スロー・イズ・ビューティフル

遅さとしての文化
未読
スロー・イズ・ビューティフル
スロー・イズ・ビューティフル
遅さとしての文化
著者
未読
スロー・イズ・ビューティフル
著者
出版社
出版日
2004年06月09日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

今を生きる人のなかで「わたしは時間的に余裕のある暮らしをしている」「今・ここに集中できている」と断言できる人は珍しいだろう。そして、時間的な観点で、今の暮らしに心から満足している人もほとんどいないのではないかと思う。

本書は『スロー・イズ・ビューティフル』という書名の通り、急ぎすぎないことの価値を提起する一冊だ。著者は文化人類学者で、「スローな社会」を目指して活動しているNGO「ナマケモノ倶楽部」の代表者、辻信一氏だ。本書では、今を生きること、スロー・フード、スロー・ホーム、スロー・ビジネス、スロー・ボディなどといった観点から、「遅さとしての文化」について論じている。

要約者にとって特に印象的だったのは、現代社会は「準備社会」で、わたしたちは常に未来のための準備に忙しいという指摘である。生まれた後のために胎教を受けることから始まり、“いい幼稚園”や“いい学校”を目指して努力した後は、自分たちの“いい老後”や子どもの“いい教育”のために“いい職場”に就職しようとする。そして“いい教育”を受けた子どもは、自分の“いい就職”と親の“いい老後”のために準備をする――という回し車から死ぬまで降りることができない。

効率やスピードが絶対的な価値とされる現代社会の文化に疑問を抱いている方はもちろん、そうでない方も、少し仕事や家事の手を止めて、本書を読む時間が取れることを願う。

著者

辻信一(つじ しんいち)
文化人類学者、環境=文化アクティビスト。1952年生まれ。明治学院大学名誉教授。
1999年、NGO「ナマケモノ倶楽部」を設立、その代表として「スローライフ」、「ハチドリのひとしずく」、「キャンドルナイト」、「しあわせの経済」、「ローカリゼーション」などのキャンペーンを展開。「スロー・ビジネス」を提唱し、「カフェスロー」、「ゆっくり堂」などの会社設立にも参画。
著書に『「ゆっくり」でいいんだよ』(ちくまプリマー新書)など、編書に『大岩剛一選集 ロスト&ファウンド』(ゆっくり堂)など、訳書にR.F.マーフィー著『ボディ・サイレント』(平凡社ライブラリー)など、映像作品に『レイジーマン物語 タイの森で出会ったなまけ者』(DVDブックシリーズ「アジアの叡智」第8巻)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    我々は、今後のための準備や積立貯金、保険などを通して、「今」を切り詰めてでも「将来」に備えようとしている。一方、現代の若者たちは「将来のために今を犠牲にするのはバカげている」と考える傾向にあるようだ。その背景には「今を取り戻したい」「充実した今を生きたい」という切実な思いがあるのだろう。
  • 要点
    2
    加速は成長を呼び、成長はさらなる加速を促して「スピード病」を生む。この病が蔓延した社会では、趣味や恋愛、休息などといった経済的でも生産的でもないものは「雑事」と呼ばれ、切り捨てられる。だが本来、こうした雑事の集積こそ人生であるはずだ。

要約

現代社会の「準備」「保険」文化

現代の若者は刹那的になっている?

ある団体が若者にアンケートを取ったところ、多くの若者が「将来のために今を犠牲にするのはバカげている」と考えていることがわかった。この結果について、「現代の若者は刹那的になっている」と指摘し、問題視する声があるそうだ。

著者が設立したNGO「ナマケモノ倶楽部」の世話人の一人で、“スロー・ビジネス”を実践する中村隆市氏は「将来のために今を犠牲にするのはバカげている」という感性の方こそがまともだと言う。中村氏の言う通り、若者たちの考えは必ずしも「今さえよければそれでいい」という刹那主義ではないはずだ。

準備社会における「今を取り戻したい」という欲求
PeopleImages/gettyimages

中村氏によると現代社会は「準備社会」であり、人々はいつも将来に向けた準備に夢中だ。胎児は生まれた後のために胎教を受け、幼児はいい幼稚園に行くために準備をし、幼稚園児はいい学校にいくために準備をして……これがずっと続き、社会人になると自分たちのいい老後と、子どもたちのいい教育を確保するためにいい職場を探す。

この流れは、現代社会が「保険社会」であることと深く関係しているだろう。年金や積み立て貯金、傷害保険、火災保険……我々はありとあらゆる災難を想定し、「今」を切り詰めてでも「将来」に備えようとしている。メディアで「先行き不透明」という表現が頻繁に使われているのも、それと関係しているのかもしれない。しかし本当に不透明なのは先行きではなく足元ではないだろうか。

現代日本では、エリート大学の若者たちがこぞって金融業や保険業に就こうとする。だが、その一方で「保険や年金や貯金なんてバカバカしい」という若者も増えている。その背景には、評論家の言うように、将来への投資に興味を持たなくなったということもあるだろう。だがそれと同時に「今を取り戻したい」「充実した今を生きたい」という思いが切実なものになりつつあるのではないかという気がするのだ。

スロー・フード

汚染されつつある食習慣

「未来食」を提唱する大谷ゆみこ氏は「食習慣汚染」の危険性を指摘する。具体的には、我々の食生活には7つの変化が起こっているという。

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要約公開日 2023.08.17
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