本書の要点

  • 地球上の動物には、自分の死と引き換えに、種の存続を実現させているものがたくさんいる。そうして途方もなく長い期間、命をつなぎ続けている。

  • 川や海で産卵し、命をつなごうとするサケやウミガメなどは、人工物によってその機会を奪われている。

  • ヒトのために生まれ、ヒトのために死んでいく生き物も多い。イヌの多くは殺処分されているし、人間に食べられるために改良されたブロイラーというニワトリは、暗い鶏舎で育てられ、生後40~50日ほどで出荷されていく。

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命をかけたミッション

母なる川で循環していく命――サケ

サケは生まれ育った川に戻り、そこで産卵すると言われている。数々の苦難を乗り越え、産卵地にようやくたどり着いた頃には、満身創痍だ。その体で繁殖を行い、繁殖が終われば川に横たわって死ぬ。

死骸は分解されて有機物となり、プランクトンを発生させる。それが、生まれたばかりの子どもたちの餌になる。こうして命はつながっていく。

人間はサケの敵だ。堰やダムはサケの遡上を妨害するし、人間はサケやイクラを好んで食べる。ただし絶滅させてしまっては元も子もないから、人工的に孵化(ふか)させ、生まれた稚魚を川に放流している。

もはやサケは、自らの力で命を循環させることができなくなっているのだ。

命がけの侵入と脱出――アカイエカ

gyro/gettyimages

人間の血を吸う忌々しいアカイエカ。だが蚊の視点から見てみると、彼女らは実に困難なミッションに立ち向かっていることがわかる。

交尾後のメスは、卵のために栄養分を確保すべく、決死の覚悟で家の中に侵入する。侵入経路は限られており、網戸をかいくぐるか、人間がドアや窓を開閉したのと同時に入り込むしかない。蚊取り線香や虫よけ剤の罠をよけてこっそりと皮膚に降り立ち、2〜3分かけて血を吸う。

血を吸いきると、体重は2倍以上に増えている。重い体を引きずってなんとか逃げなければならないが、なかなか脱出口が見えない。そうこうしているうちに人の気配を感じ、「ピシャリ」と叩かれて死んでしまう。

一瞬にこめられた永遠――カゲロウ

成虫になって1日で死んでしまうカゲロウは「はかなく短い命」の象徴とされている。だが昆虫の世界を見渡すと、カゲロウの命はけっして短くはない。むしろ、相当の長生きと言っていいくらいだ。昆虫の多くは卵から成虫になって死ぬまで数カ月から1年以内だが、カゲロウの幼虫時代は2、3年に及ぶのだから。

カゲロウの成虫は子孫を残すことに特化している。数時間のうちに、天敵に食い尽くされることなく交尾をし、川に卵を産まなくてはならない。夕刻に一斉に羽化して大発生するのは、天敵である鳥から逃れるためだ。そして夜明け前には、地吹雪のように大量の死骸が風に舞うことになる。

交尾に明け暮れ、死す――アンテキヌス

小さなネズミのような姿をしている有袋(ゆうたい)類のアンテキヌスは、短い一生の間に交尾を繰り返す。軽薄で浮ついたプレイボーイを想像して、うらやましいと思う人もいるだろうか? だが、その実態はそんなに甘いものではない。

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要約公開日 2022.01.21
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