECサイトでのオンライン取引でも利用できる。これはオンライン取引でも、ECサイト側にカード情報を渡さない「バーチャルカード」を使えるからだ。アップルは、カード情報はもちろん買い物履歴なども取得しない。この方針は、グーグルが以前提供していたGoogle Walletと真逆だ。グーグルは、手数料ゼロで金融機関の参加を募ったが、マーケティングデータの収集を狙っていた。結果的にグーグルのサービスは、米国携帯電話会社の妨害もあり頓挫した。

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お金が変わる

モバイルウォレットは日本発

KellyISP/iStock/Thinkstock

近距離無線技術のNFCを利用したモバイルウォレットを、世界で初めて商用化したのは、ドコモ「おサイフケータイ」だ。2004年のサービス開始当初から、決済だけでなく、電子マネー、会員カード、ポイントカードなどにも対応できる先進的なサービスだった。

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要約公開日 2017.07.14
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