衰退の法則

日本企業を蝕むサイレントキラーの正体
未読
衰退の法則
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日本企業を蝕むサイレントキラーの正体
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衰退の法則
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2017年06月08日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

破綻する日本企業には、共通する「あるメカニズム」が駆動している。著者は事業再生のプロフェッショナルとして、企業の内情をつぶさに観察してきた。すると、同業他社に利益を伸ばす企業がある一方、業績赤字を重ね、衰退し、経営破綻に至る企業があることに気づいた。

破綻する企業はなぜ、収益が縮小する状況から抜け出せず、衰退の一途を辿り、破綻に至ってしまうのか。著者は破綻企業と優良企業を合わせて、のべ87名、121時間に及ぶインタビューを実施し、学術的な方法論によって破綻企業に共通するメカニズムを導き出していく。このメカニズムを著者は「衰退の法則」と名づけた。このメカニズムは平時には息を潜めている。しかし、事業環境の変化といった有事において、企業の対応を著しく困難にさせるという。しかも、有事になるまで企業はこのメカニズムに気づかないという、まさに「サイレントキラー」である。

本書の魅力は、社会科学を論じる学術書として非常に説得力があるという点だ。破綻企業とは対極的な、業績好調の優良企業の詳細な事例研究から、破綻企業との違いがあぶり出されていくさまは圧巻といえよう。また、衰退の法則を「文化心理学」という新しい学問分野の知見を駆使して考察している章も、新たな学びに満ちた充実の内容である。

経営者や経営企画、企業再生の実務に関わる方はもちろん、あらゆるビジネスパーソンにとって、企業の課題を診断する際の必読書としてお薦めしたい。

ライター画像
新井作文店

著者

小城 武彦(おぎ たけひこ)
1961年東京都生まれ。1984年東京大学法学部卒業、通商産業省(現・経済産業省)入省。1991年プリンストン大学ウッドローウィルソン大学院修了(国際関係論専攻)。1997年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社、代表取締役常務などを経て、2004年株式会社産業再生機構入社、カネボウ株式会社代表執行役社長(出向)。2007年丸善株式会社(現・丸善CHIホールディングス株式会社)代表取締役社長を経て、2015年より株式会社日本人材機構代表取締役社長。2016年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。株式会社西武ホールディングスと株式会社ミスミグループ本社の社外取締役、金融庁参与を兼務。

本書の要点

  • 要点
    1
    本書では、破綻に陥った日本企業の共通項をあぶり出し、その背景を分析する。破綻した企業には、ある共通のメカニズムが駆動していた。このメカニズムは、事業環境の変化といった有事において、企業の対応を著しく困難にさせる。平時には息を潜めているメカニズムゆえに、サイレントキラーとしての性質をもつ。
  • 要点
    2
    破綻企業に共通する衰退惹起システムは、事業環境の変化への感度の低下、意思決定における戦略性・経済合理性の低下、組織内に摩擦が生じる事業構造改革への躊躇という3つの現象を引き起こす。

要約

破綻する企業は似ている?

破綻に対する有識者の指摘

「破綻する日本企業には、類似点が多い」。これは企業再生に関わる者の間で、よく耳にする言葉である。それが事実なら、何がどう類似しているのか。2000年代以降、日本では「企業再生」「事業再生」という言葉が一般的になった。再生の対象の多くは、潜在的に収益力のある事業を営みながらも、債務超過に陥った企業である。しかし、収益力があっても破綻するのはなぜだろうか。

『V字回復の経営』などの著書で有名な三枝匡氏をはじめとする事業再生の専門家は、次の3つの共通点を指摘している。それは、経営者の力量やリテラシー不足、戦略性の低さ、内向き傾向で危機感が低い組織風土である。それは、日産自動車を再建したカルロス・ゴーン氏が指摘した内容にも類似する点が多い。

はたして破綻企業特有の性質を特定することは可能なのか。こうした問題意識から、著者はアカデミックの世界でも通用する正確性と客観性を担保しながら、企業の実態を分析していく。また、経営組織論には、「一つの企業のことしか知らない人間には、その企業の特徴を語れない」という常識がある。この常識に則って、他社との比較という相対的視点を有した専門家への詳細なインタビューを行った。

本書における「衰退」の概念と2つの問い
peshkov/iStock/Thinkstock

経営学には「組織の衰退」という言葉がある。その定義は、「組織のマイクロニッチへの適応不全およびそれに伴う組織内資源の減少」というものだ。マイクロニッチとは、「マイクロ」、すなわち個々の組織にとっての生態環境を意味する。これはビジネスの文脈では、「企業が事業環境に適応できず、売上げおよび利益の減少が一定期間継続すること」を指す。本書では、この意味で「衰退」という言葉を用いる。

分析対象とする企業は、通常の事業を継続する中で衰退から抜け出せなかったものの、同業他社は事業活動を継続できている企業である。これらを踏まえ、本書では次の2つの問いを設定し、解明に取り組んでいく。

1つ目は、衰退を認識しながら、そこから脱却できず破綻した日本企業の共通点は何か。衰退プロセスから脱却できなかった理由は何か。優良企業との差異はどこにあるのか、といった問いである。

そして2つ目は、破綻企業に見られる事象は、特に日本企業に生じやすい性質をもつのか。日本企業には、そのような事象が生じやすい「癖」があると考えるべきなのか、という問いだ。

破綻企業を分析する際の前提条件

分析の4つのフレームワーク
Rawpixel Ltd/iStock/Thinkstock

衰退に関する研究は、1980年代から世界中で盛んに行われてきた。その先行研究から次の2つの理論が導き出されている。

1つは「脅威-硬直理論」である。衰退の原因を、経営陣の意思決定プロセスが事業環境の変化から受ける影響に求める理論だ。もう1つは「上位階層理論」といい、経営陣の価値観や考え方にも焦点を当てた理論である。

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要約公開日 2017.11.06
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