LTV(ライフタイムバリュー)の罠

未読
LTV(ライフタイムバリュー)の罠
LTV(ライフタイムバリュー)の罠
未読
LTV(ライフタイムバリュー)の罠
出版社
出版日
2023年07月24日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
要約全文を読むには会員登録ログインが必要です
ログイン
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

本書のタイトルにある「LTV」とは、Life Time Valueの略称であり、日本語でいえば「顧客生涯価値」だ。仕事をする上で誰もが一度は必ず考えるであろう大きな課題である。要約者も現場担当者として仕事をする中で、この壁にぶちあたって何度も苦い経験をした。というのも期初に経営者からは長期的な視点でのLTV向上施策やブランディングを期待されていたのに、期末の評価段階になってなぜか短期的な「売り上げ」への貢献を厳しく求められたからだ。本書は、そうした悩みを抱える要約者の切実な課題に大きな光を投げかけてくれた。

著者は長年、大手企業のデジタルマーケティングのコンサルティングを手掛けてきた、その道の第一人者だ。ブランディングやLTVといった一見美しくその一方で曖昧な言葉だけに逃げることなく、徹底的に数字と成果に向き合うその姿にグッときた。

一見派手だが一般的な企業で効果を出すことが難しい「会員プログラム」や「会員アプリ」、「サブスク」や「メディア」という安易な顧客囲い込み施策を「妄想四天王」と一刀両断し、地味な仕事かもしれないが、やれば必ず効果の出る「定石」にしぼって実践方法を具体的に紹介していることには、とりわけ拍手を送りたい。

特に著者が本書で提唱する新しいフレームワーク「MAST(マスト)」は必読の価値がある。会社で上記の「妄想四天王」に関わっている人には、ぜひ本書を手に取っていただきたい。ビジネスを成長させるためになぜLTVを向上させることが必要なのか? その背景から具体的な実践方法がたった一冊で一望できる。

ライター画像
石山敏行

著者

垣内勇威(かきうち ゆうい)
株式会社WACUL 代表取締役。
東京大学卒。ビービットから、2013年にWACUL入社。改善提案から効果検証までマーケティングのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」を立ち上げる。2019年に産学連携型の研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」を設立。研究所所長および取締役CIO(Chief Incubation Officer)として、新規事業や新機能の企画・開発およびDXコンサルティング、大企業とのPoC(概念実証)など、社内外問わず長期目線での事業開発の責任者を務めてきた。22年5月に同社代表取締役に就任。著書に『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』『BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?』(両書共に日本実業出版社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    一人の顧客が生み出す利益を倍増させるにはLTV向上施策が必要である。そのためにはデジタルマーケティングが効果的だ。最も安価に顧客への継続接触が可能だからだ。
  • 要点
    2
    「会員プログラム」などの顧客囲い込み施策は一般的な企業で効果を出すことは難しい。定石は「LTVボトルネック」の解消だ。
  • 要点
    3
    企業が顧客を逃す「4つのボトルネック」とは「Meet(出会う)」「Attract(引き付ける)」「Sense(検知する)」「Trade(商売する)」、すなわち「MAST(マスト)」だ。その解消には企業視点だけでなく、顧客視点も必要である。

要約

顧客が生み出す利益の倍増方法

なぜLTVの向上が必要なのか?

米大手コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーが「1対5の法則」で示したように、「新規顧客に商品を販売するには、既存顧客に販売する場合の5倍のコストがかかる」。日本の人口が減少していく中では、せっかく獲得した新規顧客に「1回で十分」と思われるような短期偏重のビジネスでは成長は望めない。だからこそ、新規顧客と長期的な関係を構築し、一人の顧客が生み出す利益を上げ、マーケティング施策の幅も広げられるLTV向上施策が必要になる。

「LTV(Life Time Value)」とは、「顧客生涯価値」を指す。サブスクリプション型ビジネス(サブスク)は定額課金が前提なので、LTVとの関連性が深い。しかし、家具のような購入頻度の低い商品でもLTVは欠かせない。家具は引っ越しなどの顧客状況の変化に応じて検討が開始される。このとき「最初に思い浮かべる候補群」に入ることができれば、購入される可能性が格段に上がる。そのためには、「家具を検討し始める前からの継続接触」が必須だ。

2つの特性
Blue Planet Studio/gettyimages

デジタルマーケティングの第一人者と目されている著者だからこそ、デジタルマーケティングは「短期的な顧客の刈り取り」に終始していたと指摘する。データ取得が容易だからだ。デジタル広告を打てば、広告をクリックした人数から、購入者数までを簡単に把握できる。「1人が購入するために必要な広告費(CPA=Cost Per Acquisition)」の計算も容易だ。成果がリアルタイムで丸裸になってしまうので、短期での費用対効果を追求し続ける「CPAモンスター」化する人が出てくる。しかし、その先に待ち受けている市場はレッド・オーシャンだ。

本来のデジタルマーケティングの強みとは、「長期的な顧客とのコミュニケーション」にある。デジタルは顧客接点の中でも「最も安価に継続接触が可能」だからだ。

デジタルによる顧客接点の特性は2つある。

第1の特性は「セルフサービス型」だ。Webサイトなどは顧客が自分で見に行くので、営業訪問、接客といった人件費がかからない。長期的に繰り返し顧客に情報を届けられるメリットがある。

第2の特性は「ストック型」であることだ。資産さえ築いてしまえば、長期的に低コストで運用できる。Webサイトの検索流入者やメールマガジン、アプリの登録者など、接点を得た顧客に情報を無料で送れる。

つまりデジタルマーケティングは、長期的な顧客との関係構築にこそ大きな効果を発揮するのだ。

LTVを成果につなげるには?

LTV施策は「廃墟」になりがち
metamorworks/gettyimages

定期購入ユーザーの「人数×単価×継続率」を指標とするため、サブスクビジネスではLTVに意識が向きやすい。だからといって、その取り組みが他のビジネスより進んでいるわけでもない。言葉をよく目にするわりに、成功事例もなかなか見つけられない。山積する失敗事例が静かに忘れられているからだ。

たとえば「顧客の囲い込み」施策は、ロイヤルティの極めて高いファンビジネスか大規模プラットフォーマーでなければ本来不可能だ。それでも手をつけがちな典型的な失敗例が、「会員プログラム」「会員アプリ」「サブスク」「メディア」の「妄想四天王」である。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2973/4316文字
会員登録(7日間無料)

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2023.10.19
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
逆張り思考
逆張り思考
成田修造
未読
論理が伝わる 世界標準の「書く技術」
論理が伝わる 世界標準の「書く技術」
倉島保美
未読
消齢化社会
消齢化社会
博報堂生活総合研究所
未読
アナロジア
アナロジア
ジョージ・ダイソン服部桂(監訳)橋本大也(訳)
未読
日本の人的資本経営が危ない
日本の人的資本経営が危ない
佐々木聡
未読
半分、減らす。
半分、減らす。
川野泰周
未読
夢と金
夢と金
西野亮廣
未読
挫折からのキャリア論
挫折からのキャリア論
山口真由
未読
法人導入をお考えのお客様