スラムダンク勝利学

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出版社
集英社インターナショナル

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出版日
2000年10月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

『SLAM DUNK』(スラムダンク)と言えばもはや語る必要もない名作漫画である。その卓越した画力と演出力が織りなす青春ドラマ、研ぎ澄まされた台詞、精神と精神のぶつかり合い、そして手に汗握る勝負の数々。1990年に連載開始した作品であるものの、世代を超えて多くの人をひきつけてやまない。アニメの終了から25年以上が経過した2022年、長らく映像化されてこなかった屈指の名勝負とされる山王戦が、原作者の井上雄彦が自ら監督と脚本を務め『THE FIRST SLAM DUNK』として映画化されたことも記憶に新しい。本作は日本のみならず韓国でも大ヒットとなった。

そんな名作中の名作『SLAM DUNK』から、スポーツにおける「勝利するための考え方」を導き出す、というのが本書の試みである。30年以上前に連載が始まった漫画と実際のスポーツ理論は果たしてかみ合うのかという疑問もあるが、本書を読み進めれば意外なほど親和性が高いことに気づくだろう。それは『SLAM DUNK』がスポーツ漫画として、解像度の高さと先見の明を持っていたことの証左ではないだろうか。

本書はスポーツに勝つための理論を得られるだけでなく、漫画『SLAM DUNK』への新たな気づきをもたらしてもくれるだろう。

著者

辻秀一(つじ しゅういち)
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学病院にて内料研修。人の病気を治すことよりも、自分らしく心豊かに生きること、クォリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を志す。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターにて健康医学の代表であるスポーツ医科学を学ぶ。活動の志は「ごきげんJAPAN」と「スポーツ文化 NIPPON」の創生。
応用スポーツ心理学とフロー理論を基にしたメンタルトレーニングを専門にする。クライアントはオリンピアンやプロアスリート、音楽家など。ホワイト企業大賞企画委員、産業医やCHOとしてフローカンパニーのサポート。社団法人 DiSPO の代表理事としてごきげん授業をアスリートのごきげん先生たちと子どもたちへ広く展開。
辻秀一公式HP:https//doctor-tsuji.com/

本書の要点

  • 要点
    1
    『スラムダンク』には現実のスポーツでも有用な勝利論が含まれている。
  • 要点
    2
    勝利には意識、下意識、セルフイメージの三要素が重要だ。これらを理解し、根性を正しく使うことで、現実のスポーツでも勝利を手繰り寄せることができる。
  • 要点
    3
    セルフイメージは、試合で実力を発揮するのに大切な要素だ。それは試合以外の、日常における習慣で培うことができる。セルフイメージを大きくするにはやり方を知る必要がある。

要約

勝利を手繰り寄せる3要素

根性は正しく使え

『スラムダンク』はただのバスケットボールマンガではない。何気ないシーンに、スポーツ関係者が学ぶべき教訓が多数含まれている。しかし、何気なく展開されているからこそ、そのメッセージをくみ取るのは簡単なことではない。本書では選手のサポートをする立場の著者が、スポーツ心理学のエッセンスを交えて、『スラムダンク』から「勝利するための考え方」「学ぶべき考え方」を抜き出して解説する。

主人公、桜木花道の物語は、同級生の赤木晴子の目に留まりバスケットボール部に勧誘されるところから始まった。花道はこの晴子に一目惚れをしてバスケットボール部に入り、その後多くの人の運命を変えていくことになる。

物語の序盤で、晴子の兄でありバスケットボール部の主将である「ゴリ」こと赤木剛憲は、花道に根性があるのかどうかを晴子に尋ねるシーンがある。スポーツにおいて根性は重要だ。根性なくして自分の目標を達成することは不可能と言っていいだろう。

しかし、どうせ使うのであれば、その根性は正しく使いたいものだ。一生懸命練習しても、正しい考え方でなければ勝利をつかみ取ることはできない。バスケットボールは、ハビット(習慣性)・スポーツといわれており、習慣化するほど練習したことが試合で発揮される。選手がスリーポイントシュートを成功させるため、年間何万本も打ちこむ理由がここにある。

勝つための3要素
peepo/gettyimages

しかし、勝利を手繰り寄せるには、技術だけではなく考え方も習慣化していなければならない。モントリオール五輪、射撃・金メダリストのラニー・バッシャムは、「勝つためにはただ練習するのでは勝てない。そのためには正しい考え方を身につけていなければならない」というメンタル・マネージ理論を発表した。これはどのスポーツにおいても共通する、非常に興味深い考えだ。

