

誰もが夢中になるスポーツ。選手たちの華々しい活躍の陰には、名監督の存在があります。
名監督たちは、有望な選手をスカウトし、育て、支え、本番で大きな成果を出させます。そんな名監督たちの哲学に触れられる本が数多く出版されていることをご存じでしょうか。
この記事では、名監督たちの哲学に触れられるおすすめの本を5冊紹介します。これらの本は、スポーツファンとして読んで楽しめるだけでなく、ビジネスに生かせるヒントを得られるものばかりです。気になったものがあれば、ぜひ手に取ってみてください。


2023年3月のWBCで3大会ぶりに王座を奪還して日本中を沸かせた「侍ジャパン」。スター揃いのこのチームを率いたことであらためて注目を集めたのが、栗山英樹さんです。
栗山さんは東京ヤクルトスワローズで現役時代を過ごし、引退後はスポーツキャスターとして活躍。その後は北海道日本ハムファイターズの監督として、就任1年目の2012年にはパ・リーグでの優勝へ、16年には日本一へと導きました。
そんな栗山さんの著書、『栗山ノート』は、栗山さんの人生観が詰まった一冊。栗山さんが小学生のころからつけている「野球ノート」をベースにした本です。
小学生のころの栗山さんは、「野球ノート」にその日の練習メニューや気になったプレーを書き出していました。ですが、中学生、高校生、大学生と成長していくにつれ、「チームが勝つためにはどうしたらいいか」という視点が加わったといいます。そしてプロ野球選手になってからも、練習後や試合後には必ず「野球ノート」を開いていたそうです。
2012年に北海道日本ハムファイターズの監督に就任するやいなや、パ・リーグ制覇を果たしたものの、翌13年シーズンには最下位に陥落。栗山さんは経営者たちの言葉を綴った本にヒントを求めます。
本を読み進めるうちに気づいたのは、成功者たちの多くは古典に親しんでいるということ。栗山さんも成功者たちに学び、『論語』や『易経』、『韓非子』などといった古典に触れては、心に残った言葉をノートに書き留めるようにしました。ノートの習慣は今も続いているそうです。
ここでは、本書の中から、『論語』の一節である「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」を紹介しましょう。これは「知恵のある者は、事を成すにあたって迷いがない。仁の徳がある者は、何事も心配することがない。真の勇気がある者は、恐れることがない」といった意味です。
2017、18年と2年連続で日本一になった福岡ソフトバンクホークスを何とかして倒そうとしていた栗山さんは、この一節と自身のあり方を次のように結びつけました。
栗山さんが心がけているのは、蓄積した知識とこれまでの試合から得た学びを総動員し、相手の予想を上回る戦略を描き出すことです。このとき、定石や流行に惑わされることなく、情報を取捨選択して勝利への最適解を見つけ出します。このスタンスはつまり「知者は惑わず」です。
「相手の方が強い」という現実にも「仁者は憂えず」の姿勢を貫きます。「監督としての能力がないと思われたくない」という憂いを取り除くと、「ここは相手が上かもしれないが、こう戦えばその部分を補える」という発想が生まれるのです。
選手が伸び伸びとプレーでき、将来につながる起用をしようとするのも「仁者は憂えず」の実践です。自分の利益ではなく選手たちの成長を優先する「仁」の心に基づいて行動しているのです。
また「勇者は懼れず」に関しては、勇者は、勇気のみならず、慎重さや熟考する姿勢も兼ね備えていると考えています。玉砕覚悟で挑むのではなく、負けることの怖さを知った上で志を貫き、チームの目標達成に全力を注げる人こそ、真の勇者なのです。
本書では、古典や名著の言葉とともに栗山さんの60のエピソードが紹介されています。名監督の指針とする言葉に触れ、自分を成長させたい人に、本書をおすすめします。
『栗山ノート』を読んだ方には、同じく栗山さんの『信じ切る力』『栗山ノート2』『栗山魂』もおすすめします。








