差別と資本主義

レイシズム・キャンセルカルチャー・ジェンダー不平等
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おすすめポイント

昨今ではLGBT問題など、海外に端を発した、人権にまつわる議論が盛んである。こうしたものは社会がそれまで良しとしてきたものに変容を迫ることもあり、賛否両論が激しく入り乱れるのが常である。

「差別と資本主義」というタイトルの通り、本書では経済的な不平等について論じているものがある。第4章の論文「資本の野蛮化」はその最たるものだろう。共産主義という言葉は我々に不穏なものを多く連想させる。それは、共産主義国家が西側諸国と深く対立してきた歴史があり、その流れを組む国の幾つかが日本における安全保障上の懸念を呼ぶからだろう。一方で『共産主義宣言』を書いたマルクスには功績もある。その一つが、競争が搾取を生むという資本主義の構造を、徹底的に暴露したことだ。本章では、そうしたことを強く想起させるような格差の実態を克明に描写している。

国内企業の資本拡大は、至極まっとうなことであるかのように見える。しかし、企業が利益を無秩序に追求すれば、労働者の人生が吸い取られてしまうことも、イメージしやすいだろう。著者の言うように、資本主義そのものから脱却することは難しいにしても、その在り方は絶えず議論されるべきだ。

本書には他にも、キャンセルカルチャーや見えない差別待遇など、人権問題の主要なトピックスが並んでいる。人権というテーマはイデオロギー的な対立を生みやすい傾向にあるが、本書の言葉にぜひ耳を傾けていただきたい。

著者

トマ・ピケティ(Thomas Piketty)
フランス国立社会科学高等研究院の研究所長、パリ経済学校の教授、ならびにグローバル不平等研究所の共同主宰者。とくにLe capital au XXIe siècle (2013)(山形浩生・守岡桜・森本正史訳『21世紀の資本』みすず書房、2014年)、Capital et Idéologie (2019)、Une brève histoire de l’égalité (2021)の著者として知られる。

ロール・ミュラ(Laure Murat)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校ヨーロッパ言語・越境文化学科教授。著書に、La Maison du docteur Blanche. Histoire d’un asile et de ses pensionnaires, de Nerval à Maupassant (Lattès, 2001)(ゴンクール伝記賞およびアカデミー・フランセーズ批評家賞受賞。吉田春美訳『ブランシュ先生の精神病院――埋もれていた19世紀の「狂気」の逸話』原書房、2003年)、Passage de l’Odéon. Sylvia Beach, Adrienne Monnier et la vie littéraire de l’entre-deux guerres à Paris (Fayard, 2003)、La Loi du genre. Une histoire culturelle du « troisième sexe » (Fayard, 2006)、L’Homme qui se prenait pour Napoléon. Pour une histoire politique de la folie (Gallimard, 2011)(フェミナ賞随筆部門受賞)他。米国とフランスという二重の視点からの探究が、最近の寄稿や著作Ceci n’est pas une ville (Flammarion, 2016) やUne révolution sexuelle ? Réflexions sur l’après-Weinstein (Stock, 2018) の特徴である。

セシル・アルデュイ(Cécile Alduy)
スタンフォード大学(米国)フランス文学・文明学の教授、パリ政治学院政治学研究センターCEVIPOFの准研究員。政治言説分析の専門家としてこれまでにスイユ出版社からCe qu’ils disent vraiment. Les politiques pris aux mots (2017)、Marine Le Pen prise aux mots. Décryptage du nouveau discours frontiste (2015)を刊行、2015 年Panorama des Idées誌「社会を考える」部門文学賞を受賞。政治ジャーナリストとしてLe Monde, AOC, Le Nouveau Magazine littéraire, L’Obs, The Atlantic, The Nation, The Boston Review, politico, CNN に定期的に記事を寄稿する他、極右に関する学術論文を多数執筆。

