米大手コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーが「1対5の法則」で示したように、「新規顧客に商品を販売するには、既存顧客に販売する場合の5倍のコストがかかる」。日本の人口が減少していく中では、せっかく獲得した新規顧客に「1回で十分」と思われるような短期偏重のビジネスでは成長は望めない。だからこそ、新規顧客と長期的な関係を構築し、一人の顧客が生み出す利益を上げ、マーケティング施策の幅も広げられるLTV向上施策が必要になる。
「LTV(Life Time Value)」とは、「顧客生涯価値」を指す。サブスクリプション型ビジネス(サブスク)は定額課金が前提なので、LTVとの関連性が深い。しかし、家具のような購入頻度の低い商品でもLTVは欠かせない。家具は引っ越しなどの顧客状況の変化に応じて検討が開始される。このとき「最初に思い浮かべる候補群」に入ることができれば、購入される可能性が格段に上がる。そのためには、「家具を検討し始める前からの継続接触」が必須だ。
デジタルマーケティングの第一人者と目されている著者だからこそ、デジタルマーケティングは「短期的な顧客の刈り取り」に終始していたと指摘する。データ取得が容易だからだ。デジタル広告を打てば、広告をクリックした人数から、購入者数までを簡単に把握できる。「1人が購入するために必要な広告費(CPA=Cost Per Acquisition)」の計算も容易だ。成果がリアルタイムで丸裸になってしまうので、短期での費用対効果を追求し続ける「CPAモンスター」化する人が出てくる。しかし、その先に待ち受けている市場はレッド・オーシャンだ。
本来のデジタルマーケティングの強みとは、「長期的な顧客とのコミュニケーション」にある。デジタルは顧客接点の中でも「最も安価に継続接触が可能」だからだ。
デジタルによる顧客接点の特性は2つある。
第1の特性は「セルフサービス型」だ。Webサイトなどは顧客が自分で見に行くので、営業訪問、接客といった人件費がかからない。長期的に繰り返し顧客に情報を届けられるメリットがある。
第2の特性は「ストック型」であることだ。資産さえ築いてしまえば、長期的に低コストで運用できる。Webサイトの検索流入者やメールマガジン、アプリの登録者など、接点を得た顧客に情報を無料で送れる。
つまりデジタルマーケティングは、長期的な顧客との関係構築にこそ大きな効果を発揮するのだ。
定期購入ユーザーの「人数×単価×継続率」を指標とするため、サブスクビジネスではLTVに意識が向きやすい。だからといって、その取り組みが他のビジネスより進んでいるわけでもない。言葉をよく目にするわりに、成功事例もなかなか見つけられない。山積する失敗事例が静かに忘れられているからだ。
たとえば「顧客の囲い込み」施策は、ロイヤルティの極めて高いファンビジネスか大規模プラットフォーマーでなければ本来不可能だ。それでも手をつけがちな典型的な失敗例が、「会員プログラム」「会員アプリ」「サブスク」「メディア」の「妄想四天王」である。
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