この理論では、勝つための要素として、“意識”、“下意識”、“セルフイメージ”の3つのバランスをあげている。

ここでいう“意識”とは、何かを学習していくときのスタート地点といえる。花道は、ランニング・レイアップシュートをマスターするために「置いてくる」と唱えて練習しているが、これは“意識”に当たる段階だ。スポーツ選手にとっての上達は、自分がどのように行動していくのかを“意識”することから始まる。

対して“下意識”は、我々の持っている“実力”“自分らしさ”などを指し、“意識”のレベルを超えた行動の基盤といえる。たとえばマイケル・ジョーダンは驚愕すべきプレーを連発するが、これは意図的にそうしようとしているのではなく、彼が“下意識レベル”から生まれている「らしさ」と考えられるだろう。人が汗水を流して練習に時間を費やすのは、この“下意識”を大きくするためである。その大きさを左右するのは、練習の質と量だ。量ばかりを意識するのではなく、質を決定する考え方、すなわち根性の使い方こそが大切なのである。

この下意識(実力)が本番で発揮されるかどうかは、我々の中に存在する“セルフイメージ”という能力の大きさによって決まると考えられている。“セルフイメージ”が小さいと、本番で実力を発揮しづらいのだ。

【必読ポイント!】セルフイメージを大きくする習慣

「今に生きる」意識を持つ
skynesher/gettyimages

セルフイメージは練習の中ではなく、むしろ環境や日常生活のなかで培われる。我々を取り巻く環境について、スポーツ心理学者は「90%の人がネガティブで、ポジティブなのはわずか10%の人だけ」と評価する。つまり、我々が日常生活で見聞きする情報のほとんどが、セルフイメージを縮小させるようなマイナスの話題であるということだ。もし自分が90%といわれるネガティブグループに属しているなら、10%のポジティブグループの心の習慣を身につけたほうが、セルフイメージと下意識のバランスが取れるようになるだろう。

また、セルフイメージには、“時間の区別ができない”という特徴がある。「さっきのシュートを外さなければ」といった後悔はその典型だ。実際には過去は変更できないので、後悔は意味がない。しかしセルフイメージは時間の区別ができないので、過去の出来事にも強い影響を受けてしまう。そしてネガティブな過去への意識によって縮小したセルフイメージは、実際に「今」のシュートを外してしまう事態を引き起こす。さらに「次のシュートは入るのだろうか」「体力が持つのだろうか」という未来への不安にも繋がっていく。

セルフイメージを大きく保ち、実力を発揮するには、“今に生きる”という意識を持つことだ。そのためには「今するべきことをする」という心の習慣を常日頃から心がけることが重要である。一瞬一瞬、「今」へ集中することを積み重ねていく。実力を発揮したいのであれば、この考え方を意識しておきたい。

ゴリとメガネ君の褒め言葉サンドイッチ

セルフイメージを大きくするには、自分の現在位置を正しく知ることも重要だ。ところが、自分の現在位置を確認しようとすると、悪いところのチェックに終始してしまいがちである。

本来知るべきなのは自分やチームの良い部分であるはずだ。良いところを生かして勝負するのが試合というものだ。自分やチームの問題点を背負い込んで試合をしていては、勝利はどんどん遠ざかる。自分たちの良いところを出しながら、相手に良いプレーをさせないことが試合における戦略の要となる。だから、選手はチームメイトと自分の良い部分を的確に認識することが重要なのだ。良いところを積極的に見つけ、そこを伸ばそうと取り組む努力を通して、セルフイメージは自然と大きくなる。

スポーツ心理学の用語に、“褒め言葉サンドイッチ”、というものがある。的確に褒める。そして叱る。そしてまた褒める。こうした流れで選手のやる気を引き出していく。湘北高校バスケットボール部に入部した花道は、主将のゴリによく叱られていた。しかし、一方で副主将のメガネ君こと木暮公延からは的確に褒め言葉をもらい、エネルギーを燃やしていく。「褒めるとつけあがる」と現場の指導者が言うことがあるが、それは闇雲におだてるからであって、本当の意味で「褒める」こととは別であるはずだ。

ミスを指摘し叱ることは簡単だ。しかし、一番悔しいのはミスをした本人なのである。たとえば、ミスの前にすばらしいプレイがあったなら、そこをすぐに褒め、記憶に残すことのほうが重要だ。失敗する度に叱られていると、セルフイメージは縮小し、ミスの再発に繋がってしまう。よいところを見ることや褒めることは、セルフイメージの点から大きな意味がある。

己が下手を知る一歩目
Dmytro Aksonov/gettyimages

しかし、良い選手になるには、漠然と良いところだけを見ていても進歩しないこともまた事実だ。悪い点にも向き合う必要がある。ところが悪い点を把握しようとすると、「ミーティングという名の反省会」が始まりがちだ。実のところ、こうした反省はあまり役に立ってないケースが少なくない。うまくいかなかった試合の直後に反省会で悪いところをいくら列挙しても、頭には入りづらい。悪かったところは冷静になって後から分析したほうが効果が高い。