2024年の第100回箱根駅伝にて、10時間41分25秒の大会新記録で2年ぶり7回目の総合優勝を果たした青山学院大学。この競合を率いる名監督として知られているのが、原晋監督です。
ここで紹介したいのは、そんな原監督の著書『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』。中国電力で陸上選手として現役生活を終え、約10年の時を経て青山学院大学陸上競技部監督に就任した原監督の哲学が学べる一冊です。
まずは、原監督が人材採用について語っているパートに注目してみましょう。
優秀な人材を見極めるのは、決して簡単なことではありません。学業成績がいい人が必ずしも仕事でも成果を上げられるとは限らないからです。逆に、成績は普通でも、入社後に大きく伸びて活躍する人もいるでしょう。
これは駅伝の選手においても同じことが言えます。高校時代の記録はそれほど優れていなくても、大学入学後に大きく成長する選手は多くいるものです。一方で、期待していた選手が伸び悩んだり、挫折して退部してしまったりすることもあります。
原監督が人材を見極める際に確認しているのは、「強さ=どんな環境にも対応できる能力」の有無だそう。陸上においては、季節や天候によってグラウンドコンディションが大きく変わりますし、参加人数や参加選手のタイプによってレースの流れも変わります。原監督は、コンディションや流れが変わっても安定して結果を出せる能力を有する選手を求めているのです。
獲得した人材の能力を最大限に引き出すための育成プランのパートにも注目してみましょう。原監督によると、選手たちのプランには、夢や希望が詰まっていることが重要だといいます。
理想の育成プランとして挙げられているのは、2012年に日本ハムファイターズが大谷翔平選手を獲得する際に提示した資料です。メジャーリーグへの挑戦を表明していた花巻東高校3年の大谷選手を指名する際、日本ハムファイターズが用意したのは『大谷翔平君 夢への道しるべ 日本スポーツにおける若年期海外進出の考察』という資料でした。この資料では、高校卒業と同時にアメリカに渡った場合と、日本のプロ野球で活躍した後アメリカに渡った場合、どちらがメジャーリーガーとして活躍できるかを詳細に分析したレポートと、投手と野手の二刀流育成プランが提案されていました。
原監督はこの例を挙げながら、どうしても欲しい人材がいるとき、日本ハムファイターズが大谷選手に提示したようなオンリーワンの提案書は大きな効果を発揮するといいます。
なお、夢や希望が詰まっているだけでなく、目標をできるだけ具体的にし、かつ数字に落とし込むことも重要です。原監督の場合、スカウトしたい選手に対しては、大学1年から4年までの目標をA4用紙1枚にまとめるそうです。あわせて、目標達成までに克服すべき課題も書き添えています。
いかに優秀な人材を採用し、その能力を引き出して、チームの成果を上げるか――。名監督の育成哲学は、ビジネスのマネジメント層にとっても非常に示唆深いものなのではないでしょうか。


ラグビーの強豪校といえば、帝京大学の名前を挙げる人が多いでしょう。
帝京大学ラグビー部は、2017年度の全国大学ラグビーフットボール選手権で前代未聞の9連覇を達成。2018年度、2019年度、2020年度は惜しくも優勝を逃したものの、2021年度、2022年度、2023年度には再び優勝を手にしました。
そんな最強のラグビーチームを1996年から2022年3月まで率いてきた名監督として名高いのが、『常勝集団のプリンシプル』の著者でもある岩出雅之さんです。本書では、岩出さんのユニークなマネジメント哲学が惜しげなく明かされています。
岩出さんが帝京大学ラグビー部で取り組んだのは、「体育会系イノベーション」です。これは、下級生が上級生の命令に従い、あらゆる雑用を引き受ける体育会系のピラミッド構造を覆す試みでした。
帝京大学ラグビー部では、最上級生である4年生が最も多く雑用をこなすことになっています。学生寮やグラウンドの掃除、寮の食事当番など、一般的な体育会系の部活では1年生が任されるようなタスクを、上級生が担っているのです。
岩出さんがこのルールを採用した目的は、1年生の負担を減らすためでした。
入学したばかりの1年生は、新しい環境や生活への適応で精一杯になっているもの。そんな1年生に雑用を任せてしまっては、勉学やラグビーに費やすエネルギーがなくなってしまいます。そこで、1年生の雑用負担を減らして、勉学やラグビーに打ち込める体制を整えたのです。
このルールには、下級生の心理的負担を減らすこと以外にもメリットがあります。下級生は上級生から「大事にされている」と感じ、先輩を敬うようになり、組織として一体感を持てるようになるのです。
岩出さんならではの哲学が詰まった本書。メンバーのポテンシャルを最大限引き出したいマネジャーやリーダーにぜひ手に取ってほしい一冊です。


