物語は人生を救うのか

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物語は人生を救うのか
出版社
出版日
2019年05月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

人間は昔から、世界のあり方や他者との関わり方、自らの人生について、物語の形でとらえ、理解してきた。神話や宗教も、科学も、物語としての機能を持つという点では同じである。本書だけでなくあらゆるところで何人もの論者が言っているが、人間は物語る動物であり、生きる上で物語を必要とする動物なのだ。

世界に起きていること、自らが経験したことを何らかの形で物語化するときに、起きたことのすべてを余すことなくありのままに記述することはできない。出来事のうち、物語として記述されるのは、ごく一部にすぎないのだ。

では、記述のために取捨選択する際、何を基準としてどのようなものが選ばれ、捨てられるのか。「物語論」と呼ばれる学問ではそのような問題に対する論考がなされてきた。本書ではその点について、軽妙な筆致でさまざまな事例が紹介される。

物語は語り手の意志によって作られる。だから、唯一の正しい形はない。自分の人生についての「ライフストーリー」も、唯一の形があるわけではなく、さまざまな観点から自分の物語を自分自身で語ればいいのだ。

著者は自身の過去の体験から、単一のストーリーにとらわれないようにと主張する。本書を読むことで、私たちも、自身の体験に照らし合わせ、過去の体験や生き方についていくつもの観点を持てるようになるだろう。

ライター画像
大賀祐樹

著者

千野 帽子(ちの ぼうし)
パリ第4大学博士課程修了。文筆家。公開句会「東京マッハ」司会。著書に『読まず嫌い。』(角川書店)、『文藝ガーリッシュ』『世界小娘文學全集』(共に河出書房新社)、『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)、『文學少女の友』(青土社)、『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)など。編著に『富士山』『夏休み』『オリンピック』(共に角川文庫)、『ロボッチイヌ 獅子文六短篇集 モダンボーイ篇』(ちくま文庫)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間は生きている限り、物語を不可避的に合成してしまう生き物だ。
  • 要点
    2
    一般的に物語として語る価値があるとされるのは、蓋然性の公準や道徳の公準から逸脱しているものだ。
  • 要点
    3
    人間は、ノンフィクションにたいして必然性を求めることがある。物事は偶然に基づいて起きるにもかかわらず、そうしたできごとに対しても因果関係を見出してしまう。
  • 要点
    4
    ライフストーリーは単一なものではなく、自分で選ぶことができる。

要約

報告価値のある物語、ない物語

物語を合成する人間
NiseriN/gettyimages

「人間は物語を必要としている」とよく言われる。まるで、日光や水や酸素を摂取するように、物語を外から摂取する必要があるような言い方だ。だが著者は、人間は生きている限りストーリーを合成してしまうものだと考えている。二酸化炭素を作らずに生きていくことはできないように。

人は生きていく中で喜んだり楽しんだりするだけでなく、悲しみや怒り、恨みや羨望に苦しめられ、生きづらさを感じることもある。「あのときあのようなチョイスをしたから、現在の自分があるのだろうか?」「自分はなんのために生きているのか?」と、自分の現状の原因・理由を探したり、人生の意味や目的への問を立てたりしては、答を出せずに苦しむこともあるだろう。人間はできごとを勝手に繋(つな)いで、ありもしない因果関係を作っては、そのことで助けられたり苦しんだりする生き物なのだ。

人が犬を噛んだらニュースになるのはなぜか?

「犬が人を噛(か)んでもニュースにならないが、人が犬を噛んだらニュースになる」という言葉がある。要するに、犬が人を噛むストーリーよりも人が犬を噛むストーリーのほうが語る価値があるということだ。しかし、なぜ人はそのように思うのだろうか。

米国の計算機科学者ロバート・ウィレンスキーは、ストーリーを語ることを正当化しうる理由や目標を「外的要点」と呼んだ。「犬が人を噛むのはよくあることだが、人が犬を噛むのはあまりないレアなことである」という事情がこのストーリーを語る理由である。社会における「蓋然性の公準や道徳の公準」から逸脱したできごとが、そのストーリーの外的要点となる。

マリー=ロール・ライアンは「尋常ならざるできごと、問題を孕(はら)んだできごと、あるいはけしからぬできごとこそ報告価値がある」と述べている。たしかにワイドショウや週刊誌には、起こる確率の低い珍しいできごとや、人の顰蹙(ひんしゅく)を買うできごとの話題がたくさん取り上げられている。報告価値とはすなわち、「つい自動的に続きを見届けてしまいそうになる」ということだろう。

蓋然性が低いことのほかに、道徳的に「けしからぬ」ことも報告価値が高い。その理由は、人類の進化の過程にあると考えられている。群れの中で道徳感情に反する者がいたとき、その事実を仲間にシェアし、処置を決定しようとしていたのだろう。

【必読ポイント!】 物語と必然性

「ほんとうのこと」と「ほんとうらしいこと」
Choreograph/gettyimages

暴君として知られるネロは、配下の者に実母を殺させた。この事件についてオービニャック師は、フランス古典演劇の理論書『演劇作法』において、「このような場面を劇として上映しても、観客は引くだけでおもしろがらないだろう」と書いている。真実である実話が「ひどい話」の場合、人の耳目を引くことにはなる。ただしそれを劇にすると、観客は「ありうるはずがないから信じ難い」と感じる。だから舞台には、真実らしさが求められるのだという。

この主張には、ふたつのポイントがある。まず、「ほんとうのこと」と「ほんとうらしいこと」は違うということ。

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要約公開日 2019.10.08
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