地中海世界の表紙

地中海世界

ギリシア・ローマの歴史


本書の要点

  • 地中海世界は、今日における主な西洋文化の生みの親である。このような地中海世界の形成をなしとげたのがローマ帝国だ。

  • 自主・独立を重んじるギリシアの精神と文化は、「ポリス」という独特の共同体ないしは国家から生まれたものだった。

  • 「ローマの平和」(パクス=ロマーナ)は、あくまでその「支配」の上に築かれていた。

  • ローマは市民共同体を志向していたものの、次第に立ち行かなくなり、その後は権力と暴力を原理とする国家へと移行していく。

1 / 3

地中海世界

ローマなくして地中海世界はなかった

気候や風土などの自然環境が、そこに住む人々に影響を与えることは否定できない。とはいえ本書が扱う「地中海世界」とは、そうした自然的条件のことではなく、歴史のある時期に成立し、そして崩壊した歴史的世界のことを指す。

地中海世界は、今日における主な西洋文化の生みの親である。たとえばラテン的・ゲルマン的世界、ギリシア的・スラヴ的世界、オリエント的・アラブ的世界は、それぞれ地中海世界の崩壊から生まれた。また、キリスト教やイスラム教にまつわる文明も、もともとは地中海世界から発生したものだ。

地中海世界は、それ以前にあった多くの高度な文明を包括し、さまざまな矛盾と衝突を抱えながらも、ひとつの世界にまとめ上げた。このような地中海世界の形成をなしとげたのがローマ帝国だ。ローマなくして地中海世界は形成されなかっただろう。

ギリシア=ポリスと地中海世界

f8grapher/gettyimages

当時のローマの支配力は驚くべきものであった。それは領土の広さだけを意味しない。実際、同時代の人々がもっとも感銘を受けたのは、ローマがギリシアの文化を同等のものとして受け入れ、地中海世界に空前の繁栄をもたらしたことにあった。

もともとギリシアの世界は、ローマの支配が及ぶ百年以上前に衰退し、他国の支配に屈していた。だがローマは地中海世界を支配するなかで、自主・独立を重んじるギリシア人の精神と、それを育んだ文化を後世に伝えていった。それはギリシア人のつくり上げた「ポリス」という、独特の共同体ないしは国家から生まれたものだった。

ポリスとは一体どのようなもので、どう成立したのか。この問いをまず考えなければ、地中海世界を捉えることはできない。

2 / 3

ギリシアとポリス

ポリスの拡散・増加と商業交易の活性化

400年続いた暗黒時代のあと、ギリシア世界の黎明期が訪れた。それが古典ギリシアであり、ポリスの世界だ。

ポリスは一般的に「要砦(ようとりで)」を意味する。この言葉をギリシア人の国家に限定して使ったのは、アリストテレスの『政治学』が最初であった。彼によると、ポリスは複数の村落(コーメー)が合併して生まれたという。その背景には、防衛的・軍事的関心と、経済的関心の2つが働いたと見られる。

ポリスは基本的に、それぞれの村落の貴族層による政治統合だ。ゆえに実質的には、貴族が官職を独占していた。これに対して一般市民は、奴隷と家畜を用いて農耕に従事し、ときには余剰生産物を用いて交易を行なっていた。

とはいえ一般農民の生活は苦しく、貴族の間でも党争が繰り返されたため、没落農民と不平貴族は、次々と新天地を求めて植民地を開拓していった。こうしてギリシア=ポリスは、徐々に拡散・増加し、貨幣が用いられるようになったことも相まって、地中海地方では商業交易が活性化していく。

自主性を重んじる精神が文化を花開かせる

個人の自主性を重んじるポリスは、新しい文化を次々と生んでいった。まず発展していったのが、

もっと見る
この続きを見るには...
残り2556/3779文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2022.02.11
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved. Copyright © 2022弓削達 All Rights Reserved. 本文およびデータ等の著作権を含む知的所有権は弓削達、株式会社フライヤーに帰属し、事前に弓削達、株式会社フライヤーへの書面による承諾を得ることなく本資料の活用、およびその複製物に修正・加工することは堅く禁じられています。また、本資料およびその複製物を送信、複製および配布・譲渡することは堅く禁じられています。

一緒に読まれている要約

修身教授録
修身教授録
森信三
はじめて読む人のローマ史1200年
はじめて読む人のローマ史1200年
本村凌二
はじめての言語ゲーム
はじめての言語ゲーム
橋爪大三郎
デカルト入門
デカルト入門
小林道夫
ハブられても生き残るための深層心理学
ハブられても生き残るための深層心理学
きたやまおさむ
哲学探究
哲学探究
ルートウィッヒ・ウィトゲンシュタイン鬼界彰夫(訳)
教養としての「ローマ史」の読み方
教養としての「ローマ史」の読み方
本村凌二
競争しない競争戦略 改訂版
競争しない競争戦略 改訂版
山田英夫

同じカテゴリーの要約

「自分には価値がない」の心理学
「自分には価値がない」の心理学
根本橘夫
そろそろ論語
そろそろ論語
浅田すぐる
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
榎本博明
夜、寝る前に読みたい宇宙の話
夜、寝る前に読みたい宇宙の話
野田祥代
大きなシステムと小さなファンタジー
大きなシステムと小さなファンタジー
影山知明
オズの魔法使い
オズの魔法使い
ライマン・フランク・ボーム
君たちはどう生きるか
君たちはどう生きるか
吉野源三郎
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
荒俣宏
新版 思考の整理学
新版 思考の整理学
外山滋比古
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