花道はインターハイの10日前、監督の安西光義とシュートの練習に励む。その際、ビデオを見て自分のフォームを分析し、2万本という数をこなしてシュートを改善していった。自分の問題、足りないところを書き出し、客観的に考える。そうした反省の手法が示されているシーンといえるだろう。

まずやるべきことは、自分の問題点を可能な限り書き出すことだ。しかし、問題を列挙するだけでは反省会と変わらない。重要なのは、問題を解決したら、どういう結果がやってくるのかを考えることだ。選手が抱えるプレーについての悩みを単に解消するだけでは、選手として活躍できるとは限らない。解決の結果なにがどう改善するのかわからない場合は、その問題を解決しても意味がないことになる。そうした場合は、問題の解決にこだわるよりも、問題ごと忘れてしまったほうがスポーツ選手として成功しやすい。今の自分に意味がない問題は、ひとまず考えないようにしよう。

列挙した問題のなかで、解決することで良い結果が出ると考えられるものについては、その課題を克服するための方法を具体的に考えていく。問題点の列挙、克服したときの結果のイメージ、実際に克服するための解決。これらのプロセスはもはや反省ではなく、“確認”と呼べるだろう。

インターハイを目前に控えた花道の課題は、シュートフォームができあがっておらず、シュートエリアが極端に狭いことだった。花道はビデオでそんな自分のフォームを確認し、愕然とする。ここで安西監督の手腕が光る。安西監督は、この問題をクリアすればどのような結果がやってくるかを花道に理解させ、彼に期待感を持たせたのである。そして、それを克服するための具体案として、2万本のシュート練習を提案する。安西監督のこのアプローチは、“確認”のプロセスを見事に満たしている。コーチの仕事は、こうしたプロセスを個々の選手に合わせて与え、上達させていく点にあるのだ。

全力という習慣

全力を特別にしない
PeopleImages/gettyimages

セルフイメージを大きくするのに大切な心の習慣に、“全力を尽くす”というものがある。これを成すためには、日常のあらゆることに全力を尽くす心の習慣を身につけなければならない。バスケットボールのときだけ全力を尽くそうとしても、いつもと違うことを意識することになり、かえってミスを誘発し、不必要に疲れてしまうことになる。

目標達成の日時と現在地が決まっていれば、その間の日数も具体的にわかる。半年後のインターハイであれば180日の日々を、するべきことに全力を尽くす必要がある。この間の日々に全力を尽くしたことの証として、一日一個石を置いていき、それを積み重ねていくことができる。今日の練習に全力を尽くすことも、オフの日にしっかり休むことに全力を尽くすのも、全て同じその日の“石”をしっかりと置くということだ。

全力を尽くすということを、常に倒れるまでやるということと誤解する人がいるが、そうではない。練習や休息、勉強など、そのときどきにするべきことを一生懸命やることが全力を尽くすということなのだ。しかし、倒れるまで全力を出し切るべきときがあるのもたしかである。精魂尽きるまで全力を尽くすことが“するべき事”となったときも、“全力を尽くす”という心の習慣が身についていなければ、実践することはできない。

インターハイ予選で、藤真率いる翔陽高校を破った湘北高校の5人の選手は全くの余力を残さずその場に倒れてしまった。このような全力を出し尽くすという習慣も、勝利を目指す選手なら持っているべきものだろう。

情熱という原動力

ここまで目標を成就するために必要なさまざまな事柄について述べてきたが、その中でも最も重要なのは、“情熱”ではないだろうか。“情熱”は目標達成のための最大の原動力だ。目標があり、現在の自分がある。ここに“情熱”が注がれることではじめて、“ビジョン”が生まれ、現在位置と目標を結びつける道のりが見えてくる。

「“情熱”がある」ということは、言い換えれば目標達成への道のりをどれだけ楽しみにしているか、ということである。ワクワクするには、目標達成によって何が手に入るのかが明確になっていることが重要だ。それをしっかりイメージできている人は“情熱”に溢れ、ワクワクしながらすべてのことに取り組むだろう。

感動。自信。誇り。物質的なものよりもこうした精神的なもののほうが“情熱”には重要だ。物質的なものの獲得を目標としていたら、それを得た瞬間に満足してしまう。しかし精神的な目標は挑戦者を次のステップに誘う原動力となる。

インターハイ一回戦で湘北高校と戦った豊玉高校は、“勝ったら楽しい”という情熱に支えられていた。競技者は常にこの楽しさを追い求め、期待に胸を膨らませていくべきなのである。

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要約公開日 2024.03.03
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