響きの科楽(かがく)
ベートーベンからビートルズまで

未 読
響きの科楽(かがく)
ジャンル
著者
ジョン・パウエル 小野木明恵(訳)
出版社
早川書房
定価
2,530円(税込)
出版日
2011年06月10日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
4.0
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ベートーベンからビートルズまで
著者
ジョン・パウエル 小野木明恵(訳)
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出版社
早川書房
定価
2,530円(税込)
出版日
2011年06月10日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
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レビュー

音楽は私たちの生活に大変身近であり、重要な芸術である。オーケストラをバックにソロを奏でるピアニスト、ヒット曲を次々と世に生み出すロック・ミュージシャンなど、音楽家は凡人が持ち得ない「芸術的センス」を持つ存在として常に憧れの的であり続けている。

ときに私たちの心に寄り添い、ときに私たちの心を奮起させてくれる音楽は、センスで片付けられてしまいがちだ。しかし、音楽を科学で紐解くと物理現象であり、長い間人類が経験則で培った法則をもっている。多くの作曲家はそれらのルールをもとに曲をつくるし、奏者はそのルールを理解した上で曲を演奏しなければ、作曲家の真の意図を汲めない演奏になってしまう。

本書は作曲の修士号、物理学の博士号を取得している著者がこれらの音楽における「ルール」を、物理現象としての「音」や「音楽理論」から解説した本である。「なぜ雑音と音楽はわけられるのか」「悲しい曲と明るい曲は何が違うのか」など、誰もが一度は疑問を持つ音楽の不思議について、読者に身近なたとえをふんだんに使い、著者のブリティッシュジョークでクスリと笑わせてくれながら解き明かしていく。楽譜の読み方をこれまで習得できなかった、楽器を習おうと思ったけど挫折してしまった、という人に加え、音楽への理解を深めたい多くの方にお薦めしたい書だ。本書を読めば音楽の「ブラックボックス」がすっきり整理されるだろう。

著者

ジョン・パウエル
物理学者かつクラシック音楽を学んだ音楽家である。国際レーザー会議で講演を行ったかと思えば、パブでギターを演奏してビールをただでもらっている。本人は後者の活動のほうが好み。パウエル博士が、音楽の科学と心理学を紹介する魅力的でわかりやすい本書を書こうと決めたのは、これをテーマにした本が、読むと頭痛がするようなものばかりだったからだ。シェフィールド大学で作曲の修士号を、インペリアル・カレッジ・ロンドンで物理学の博士号を取得。ノッティンガム大学とルレオ大学(スウェーデン)で物理学を、シェフィールド大学で音楽音響学を教える。イングランド、ノッティンガム在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    音楽が美しい理由は、その「規則性」にある。長い歴史の中で決められてきた音楽の波の規則性、またそれを生み出す楽器の発明は私たちに音楽の楽しみを与えてくれた。
  • 要点
    2
    様々な楽器のハーモニーを私たちが楽しめるのは、脳に届く音の足し算が単純ではないからだ。絶妙な脳のからくりによって、私たちは様々な楽器の音色を楽しむことができる。
  • 要点
    3
    西洋音楽が今の音の組み合わせになった陰には数学者たちの貢献がある。均等で美しい音の間隔をつくれたことで、私たちは音楽の多様な表現を手に入れた。

要約

音楽と雑音は何が違うのか

Jupiterimages/Creatas/Thinkstock
波の調和が美しい音楽を生み出した

私たちは、日常様々な音に囲まれて生きている。その中でも、「音楽」は誰もが同じ音を用い、法則があり、鳴らすための専用の装置(楽器)がある。神に祈りを捧げたり、死者を弔ったり、今では日常生活の楽しみのために、常に音楽は人類のそばにあり、今の音楽理論は自然の法則や長年の経験値から心地よさや表現が追求されてきた結果の賜物だ。そしてその功労者には、科学者も含まれているのだ。

著者はまず、音楽がなぜ人類にとって特別なのかを示すため、第3章で音楽と雑音の違いについて取り上げている。音楽と雑音、同じ音なのに何が異なるのだろうか。音は人間にとって、危険を判断する材料として重要な役割を果たしてきた。音が鳴ると、耳には音の波が振動として近づいてくる。その正体は空気圧の変化だ。空気圧は上がったり下がったりを繰り返し、鼓膜にその振動が伝わる。

日常に起こる雑音と音楽の違いを著者はこう説明する。ドアを占める音が耳に届くとき、私たちはドアと錠、壁、蝶番のいくつもの波の振動が合わさった複雑で不規則な波を受け取っている。これが雑音である。私たちは日常生活でお湯が沸く音、バターをパンに塗る音など、膨大なこの振動のサンプルを蓄積することで身の回りの音を聞き分けているのだ。

一方で、音楽に使われる音は規則正しい。たとえばA(ラ)の音は一秒間で110回音の波が振動するので、Hz(ヘルツ)という単位で110Hzと表す。A(ラ)が110Hzと決められたのは、1939年に標準的な西洋の音が定められてからだ。以降、楽器は同じ基準で調律されるようになり、基準を同じくした規則正しい振動で鳴らされた音が重なっていくと、のちに解説される音階や和音のルールによって悲しげな音になったり、楽しげな音になったりする。ちなみに、鼓膜が反応できる音には限界がある。波の振動が速すぎたり遅すぎたりすると、鼓膜は適切に反応できない。1秒間に20回以上かつ2万回以下の振動が、人間が聞くことのできる音の範囲になるそうだ。

音楽がほかの音と異なる理由は音が規則正しく正確であるだけではない。「倍音」という音の存在によって、音の色がつくられるのだ。実は、楽器がA(ラ)の音を鳴らすとき、先ほどの解説のように単純には耳に届いていない。A(ラ)の音を出すと、その中で2倍(220Hz)、3倍(330Hz)などの整数倍の音もかすかに混じって届く。著者はこのことを、ブランコが大きく前後しているとき、その鎖が小刻みに揺れる様子に喩えている。倍音、と言われるこれらの音のおかげで、音には奥行きができる。「制御された方法で音を出すように設計された装置である」と著者が言うように、楽器によって音をつくる仕組みが異なるので、どの倍音を響かせやすいかが異なってくる。その違いが独特の音色をつくる要因の一つになるのだ。

フルートは円柱状の金属の筒に振動を生じさせることで音を響かせる。空気の塊があまりぶつからずに外に広がるので、基本周波数の2倍の倍音(オクターブ上の音)が目立って聞こえ、シンプルな波形になり、混じりのないまっすぐな音が届く。

一方でバイオリンは弦を弓でこすって振動させた波を、木製の胴に伝えて音を増幅させる。胴の中で様々な方向に広がった波は複雑に混ざり合い、複雑な音を持つことになる。こうした楽器の音の作り方の違いが、独自の「音色」を生むのだ。

なぜソロの楽器はオーケストラに負けないのか

Tristanbm/iStock/Thinkstock
足し算にならない音の大きさと人間の聴覚の不思議

オーケストラの演奏を聞いていると、バイオリンやピアノ、フルートなど、ソロの楽器とオーケストラの対比で曲が進むことがある。大勢の奏者が一斉に音を出すオーケストラに、なぜソロの楽器は負けないのだろうか。

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