本書の要点

  • 大学入試制度が2020年度から大きく変わる。「読む・聞く・書く・話す」をすべて評価する4技能化と、英検などの民間検定試験の導入が大きな柱だ。

  • 2技能に偏重している日本の英語教育は、世界基準にはほど遠い。入試問題が中学高校の指導要領と乖離しているのも問題だ。入試を変えることで英語教育全体を変えることができる。

  • 英語教育の4技能化を進めるにあたり、先生たちが英語の達人である必要はない。発話の敷居を下げることが、英語の先生にとって重要な仕事だ。

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【必読ポイント!】 改革のポイント

2技能から4技能へ

LuminaStock/iStock/Thinkstock

2020年度から、現行の大学入試センター試験が「大学入学共通テスト」という新しいテストに変わる。国語と数学も形式が一部変更されるが、とくに大きく変わるのが英語だ。改革の柱のひとつは、リーディングとリスニングの2技能試験から、ライティングとスピーキングを加えた4技能を均等に評価する試験に変わることだ。現在のセンター試験は、2技能と言ってはいるが、リーディング偏重の試験となっている。リーディングが200点、リスニングが50点という配点であり、厳密には「1.3技能」とでも呼ぶしかないのが現状だ。世界中のテスト機関や大学は4技能試験を採用しており、日本だけが取り残されている状況だ。ただし、すでに日本の一部の大学でも4技能試験を取り入れていており、優秀な学生の獲得に成功している。例えば早稲田大学の文化構想学部と文学部では2016年度から、従来どおりの入試を受けるか、前もって受験した民間の4技能試験の結果を入試に代えるかを出願時に選べるようにしている。

民間検定試験の導入

もうひとつの大きな変化は、英検などの民間検定試験が導入されることだ。センター試験でスピーキングとライティングの問題が出題されてこなかったのは、実施と採点に手間がかかりすぎるためだ。仮にその問題を置いておくにしても、大学入試センターには、4技能試験の作成と採点のノウハウがない。そこで、すでに実績のある民間検定試験を活用することになった。民間検定試験導入の流れは、次のとおりだ。数ある民間試験の中から、入試に使える試験を5〜6種類、大学入試センターが認定する。そのうち、どの試験を指定するかは各大学や学部に任される。受験生は、志望大学が採用した試験を受験する。何度受験してもいいが、結果を提出できるのは、受験年度の4月1日から12月31日までの間の2回だけだ。同じ試験を2回でも、違う試験を1回ずつでもいい。受験前に「この結果を大学に提出する」という項目にチェックを入れる方式で、結果が出た後に提出するかどうかを選べるわけではない。2回のスコアレポートが試験機関から大学に提出され、成績の良かったほうの得点が採用されるしくみだ。

地域格差や受験費用の問題

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民間検定試験を導入するにあたって、受験機会の地域格差や費用に不公平が生じる懸念がある。大都市でしか受験できない試験ばかりでは、それ以外に住む受験生に不利になってしまう。全国津々浦々、どこでも受験できる態勢が理想だ。また、費用も安いほうがよい。民間検定試験の受験料は、受験生の自己負担だ。家庭によっては、毎週のように民間検定試験を受け、慣れてから本番に臨むケースも出てくるだろう。著者が提案するのは、

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要約公開日 2018.09.08
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