世界は危機を克服する
ケインズ主義2.0

未 読
世界は危機を克服する
ジャンル
著者
野口旭
出版社
東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
3,456円
出版日
2015年02月27日
評点(5点満点)
総合
4.5
明瞭性
5.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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レビュー

2008年のリーマン・ショックに端を発し、世界は百年に一度と言われる経済危機に見舞われた。未曽有の危機に際し、各国の対応はどのようなものであったか。一体、どの政策が功を奏し、どの政策が状況を悪化させてしまったのか。

危機を克服する鍵となるのは、「財政赤字の拡大を可能な限り許容する」というケインズ主義に基づく考え方だ。かつての世界恐慌の教訓から生まれたケインズ主義は、今回の金融危機で再度脚光を浴び、直後から一定の効果をあげた。だがそこにギリシャ・ショックが発生、世界的に緊縮財政への揺り戻しが起こった。著者は、不況下に緊縮財政を実施してしまったことが経済回復の遅れをもたらしていると指摘する。本書では、真性ケインズ主義から反動と反発を経て、修正ケインズ主義へと向かう理論と実例を紹介している。

インターネットで「リーマン・ショック」や「ケインズ主義」などのキーワードを検索しても、ここまで体系的に編まれた知識には到達できないだろう。ここに読書の意義があると思う。また、本書には明確な「立場」がある。つまり、この本を読んだ者は賛成するにせよ反対するにせよ、自分自身の「意見」を持つことができる。読書は登山に例えられることがあるが、山頂からの景色を見てみたいと思う人は是非挑戦して欲しい。登山の途中にもさまざまな発見があり、きっと楽しめる、そんな一冊である。

ガルシア 万知子

著者

野口 旭
専修大学経済学部教授
1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、現在、専修大学経済学部教授。主な著書に、『構造改革論の誤解』(共著、東洋経済新報社、2001年)、『経済学を知らないエコノミストたち』(日本評論社、2002年)、『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社、2004年。日経・経済図書文化賞受賞)、『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社、2006年)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書、2007年)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版、2007年)等。

本書の要点

  • 要点
    1
    資本主義経済にはその性質として不安定性が内在している。適切な制約を設けなかったために、金融資本主義が暴走し、サブプライム住宅バブルからリーマン・ショックに至った。
  • 要点
    2
    ケインズが可能性として示唆していた「流動性の罠」が現実のものとなり、政策金利がこれ以上下げられない状態になった。しかし、このような場合でも、例えばアメリカでFRBのバーナンキが実施したような非伝統的金融政策は奏功する。
  • 要点
    3
    ケインズ主義の目指す「所得と雇用の政策的な安定化」のためには、不況下での緊縮財政は阻止しなければならない。それができなかったEU諸国では経済の回復が遅れている。
  • 要点
    4
    日本では第2次安倍政権になってから黒田日銀総裁が誕生し、ようやく政府と日銀が一体となった金融政策が実施されようとしている。

要約

世界的金融危機

ケインズ主義と緊縮主義
jarino47/iStock/Thinkstock

一体いつになれば景気は回復するのだろう。実はリーマン・ショックが起こった直後は、専門家の多くは危機の予想以上の大きさに驚きながらも、以前の(1929年〜)世界大恐慌のような悲惨な事態にはならず、短期に拡大を封じ込めることができると考えていた。しかし結果から見ると、「その見通しは相当に甘すぎた」といわざるを得ない。2008年のリーマン・ショックから5年が経過した後も、世界経済が完全に回復し、再び成長軌道に戻ったとは言い難い。各国はリーマン・ショック後、ケインズ主義的処方箋に従い、すみやかに金融緩和政策と財政拡張政策を行った。

ケインズ主義は、景気循環の全過程の中で政府の財政均衡が実現できれば良いとする考え方だ。不況下では民間が投資や消費を減らして貯蓄に回すと考えられるので、そのような時には政府が財政赤字を厭わず積極的に支出を拡大する必要がある。その結果、景気が回復すれば今度は逆に民間の投資が活発になるため、政府は支出を政策的に拡大する必要はない。

このおかげで各国経済は2009年半ばごろから着実な回復過程に入ったように見えた。しかし、2009年末に顕在化したギリシャの財政危機により、世界的に赤字財政への批判的な見方が高まり、各国はマクロ財政政策のスタンスをケインズ主義から反対に緊縮主義へと大きく転換させていった。だがその結果、2010年から2011年にかけての世界経済は減速局面に入っていってしまう。これを受けて、世界は現在ふたたび新たなケインズ主義に向かっているところだ。

金融危機から経済危機へ

今回の金融危機の発端はアメリカの住宅バブルの発生と崩壊であった。投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をうけて、金融機関は「次はどこが破綻するか」という疑心暗鬼にかられ、ひたすら与信を縮小し、可能な限りリスク資産を売却しようとする。こうして銀行間金利が急騰し、金融システムは崩壊してしまった。

さらに金融市場を通じた外部資金の調達を絶たれた企業は事業拡大や設備投資ができなくなり、次に起こったのは失業率の上昇であった。当然この影響はアメリカのみにとどまらず、世界全体に波及していった。こうして世界経済は世界大恐慌以来の大収縮を経験するのである。

危機は世界へ波及
jmiks/iStock/Thinkstock

危機が各国に普及して行く経路には、主に「金融ルート」と「貿易ルート」の2つがあった。金融立国と呼ばれる、国内経済において金融の比重が高い国、イギリス、アイルランド、アイスランドは「金融ルート」からの収縮圧力を受けた。特に「金融業に過度に特化した小国」であるアイスランド政府は大手3行を管理下に置き、海外口座を凍結した。「貿易ルート」からの圧力を受けたのは東アジアを中心とする工業製品輸出国。欧州では製造業が強いドイツである。しかし中国だけはリーマン・ショック直前に人民元の切り上げを停止し、自国通貨をドルの価格と連動させる政策に復帰していたため、ドルの下落とともに人民元も下落し、結果として工業製品輸出に有利な状況ができた。韓国もウォン安で輸出が好調になりショックから急速に回復。とくにサムソンやLGなどの家電メーカーが恩恵を受けた。

日本はこの「貿易ルート」から痛手を被る。当時の日本は90年代のバブル崩壊から「いざなぎ越え」を経てようやく回復しつつある状況で、まだ金融機関が積極的なリスクテイクに出られる準備が整っておらず、サブプライム関連への投資には出遅れていた。そのため、「金融ルート」での影響は比較的小さかった。一方で、円安という「貿易ルート」から大きく影響を受け、世界の工業地帯として東アジアが活性化する中で、工業品需要縮小の影響を最も深刻に受けた国となった。残念ながらこのとき、

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世界は危機を克服する
未 読
世界は危機を克服する
ジャンル
グローバル 政治・経済
著者
野口旭
出版社
東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
3,456円
出版日
2015年02月27日
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