本書の要点

  • 政府が新しい経済空間を創り、そこに流れ込んだ起業家たちがイノベーションを起こすことで、アメリカ経済はつくり上げられてきた。

  • イデオロギーに流されず、実利を追い求めてきたアメリカの経済活動は、きわめてポジティブな結果を生み、アメリカを世界一の国へと押し上げた。

  • 1980年代から始まった経済再設計では、「アメリカらしくない」選択をしてしまい、芳しい結果が得られなかった。

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【必読ポイント!】 アメリカを設計した男

ハミルトン・システム

アレグザンダー・ハミルトンは、大統領を経験していないにもかかわらず、アメリカ経済政策の先頭に立ち、大胆に、そして独創的にアメリカをつくり変えた人物である。ハミルトン以前の経済は、イギリスが強いた流れに乗っていただけだった。しかし、ハミルトンは製造、技術、インフラ、商業、企業、金融・銀行、そして政府支援によるイノベーションに力点を置き、独自の計画経済を実行した。ハミルトン・システムには4つの推進力があった。(1)高率関税、(2)インフラへの大きな支出、(3)州の負債の連邦政府による肩代わり、(4)ひとつの中央銀行、である。ハミルトンはアメリカ国内の工業化を進めるために、イギリスから入って来る輸入製品へ高率関税をかけた。それが国内技術を推進する投資への強いインセンティブとなり、積極的に補助金を与える理由にもなった。また、関税は政府の大きな歳入源になり、インフラ開発計画を下支えした。ハミルトンが活躍した18世紀末は建国間もない頃で、北部沿岸州から西への領土拡大と、経済発展が強く求められていた。さらに、関税収入のおかげで、政府は各州が独立革命の際に負った借金(州債)を気前よく肩代わりすることができた。州債を数分の一の廉価で買い取っていた金融家たちは、こうしてハミルトンの支持に回ることとなった。そして、ハミルトンは中央銀行としての合衆国銀行を設立。これを金融システムの中心に据えることで、堅実な金融をつくり上げていった。

そして大量生産モデルへ

ハミルトン流の高率関税は全国民に歓迎されていたわけではない。特に、アメリカ南部沿岸の人々からは強い反発を受けていた。しかし、高率関税による国内産業の育成により、アメリカ式製造システムが生まれ、大量生産モデルが成立したこともまた事実である。工業化を進展させるために、ハミルトンはいくつもの政策を実施し、その政策が利益集団を生んだ。そして、利益集団が自分たちの立場を安泰にするために努力したことで、アメリカは他の国の追随を許さない発展を遂げることとなった。

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さらなる再設計

自由労働の牽引

第16代大統領エイブラハム・リンカーンと彼が率いた共和党は、非常に大きな功績を残したといえる。ハミルトンが設計したアメリカ経済の再設計に取り組んだからだ。リンカーンは奴隷制度を廃止した。その目的は、

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要約公開日 2017.09.29
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