リュディヴィーヌ・バンティニ(Ludivine Bantigny)
歴史家、教員・研究者、ルーアン大学GRHisラボメンバー。社会参加、社会運動・反乱・革命の歴史を研究。この主題で数々の著作があり、とくにLa France à l’heure du monde (Seuil, 2017)、1968. De grands soirs en petits matins (Seuil, 2018), Révolution (Anamosa, 2019)、« La plus belle avenue du monde ». Une histoire sociale et politique des Champs-Élysées (La Découverte, 2020)、La Commune au présent. Une correspondance par-delà le temps (La Découverte, 2021) およびユゴー・パレータとの共著Face à la menace fasciste (Textuel, 2021)が知られる。

本書の要点

  • 要点
    1
    外国人に対する偏見はフランスでも多くみられるが、一方でそれを懸念する市民もまた多くいる。ただ、いかなる国も社会も、差別に対するシステムを生み出さなかった。
  • 要点
    2
    まずは社会に潜んでいる格差を明らかにする。多くの国では質の高いサービスが提供されている、と思われているが、サービスにおける不平等は巧妙に隠れている。
  • 要点
    3
    資本主義は労働者に過酷な労働を強いる。それは競争にさらされた資本家の習性のようなもので、資本主義の構造上の問題でもある。

要約

【必読ポイント!】 見えない差別(ピケティ)

正義は無視される

欧州では、アイデンティティに関する政治的な議論が激化している。しかし、「論じる人の多くはヒステリー状態にある」。たとえば、極右派による扇動がそれにあたる。一見かれらのマイノリティに対する攻撃は正当性があるようにも思えるが、国民国家に属する人々の出身は一様で然るべきという幻想を抱いているにすぎない。そこから激しく湧き上がる欲求は、社会を破壊する。

イスラム教徒の聖戦(ジハード)によるテロリズムへの恐怖から、何百万人もの人々に対してテロリストのレッテルを貼るのはナンセンスなことだ。テロリスト自体が極めてわずかなはずなのに、一般の人にまで疑いをかけるシステムが行政の手でつくられてしまう。

こうした硬直的な右派だけでなく、「自分の居場所を見出せない市民」も大勢いる。かれらは、アイデンティティに拘泥することの無益さ、社会的、経済的問題に対する無力さをよく理解している。アイデンティティへの姿勢それ自体が、右傾化を引き起こしているからだ。一方でかれらは、経済・社会政策と反差別政策、正義や権利の平等、人種差別の測定について語ってこなかった。「本書の対象とする読者は、こうした状況に満足していないすべての市民である」。

隠れた不平等
francescoch/gettyimages

いかなる国も、いかなる社会も、諸々の差別に対決できるモデルを生み出していない。現行のモデルを存続させるのも、他国のモデルを流用することも、現状では通用しない。差別という複雑な問題に対して深く知り、そして数多の経験から出力される教訓を調べなくてはならないだろう。

まず、権利や機会を人物の出身と切り離して均等に与えるには、「社会的平等を促進するところから始めなくてはならない」。多様な民族や人種、国家に基づく出自に関連した不平等は、それぞれの事情に合わせた固有の反差別政策で埋め合わせなければならないだろう。

差別に対する闘争は、社会的、経済的な平等のために、より一般的な仕方でなされなくてはならない。それは富やステータスの格差の縮小にもつながるものだ。しかし、平等化を実現するための政策は実施されてこなかった。

たとえば教育の分野だ。この領域では質の高い公共サービスが必要とされている。多くの国の政府は、豊かでない人に手厚いサービスを提供している、と自負しているが、これは偽善だ。パリ地域圏の中等学校に焦点を当ててみよう。上流の人々が居住する地区における非正規や新人の教員の割合は10%であるのに対し、最も恵まれていない人々の居住する地区では50%にも達している。言い換えれば、恵まれた社会階層出身の生徒は、経験豊富な正規教員に巡り会う機会が多いともいえる。そこには給与格差も存在するが、これを是正するために捻出される特別手当(積極的格差是正措置)は、不平等を補うのに十分とは言えない状態にある。

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要約公開日 2023.08.26
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