名監督のリーダー論からリーダーとしての心得を学びたい人には『リーダーとして覚えておいてほしいこと』をおすすめします。
著者は、球界を代表する捕手として活躍した後、選手兼監督を経験し、東京ヤクルトスワローズ、阪神タイガース、社会人野球・シダックス、東北楽天イーグルスの監督を歴任した野村克也監督。他球団を戦力外になった選手を立ち直らせ、再度活躍させる手腕から「野村再生工場」という異名がつけられた人物です。
野村さんは本書で、選手と監督のお互いへの要求の違いに言及しています。
選手から監督への要求とは次のようなものです。
(1)能力を評価してほしい
(2)自分に何を求めているのかを教えてほしい
(3)結果がでなくても過程を認めてほしい
(4)ライバルよりも評価が低い理由を教えてほしい
(5)自分の意見への評価を教えてほしい
一方、監督から選手への要求は次のようなものになるとされています。
(1)自主性をもってほしい
(2)一つ一つの試合が持つ意味を理解してほしい
(3)監督が何をしてほしいか、自覚してほしい
(4)野球は勝つことが仕事であると認識してほしい
(5)ファンの要求に応えてほしい
これは、メンバーからマネジメント層への要求、マネジメント層からメンバーへの要求に読み替えることができるでしょう。メンバーから求められているものは何か、そして自分自身がメンバーに求めているものを自覚することが、良いマネジメントの第一歩である。野村さんはそのようなメッセージを込めているのではないでしょうか。
チームで成果を上げる方法として示されているのは、相手を観察すること。野村さんは、会話における表情や言葉の端々から相手の人物像を観察し、それに合わせたコミュニケーションをとるようにしていたそうです。
ここで興味深いエピソードを紹介しましょう。
野村さんは現役時代、捕手として常に打者の一挙手一投足を観察し、何を考えているのか、狙い球は何なのかを探ろうとしていたそうです。そしてその観察を通して、感性で動く選手は、同じ状況になると癖が出やすいということに気づいたのだといいます。
こうした経験から野村さんは、リーダーがマネジメントをするにあたっては、観察眼が必須であるとしています。
「野村再生工場」と呼ばれた野村さんの人材育成術も、本書の読みどころです。部下の歩むべき道を的確に指示して正しい方向に努力させる、長所を伸ばすよりも短所を鍛える、安心感を生み出せる存在でいる……いずれもあらゆる組織のマネジメントに応用できる考え方ばかりです。マネジメントや人材育成に関心のある人にぜひ手に取ってほしい一冊です。


中日ドラゴンズで現役として活躍した後、同チーム、阪神タイガース、東北楽天ゴールデンイーグルスの監督を務めた名監督、星野仙一さんの哲学に触れられるのは『星野仙一「闘い」の方程式』です。
著者は、月刊『一球入魂』の創刊に関わった編集者・スポーツライターの永谷脩さん。『Number』『週刊ポスト』『夕刊フジ』などで活動し、特に野球選手、監督からの信頼が厚いことで知られた人物です。
本書では、永谷さんの手により、星野さんの足跡と人生哲学がまとめられています。
学生時代は、上下関係の厳しい明大野球部に所属し、島岡吉郎監督のもとで人間力を学びました。島岡監督の言うことは「絶対」でしたが、その厳しさと激しさの裏には優しさがあります。星野さんの「叱るときは、人前ではっきり理由をいって叱る」という姿勢は、明大時代、島岡監督の指導から学んだとされています。この叱り方をすることにより、チーム全体によい緊張感と活気を与えられると考えていたのです。
中日ドラゴンズの監督に就任した星野さんは、名古屋の財界を中心とした後援会「仙友会」を発足。仙友会の援会費はのちに、選手の賞金に充てられることとなりました。この仕組みにより、選手たちのモチベーションを上げようとしたのです。
さらに中日ドラゴンズの監督2年目には、ベテランを次々に放出します。その狙いは、扱いにくいベテラン選手を切り捨てて、チームの若返りと活性化を図ることにありました。
星野さんの「クビ切り」は2002年、阪神タイガース監督時代にも実施されます。27歳以上の選手を対象に、約3分の1にあたる26人もの選手を入れ替えたのです。「優勝するための戦力になるか、ならないか」という1点のみでジャッジし、チーム全体に危機感を与えました。
本書によると、星野さんは当時、阪神タイガースが低迷していた原因を「長い伝統に支えられ、ファンに見守られる一方で、伝統と待遇に甘えている“ぬるま湯体質”のせいだ」と見抜いていたそうです。結果として、2003年、阪神タイガースはセ・リーグ優勝を実現しました。
野球に人生をかけた名監督は、どんな哲学を持って仕事にあたっていたのか――。波乱万丈なストーリーとともに、ぜひ読んでみてください。
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