心はどこへ消えた?

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心はどこへ消えた?
出版社
出版日
2021年09月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

著者の職業は、臨床心理士である。「心の問題」が原因で、身体の異常や生活上の問題などを引き起こした人たちを、心理学的な手法を用いてサポートする仕事だ。日々、クライエント(相談者)と1対1で向き合い、カウンセリングを行っている。

本書は、そんな著者の視点から「心」をテーマに書かれたエッセイ集だ。『週刊文春』で2020年春から1年間にわたって連載され、軽妙洒脱な書きぶりで人気を博したものである。

ここには数多くのクライエントの臨床エピソードが綴られているのだが、要約者はときに読み進めることがつらいと感じられることがあった。クライエントの個人的なエピソードが、要約者の中の過去の経験と共振し、そのときの痛みを呼び起こすように感じたのだ。これはおそらく、本書の正しい読み方だ。著者が「おはなしには別のおはなしを呼び覚ます深い力がある」というように、その痛みによって、要約者の中の何かがリセットされたと思う。

時節柄、連載開始当初はコロナ禍における心の問題を扱う予定であったらしい。しかし、著者は次第に、問題はコロナから始まったのではなく、もっと前から始まっていたのだと気づくようになる。そして、タイトルの「心はどこへ消えた?」という問いにたどり着く。

心という繊細な問題を扱っていながら、堅苦しくも深刻にもなりすぎない。軽快な筆致で、ユーモアを交えながら、真摯に心の問題に切り込んでいく。コロナ禍という大きな波に飲まれて、個人の心が顧みられづらくなっている今、多くの人に手にとっていただきたい一冊だ。

ライター画像
しいたに

著者

東畑開人(とうはた かいと)
臨床心理士・公認心理師。博士(教育学)。1983年生まれ。2010年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。精神科クリニックでの勤務を経て、14年より十文字学園女子大学に勤務、現在准教授。17年に白金高輪カウンセリングルームを開業。著書『居るのはつらいよ』(医学書院)で第19回大佛次郎論壇賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020大賞を受賞。他に『野の医者は笑う』『日本のありふれた心理療法』(ともに誠信書房)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    かつて経済も社会も安定していたころ、人々は安心して内面の世界に向き合うことができた。しかし、この20年で心は顧みられなくなった。
  • 要点
    2
    いまや心はひどく脆弱になっている。それでも心は、人々の具体的で個人的な小さなエピソードの中に存在する。
  • 要点
    3
    心は目には見えない。心が存在するのは、他の心の中だけだ。心が一つ存在するためには、必ず二つの心がいる。

要約

【必読ポイント!】 大きすぎる物語に侵食される、小さな物語

心が消えてしまった

本エッセイが連載されていたのは、新型コロナウイルスに翻弄された1年だった。2020年、人々は大きすぎる物語に翻弄された。みんなが同じウィルスに襲われ、同じ不安におびえ、同じ物語に取り巻かれた。そこでは、個人は群れの一員と化して、本当はそれぞれにあったはずの、小さな物語をかき消してしまう。

心とは何か。コロナ禍でそうした根本的な問題を考えるようになった著者は、改めて心理学の事典で「心」について調べてみた。ところが、図書館に置いてあった多くの事典を見ても、「心」という項目は存在していなかった。唯一見つかった定義は、「体・物の反対」だ。心は否定で定義されている。つまり、物質的な問題を解決してもどうにもならないとき、はじめて心の問題に目がいくということなのだろう。

描くべきだったのは、「コロナ禍での心」ではなかった。問題は、心が存在しないことだったのだ。心はコロナの1年に消えたのではない。この20年で、小さな物語が少しずつ浸食されてきたのだ。心はどこへ消えた?

心が輝いていた時代から、埋もれて見えなくなる時代へ
Somsuk Nuthawut/gettyimages

説明をシンプルにするために、1999年以前を「心の時代」としておこう。かつて心はキラキラとしていた。河合隼雄という臨床心理学者は「物は豊かになったが、心はどうか?」と問いかけ、多くの共感を呼んだ。臨床心理学も大人気で、著者が臨床心理学を学ぼうと決めたのはこの時代の終わりだった。

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要約公開日 2021.12.04
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