脳の地図を書き換える

神経科学の冒険
未読
脳の地図を書き換える
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神経科学の冒険
未読
脳の地図を書き換える
出版社
出版日
2023年05月25日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

脳の地図を思い浮かべてほしい。ここはものを見るため、あそこは記憶をするため。領域ごとに役割があり、きれいに区分けされている。そんな脳へのイメージは、この本で大いに書き換えられてしまう。

昼夜を問わず、脳では領土争いが繰り広げられている。互いにぶつかり合いながら、適切な相手とつながりあい、近くに住んだと思えば、ときに復讐することもある。何兆もの「生きもの」が集まった、生きた生命体、それが脳なのだ。

せわしなく過ごす日中ではなく、夜になって寝首をかこうとしている輩もいるかもしれない。「視覚をつかさどる領域が他の感覚に乗っ取られるのを防ぐために夢がある」という著者の仮説は、とても刺激的だ。「要するに夢というのは、神経の可塑性と地球の自転とのあいだに誕生した奇妙な私生児ではないだろうか」という表現はなんとも詩的だ。

著者は神経科学者であると同時に、脳と機械をつなぐブレイン・マシン・インターフェースを開発する、ネオセンソリー社のCEOでもある。同社の製品であるネオセンソリー・ベストは、たとえば「音を触覚に変換」する。生まれつき音の聞こえない人が、皮膚で「聞く」方法をマスターしていく。そんな信じられない瞬間をいくつも目にしてきた著者ほど、脳の可能性を確信している人間はいないかもしれない。

まだ未知なことも多い、だからこそ深くて素敵な脳の世界へようこそ。この本を読めばあなたも、自分がもつ素晴らしい「能力」に魅了されるはずだ。

ライター画像
Keisuke Yasuda

著者

デイヴィッド・イーグルマン(David Eagleman)
1971年生まれ。スタンフォード大学で「脳の可塑性」講座を教える神経科学者。エミー賞にノミネートされたテレビシリーズ「The Brain」の生みの親で同番組のプレゼンターも務めたほか、非侵襲的なブレイン・マシン・インターフェースを開発するネオセンソリー社のCEOでもある。これまで7冊の著書を上梓し、なかでも『あなたの知らない脳――意識は傍観者である』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)は世界的なベストセラーとなっている。カリフォルニア州パロアルト在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    脳は自らの配線を変え、果てしない変化と適応を続ける「ライブワイヤード」なシステムだ。感覚器官の活動バランスが崩れると脳領域は短時間で乗っ取られる。
  • 要点
    2
    汎用の計算装置である脳は、ある感覚で別の感覚を代行できる。感覚代行の先には、感覚強化、感覚追加の世界が広がっている。
  • 要点
    3
    脳は義腕のような新しい体でも、巧みに操る方法を学習できる。
  • 要点
    4
    自分にとって何が大事かにもとづいて、脳の領土の地図は描かれる。

要約

変化を続ける脳

脳が半分しかない子ども

3歳のマシューが床に倒れたまま目を覚まさなくなったことがあった。さまざまな検査を受けたが悪いところが見つからない。1カ月後の食事の最中、今度は奇妙な表情を浮かべたまま、右腕を頭の上に上げた状態で、1分ほど固まった。神経科で脳の活動を測定すると、てんかんを示す特徴が見つかった。

そのうち発作が2分おきに起きるようになった。入院は年10回に及び、それが3年続いたのちジョンズ・ホプキンス病院へ移り、ラスムッセン脳炎にかかっていることが判明する。この状態での治療法は大脳半球切除術しかない。両親は数カ月悩み、決断した。

少年は排便や排尿のコントロールや、歩くこと、話すことができなくなった。しかし、理学療法と言語療法によって、3カ月後には年齢相応の発達段階に達することができた。それからも、マシューは右手を使ったり歩いたりすることに不自由を抱えている。それでも「普通の生活」を送っており、長期記憶も心配ない。レストランでも問題なく働いている。彼の脳が半分ないことに誰も気づけない。

このようなことが可能なのは、「残された脳が自らの配線を変え、失われた機能を別の領域が肩代わりしたから」だ。スマホの電子回路を半分にしたら電話はかけられない。それが「脳の可塑性」である。この脳のあり方を著者は、「ライブワイヤード(livewired)」という新語で表現している。「果てしない変化と適応を続けながら情報を求めるシステム」であることこそ、脳の本質なのだ。

夢を見る進化的な理由
Natalia Misintseva/gettyimages

ここ数十年の発見で、脳の可塑性についてその変化の驚異的な速さがわかっている。

とある研究では、脳の大々的な変化の速さを調べるため、目の見える人に研究室の環境で5日間目隠しをして点字訓練を受けてもらった。結果は驚くべきものだった。目隠しをしなかった対照群の被験者よりも、点字の細かな違いを感じ分けるのがはるかに上手になったのだ。しかも、目隠しをされた被験者だけが、物体に触れたとき、あるいは音や単語に対して、(一般に視覚野があるとされる)後頭葉も活性化するようになっていた。この現象は実験後1日で消えた。

このように脳、神経は柔軟に変化することで生存に役立つ。しかしそれが裏目に出て、感覚器官の活動バランスが崩れただけで、脳領域が短時間で乗っ取られる可能性もある。地球上にいると、平均12時間サイクルで夜という闇に包まれる。それで唯一不利になる感覚は視覚だけであり、そのハンデに対処するために夢を見ている、というのが著者の仮説だ。

夜間で夢が現れるのはレム睡眠の最中である。脳幹の「橋(きょう)」にある特定のニューロン群が活発化することで、主要な筋肉群が麻痺し、筋肉の活動を停止させると、「脳は実際に体を動かさずとも擬似的に世界を経験できる」のだ。そして脳幹から後頭部へニューロンのスパイク波が伝わり、視覚野を作動させる。

視覚野は、闇の中で自らの領土を守るために自衛手段を進化させたのである。

【必読ポイント!】 脳はどんな入力でも対応できる

感覚代行
Benjavisa/gettyimages

脳は、どこからどんな情報が入力されても、ただその活用法を見出すだけだ。利用できる信号から何ができるかを判断する汎用の計算装置である。

著者はこれを「ポテトヘッドの進化モデル」と呼ぶ。じゃがいも形の人形であるポテトヘッドは、好きなように体のパーツを差し込める。それと同じように、目や耳、指先といった感覚器官は、「プラグ・アンド・プレイの周辺機器にすぎない」。とすれば、この感覚器官だけに頼らなくてもいいはずだ。たとえば、ビデオカメラからのデータを皮膚の触覚に変換するとどうなるだろう。

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要約公開日 2023.08.12
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