2022年4月23日、観光船「KAZU Ⅰ」が知床半島沖で沈没した。この惨事で、乗客と乗員の合計26名のうち、20名が亡くなり、残りは行方不明となっている。知床観光船沈没事故は、連日メディアが取り上げ、運行会社の社長は厳しく批判されることになった。
会見中の社長は責任者として許されざる態度だった。しかし、個人を吊し上げたところで事故の原因を排除することも、同じような事故を防ぐこともできない。メディアは整備不良や無理な運行を事故の原因として報じたが、それらは単なる過程だ。
「なぜ、整備不良のまま海に出たのか?」「なぜ、無理な運行を続けたのか?」。原因の本質は、これらの問いの先にある。突き詰めれば、原因は「お金がなかったから」だ。
2005年7月に世界自然遺産に登録された知床は、その美しい自然で年間平均100万人(2006年は235万人)の観光客を魅了してきた。しかし、コロナ禍により観光業が打撃を受け、観光船の運行会社4社は2020年7月にクラウドファンディングを立ち上げて支援を求めた。事故直後に支援ページは削除されたが、そこには営業自粛要請で厳しい苦境に立たされる運行会社の様子が詳述されていた。
1ヶ月半のクラウドファンディングで集めた支援は622万円。悪くないように見えるが、リターンは「オリジナルTシャツ」など、原価が高いものが多い。宣伝、デザインや配送の人件費や経費等を計算してみると、残るのは1社あたり70万円程度だ。資金不足にあえぐ会社はこれでは持ちこたえられない。
もしもこのクラウドファンディングで各社に200万円が入っていれば、無理な運行をしないで済んだかもしれない。命は救えたかもしれないのだ。
彼らに足りなかったのは「クラウドファンディングの知識」だ。知識不足はときに、人の命に関わることもある。
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