アンパンマンは、世に出てから人気が出るまで約20年かかっている。著者は仲間内で「スピードキング」「はやがきやなせ」などと呼ばれていたが、実際には筆はとても遅いほうなのだという。習作をくりかえし、旧作を加筆修正してようやく完成させる、本人の言を借りれば「鈍重で晩成のおそ咲き」だ。アンパンマンもそのようにゆっくりと時間をかけてつくられた。アンパンマンは今でも未完成なのだという。
著者のストーリーの作り方は少し変わっている。まず、ストーリーはほとんど考えない。最初に考えるのはキャラクターだ。キャラクターの顔ができ、身体ができ、性格ができる。それから背景を考える。山や川、海や空などの背景などができれば、ストーリーは考えずとも自然とできてくるのだそうだ。
一番大事なのはキャスティング。ここで失敗するとすべてがおしまいになってしまうので、「汗まみれのいのちがけ」で考える。お話をつくるというのは大変な作業だが、仕事は難しいほど面白いものだ。
仕事を続けるのは、ゴールのないマラソンをずっと続けるようなものだ。才能にあまり恵まれない者はゆっくり自分のペースで走ればいい。はじめは最後尾の集団の中にいても、気づけばアンパンマンのように、先頭集団を走っていることもあるのだ。
キャラクターとしてのアンパンマンが活躍するのは、メルヘン・ワールドの中でのことだ。アンパンマンのパン屋は森の中にあるが、現実的にはそんな場所ではパンは売れない。アンパンマンは、現実社会にはない架空の世界のパンの妖精のようなものなのだ。
やなせ作品にはこのようなメルヘンな空気が共通して漂っている。それは幼い頃に読んだ本の影響なのだという。著者が手がけたアンパンマンの映画のストーリーには、メーテルリンクの“青い鳥”の影響が表れている。意識的に“青い鳥”を下敷きにしたわけではなくとも、子どものときに心に染み込んだものは大人になって出てくるものだ。子どもの頃の生活は長い人生の時間の中でも特に大切で、そのぶんまわりの大人の責任は大きい。
だから、子ども向けに作品をかく者の責任も重大だ。子どもの頃に読んだ作品に、大人になってからも助けられることはよくある。教育者ではなくとも、自分の作品が子どもたちの心に影響を与えるのだから、作品には大きな責任があるのだと著者は語る。
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