共感ベース思考

IT企業をやめて魚屋さんになった私の商いの心得
未読
共感ベース思考
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IT企業をやめて魚屋さんになった私の商いの心得
著者
未読
共感ベース思考
著者
出版社
出版日
2022年06月22日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

四国の西の玄関口、愛媛県八幡浜市で、要約者は育った。西日本有数の魚市場があり、食卓にも鯛やサザエがよく登場する。お肉よりお魚が主役だった。

大人になると、お魚ロスに悩まされるようになった。三枚におろすのは気が重い。子どもたちも回転寿司やお刺身は大好きだし、鮭やサバも好んで食べるが、鯛やサンマは食卓で目にしたことすらないかもしれない。なにもしないでいると、魚の食文化はジワジワと遠くへ離れていってしまう。

そんな「魚離れ」を残念に思い、「魚食」を未来につなごうと奮闘する、魚屋「寿商店」の2代目が、本書の著者・森朝奈さんだ。YouTubeやSNSで魚に関する発信を続け、魚好きの波に巻き込んで大きな流れをつくる。キーワードは「共感」だ。

新卒で入社した楽天から、跡継ぎとして寿商店へと転じた著者。創業者である父親は経営者であると同時に職人で、周囲のベテラン料理人も、はじめから著者の言葉を素直に受け止めてはくれず、現場でもなかなか認めてもらえない。そこで、会社の「穴」を自力で見つけては、メニューのリニューアルからシステム導入まで、「0を1にする」仕事に挑戦していく。

跡継ぎという立場でなくとも、新たな組織や集団に飛び込んだ人たちにとって、心の支えになる言葉やストーリーが見つかるはずだ。思いをつなぎ、人をつなぎ、文化をつなぐために必要な「共感ベース思考」は、日々の社会人生活でも大切にしたい感覚である。

ライター画像
Keisuke Yasuda

著者

森朝奈(もり あさな)
愛知県名古屋市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、楽天(現・楽天グループ)へ入社。その後、父親が創業した、鮮度抜群の魚介が地元で評判の「寿商店」に24歳で入社する。現在は常務取締役として、市場での仕入れから下処理・加工、取引先への卸し、飲食店の経営に奔走。魚好きが集える場所としてのYouTubeチャンネル「魚屋の森さん」などのSNSや、ファミリーサロンの運営を行い、魚食と水産業のファン拡大に努める。好きな海の生き物はくじらで、入社後につくった寿商店ロゴのモチーフに使用。好きな見た目の魚は金目鯛、味は太刀魚。

本書の要点

  • 要点
    1
    小学校の卒業アルバムにも将来の夢は「親のあとつぎ」と書いた著者。ゴールのない魚屋の仕事も「魚への愛」があるから続けられる。
  • 要点
    2
    人に「思い」を伝える「共感ベース思考」でYouTubeやSNSの発信を続け、周囲を巻き込み、当事者意識と愛着を広める。
  • 要点
    3
    会社の穴を探して自分で仕事をつくり、結果を出せば、周囲に認めてもらえるだけでなく自信にもなる。
  • 要点
    4
    プロセスを共有するとチームも当事者意識を持てるようになり、自分で考えるための材料も増やせる。チームづくりでは信頼と相互理解が大事だ。

要約

魚が好き!

幼少期の夢は「親のあとつぎ」

名古屋で40年以上続く鮮魚卸業を営む魚屋、寿商店。

保育園の年中~年長の頃、著者の父親が園にやってきて、子どもたちの前で「ぶり解体ショー」をしたことがあった。切り身の魚しか知らない子どもたちに、「丸ごとの魚」を見せてあげるためだった。保育園の友だちから「かっこいい!」と絶賛される。普段の仕事でもお客さまから感謝される父親の姿を見て、魚屋という職業に対するプライドを自然と持つようになった。

