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私たちは複雑な時代を生きている。膨大な情報が入り乱れ、多様な価値観が混在する世界で生きていかねばならなくなっているのだ。変化が激しく流れの見えない現代社会では、本来の人間らしさを取り戻すことは容易ではなく、自分の感性や生き方すら意識的にコントロールする必要がある。たとえば、必要最低限のものしかもたない「ミニマリスト」や、ものへの執着を捨てる「断捨離」、さらには都会から地方へ移り住む「地方移住」が流行していることがそれを物語っていると言えよう。これらの根底に共通してあるのは、余計なものを手放すという思想である。幸せに生きるために必要なのは、何かを手に入れることではなく、本当に必要なものを大切にすることではないのか、と、人々は思いはじめているように見える。
本書は、1895年にフランスで刊行され、欧米でミリオン・セラーとなった“La vie simple”の邦訳である。当時、欧米では、産業革命後の工業化が進み、人々は物質的に豊かになる一方で、貧富の差が激しくなっていった。社会が一段と複雑化するなかで、著者は、真の人間らしさは「簡素な生き方」や「簡素な精神」にあると述べる。そして、野心や傲慢、エゴイズム、虚栄心などの悪しきものを捨て、「善良であれ」と説く。
著者の主張は、時代や国を超えて、現代の日本社会の人々のムードにぴたりと一致している。ワンクリックで欲しいものはなんでも手に入るこの時代だからこそ、「良く生きる」というテーマは一考の価値がある。
著者
シャルル・ヴァグネル Charles Wagner
フランスの教育家、宗教家。1852〜1918年。プロテスタントの牧師を経て「たましいの故郷」という寺院を創立。社会教育、初等教育の発展に貢献。近代フランス初等教育を宗教から独立させ、無月謝の義務教育として確立させた。著書に『正義』『青春』『剛毅』『生きるすべを学ぶために』(いずれも邦訳なし)など。
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本書の要点
要点1
多くの人はたいして意味のない雑事にばかり心を砕き、心から大切だと思えることはいつも後回しにしている。そうして自ら複雑さにがんじがらめとなり、頭を抱えることになる。私たちが目的とすべきは「人間の内面の簡素さ」であり、簡素になるとは、自分の望みや行動を人間としての理想的な在り方に一致させることである。
要点2
物質的に豊かであるにもかかわらず、現代のほとんどの人が自分の...
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