ChatGPTをはじめとした生成AIは2022年以降急速に広がり、単純な思考作業からクリエイティブな領域に至るまでキカイへのシフトを起こしている。
BEFORE AIではあくまで人間が“考える”主体であり、テクノロジーは効率化を支援する補助的な存在であった。AFTER AIでは「テクノロジーが人間の“考える”作業の一部を代替していく状態」に移行する。BEFORE AIとAFTER AIでは、ビジネスパーソンに求められる能力について4つの変化が起きたという。
第1は「正解の発見力」から「問いの設定力」への変化である。かつては、コスト削減や営業目標の達成など、“正解”の存在する日々の業務について、組織や上司が設定した課題や目的を正確かつ迅速に解決することが評価された。しかし、変化が激しく、課題の特定さえも難しい現状では、与えられた課題を解決する能力自体がキカイに代替されてしまうかもしれない。「そもそも何を解決するべきなのか」「何を理想とするべきなのか」という問いを自分で設定できる能力が必要となっている。
第2は「判断を仰ぐ力」から「決める力」への変化である。部下の権限を超える範囲の仕事については、適切な情報収集と選択肢の準備をしてから、経験や知識を持つ上司に相談して最終的な判断を仰ぐのが一般的だろう。しかし、組織規模が大きくなればマネジャー職が現場を正しく把握するのは困難になるし、上司に指示を仰いでいると対応スピードが遅くなるケースも増えている。生成AIによって複数の選択肢を瞬時に得られるいま、自分で観察し、状況判断を重ねて意思決定しながら、自分の責任のもとで行動していける人材が求められている。
第3は「フォロワーシップ」から「リーダーシップ」への変化である。カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が1992年に紹介したフォロワーシップのうち、組織のために独自に考え、建設的な批判精神をもって行動する「模範的フォロワー」は、AFTER AIにおいても重要である。ただし、あらゆるビジネスパーソンにリーダーシップが必要となる時代に突入している。変化スピードが速い組織では、リーダーだけでなくスタッフ自身も状況判断して周囲を動かせたほうがよい。それに、生成AIがいかに論理的に正しい場合でも、人間は魅力あるリーダーの言葉に共感するものである。
第4は「集団の“らしさ”に沿って生きる力」から「『自分らしさ』に沿って生きる力」への変化である。これは、先ほど挙げた3つの変化に大きな影響を与える土台になる。
BEFORE AIでは組織のルールやプロセスに従順で、それに基づいて課題を解決できる人物が評価された。しかし、ここで重視されている集団の“らしさ”が硬直化していくと、それを守ること自体が優先されて、顧客や従業員のメリットが犠牲となってしまう。その結果、道徳的・倫理的に誤っていると知りつつ、組織の「ものさし」に従って過ちを犯すことにもつながるのである。
「人生を評価するものさし」は大切である。それは、「他者から与えられるものではなく、自分自身で見出していく必要がある」。
生成AIには「答えやすい問い」と「答えにくい問い」があり、著者はそれを4つの観点で分けている。
選択肢があるものか意思を問うものかの視点では、前者はAIの得意分野でありスピーディかつ網羅的に答えられる。一方、自分で決める必要がある「私はどうしたいか」といった種類の問いには当然答えられない。
時間軸の視点では、過去の膨大なテキストデータを読み込んでいる生成AIにとって、過去の情報について問うものは対処しやすい。逆に、現時点での状況を踏まえて判断していくことは、いまの技術レベルでは難しい。
理想についての視点では、AIは複数の条件の範囲内で選択肢を提示することに優れている一方で、まったくのゼロから直感的な理想を掲げることは難しい。
そして、論理と情理の視点では、プロンプトに感情についての指定をすることはできても、主体的に読み取った感情を踏まえて柔軟にコミュニケーションを変えることまではできていない。
日々浮かんでは消える、AIに答えられない「問い」にも向き合うことは、仕事や人間関係、自分の人生にも効果がある。問いは次のような4つの力を秘めているからである。
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