ゆっくり、いそげ

カフェからはじめる人を手段化しない経済
未読
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カフェからはじめる人を手段化しない経済
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ゆっくり、いそげ
出版社
出版日
2015年03月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

要約者が住んでいる東京都国分寺市は、ここ数年、地域活動が盛り上がっている。その中心人物の一人が、本書の著者である影山知明氏だ。2013年に「食べログ」全国1位を獲得したカフェ、西国分寺にある「クルミドコーヒー」の店主としてさまざまなメディアで紹介されているので、ご存じの方も多いだろう。

影山氏は、外資系コンサルティング会社をはじめとするキャリアのなかで、資本主義というシステムの長所と短所を知り尽くしてきた。このシステムは、社会の生産性を高め、ものの値段を安くし、便利や革新をもたらすといった優れた側面を持っている。一方、資本主義には「主体は自己利益を最大化させるために行動する」という前提があり、不特定多数が交わる市場では、共通価値である「お金」に価値が収斂していく。つまり資本主義のシステムにおいては、お金以外のさまざまな価値をうまく評価し、流通させることが難しいのだ。

言うまでもなく私たちは、お金以外にもさまざまな価値を交換して生きている。そうした価値の交換を可視化できるシステムはないだろうか――著者のチャレンジはそこにある。自身が経営しているカフェとコミュニティを舞台に、ある種の社会実験に取り組んでいるといってもいいだろう。本書はそのレポートである。

描かれるのは、仮説を立て、失敗に学び、また新たな仮説を立てるという試行錯誤の日々である。その一つ一つが著者の実践だというところに、強い説得力がある。多くの人に耳を傾けてほしいリアルストーリーだ。

ライター画像
しいたに

著者

影山知明(かげやま ともあき)
1973年西国分寺生まれ。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家の地に多世代型シェアハウスのマージュ西国分寺を建設、その1階に「クルミドコーヒー」をオープンさせた。同店は、2013年に「食べログ」(カフェ部門)で全国1位となる。ミュージックセキュリティーズ株式会社取締役等も務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    お客さんの「消費者的な人格」を刺激し、お店とお客さんがお互いをテイク(利用)し尽くそうとすると、やがてお店とお客さんの関係は空疎なものになってしまうだろう。
  • 要点
    2
    お客さんの「受贈者的な人格」を刺激できるかどうかが、お店からの「ギブ(支援)」の程度を計るバロメーターとして機能する。
  • 要点
    3
    一つ一つの仕事に時間と手間をかけ、相手にギブするために力を尽くすことは、遠回りのようでいて経済的な成長につながる。

要約

カフェという空間から

「特定多数」と価値のキャッチボールをする
simarik/gettyimages

グローバル経済は、市場を媒介とし、顔の見えない「不特定多数」を対象とするシステムである。そこでは複雑な価値の交換は成り立ちにくく、結果として「お金」という単一の価値へと収斂していく。同じモノなら安ければ安いほどいいというわけだ。

一方、「私」と「あなた」のような顔の見える関係なら、必ずしもそうではない。世の中一般に受け入れられる価値ではなかったとしても、「私」がそこに価値を認めるのであれば、「あなた」との間で交換が成り立つ。

著者が経営している西国分寺のカフェ「クルミドコーヒー」では、コーヒーは一杯650円。すぐそばにあるコーヒーチェーンなら、その3分の1の値段で飲める。それでも、そこに価値を認めてくれる「私」がいるから、より複雑な価値のキャッチボールができている。

とはいえ、カフェを経営するには一定の規模の「私」が必要だ。内輪の関係だけの「特定少数」ではビジネスが立ち行かない。だから「特定多数」、すなわち一つの事業を支えられるくらいの規模のお客さんと、お金に換算できないさまざまな価値の交換が可能になるような関係を築く必要がある。

不特定多数ではない、もう少し複雑な情報のやり取りが可能な人たち。人やネットを通じて、直接的・間接的に声が届く距離にある人たち。そうした層を一定の規模で形成することが、特定多数のビジネスを成り立たせる前提になる。

クルミドコーヒーを支える5000人の「特定多数」

「特定多数」とは、どのくらいの規模か。クルミドコーヒーでは、年間の来店者数などから、5000人ほどと類推される。経営の収支が合うようになってきたのは、この数字が3000人を超えた辺りからだ。一つのカフェを支えるには、それくらいの「ファン」を獲得できればいいということになる。

そうした空間で、お金に換算できない価値が行き交うようにするために必要なのは、身体性を伴う直接的で濃いコミュニケーションだ。「おいしい」「気持ちいい」といった、価格を超えた価値を提供できることもまた必要である。

【必読ポイント!】 ギブからはじめる

ポイントカードを発行しない理由

経済学によれば、それぞれの主体は、自己の利益を常に最大化させるべく行動する。その前提をお店とお客さんの関係にあてはめると、次のようになる。

お客さんは、同じコーヒーとケーキを食べるならできるだけ安く済ませたい。もしくは同じ額を払うのであれば、できるだけ多くのものを手に入れたいと考える。

一方お店は、同じ金額を受け取るのであれば、コストはできるだけ小さくしたい。そのために仕入れやオペレーションを工夫したり、より単価の高いメニューを用意したりする。

これは、相互に相手をテイク(利用)し尽そうという態度だ。

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要約公開日 2021.12.15
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