企業の価値を生み出すものが、工場や設備などの有形資産から、人材や知財といった無形資産に急速にシフトしている。その源泉は人的資本だ。人的資本とは、働く一人ひとりが持つ特性や能力のことである。
いま「人的資本経営」に注目が集まる背景は何だろうか。まず投資家は、人的資本に投資しない企業を「未来のない企業」とみなすようになっている。また、働く個人は、仕事の意義を見出せない企業や、自己成長や社会貢献から背を向けた企業から容易に流出するようになった。
さらに、企業の事業戦略においてはイノベーションが重視され、それを実現するのは人であるという認識が広まった。社会もまた、人の多様性を尊重しない企業を見放すようになっていった。これにより、人的資本経営にますますスポットライトがあたるようになっている。
人的資本経営には3つのポイントがある。
1つ目のポイントは、「個人の能力に具体的にフォーカスする」ことだ。営業職を例にとると、アポイントをとるのが得意なのか、資料作成が上手いのか、あるいは高確率でクロージングできるのかというように、個々人の能力を具体的に分解していく。
2つ目のポイントは、こうした個々の能力を組み合わせて「チームとして結果を出す」ことである。従来のマネジメントが適材適所をめざしていたとすれば、今後めざすべきは、よりきめの細かな「適能適所」だ。
そして3つ目のポイントは、現場のリーダーが理論と戦略をチームに落とし込むことである。人的資本経営の成功の鍵を握るのは、現場のリーダーである。
これからは、与えられた人材(資源)を効率よく使う「やりくり型」組織から、組織の枠を越えて人材(資本)により利益を生み出す「レバレッジ型」組織への転換が重要となる。これらを踏まえて、本書の目的は、現場の管理職(リーダー)が、人的資本の最大化に向けて、チームとして成果をあげられるように促すことである。
著者は、これからの時代の管理職(リーダー)を、「チーム経営責任者」すなわち「TMO(Team Management Officer)」と呼ぶ。そもそもマネジメントとは、「管理」ではなく「経営」を指す言葉である。
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