小学校の卒業アルバムに書いた将来の夢は「親のあとつぎ」。父親から「継いでほしい」と言われたことは一度もなかったが、父方の祖母からは「(お父さんの)嶢至を支えてやってちょうよ」といつも言われ、その期待がうれしかった。魚屋が自分の仕事だと意識するようになったのはそれからだ。

ゴールのない仕事の原動力
Promo_Link/gettyimages

寿商店を継ぐことは決定事項だったが、大学卒業後は別の企業に就職することを決めていた。寿商店には、新社会人ではなく即戦力として入社したかったからだ。

スマホが普及し、ネットショッピングが盛り上がりつつあった当時、「楽天市場に出店したが、思うように売れない」と父親から初めて仕事のことを相談された。しかし何も答えられず、役に立てないくやしさを覚えた。就活で楽天(現・楽天グループ)にエントリーしたのはそれがきっかけだった。

無事に入社してから1年、父親の体調不良をきっかけに退職を決意した。寿商店で働くと決め、「入社願い」を書いた。娘としてではなく、将来の会社の戦力として入社するためのけじめをつけたかったのだ。

寿商店に入社して、あらためて「魚が好き」だと気がついた。仕入れて、さばいて、食べてもらう。ゴールのない魚屋の仕事は「魚への愛」なしには続けられない。魚屋はやはり適職だった。

【必読ポイント!】 共感ベースの「思い」の発信

プロセスがもつ価値

企業アカウントからのSNSでの発信はいまでこそ当たりまえだが、寿商店に著者が入社した2011年当時は、そこまで流行っていなかった。寿商店がSNSでの発信を始めたきっかけは「たまたま」だった。

お正月には店頭限定で販売していた「海鮮生おせち」は、手頃な価格ながら多くの手間がかかっており、一から手づくりしていることを伝えたくなった。そこで、料理人の作業を撮影し、フェイスブックとブログに投稿をしてみた。

「手作業の温かみを感じて、素敵なお正月を迎えることができました」といったお客さまからのうれしい反応をもらえた。商品づくりのプロセス、寿商店の仕事そのものが、共感を呼ぶ付加価値をもっていることに気がついた。

発信者の「思い」を伝える意味

YouTubeチャンネル『魚屋の森さん』を始めたのは2020年3月。人気YouTuber「きまぐれクック」さんがレシピを制作し、寿商店が調理と販売を担当するイベントへの出店がきっかけだった。

予想をはるかに超える人数が集まり、小学生まで「通風鍋」を買いに来た。通風鍋の主な具は、かきや白子、あん肝で、「子どもが喜ぶ料理」というイメージはない。でも最近の子どもは、白子が「たらの精巣」だということもネットで知っていた。YouTubeが食育の手段に使えるかも、と興味をもった。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、家で魚を調理して食べる人を増やすためにも、配信を決意した。しかし食レポでは挙動不審になる。魚をさばくシーンも、これまで人にどう見えるかを意識したことがなく、苦労した。

共感や応援のコメントは大きな励みになった。「子どもとYouTubeを見ていたら、魚を食べたいと言い出したんです」というお客さまの声もあった。文字ではなく動画なら、「魚はおいしい」というメッセージを子どもにも直接届けられることを実感した。

企業アカウントであっても、大切にしているのは「自分たちの価値観に沿う内容」を発信することだ。担当者が自分の投稿に共感できなければ継続は難しいし、人の心は動かしにくい。人は「人」に共感する。情報に加えて、人の「思い」がきちんと伝わる。それを可能にするのが「共感ベース思考」だ。

当事者意識と愛着をもってもらう
Tirachard/gettyimages

本当に伝えたいことを発信するとはいっても、表現の仕方には気を配る。「だれに届けたいのか」「情報を受け取る相手にはどう見えるか」を念頭に、表現を工夫する。

寿商店がSNSで新商品をPRする場合、商品の企画段階から投稿する。たとえばふりかけをつくるなら、次のような流れになる。

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要約公開日 2022.09.09
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