本書の要点

  • ネットの存在は急速に人々の生活に浸透した。中でも動画サイトの登場は、テレビを脅かす存在として意識されている。

  • スマホの浸透は人々の時間の使い方に変化をもたらした。様々なコンテンツが生まれることで、人々の時間の奪い合いになっており、テレビは大きな影響を受けている。

  • テレビ視聴のメインターゲットは、60歳以上の人たちだ。2015年に70歳だった人は25年には80歳を迎える。テレビ局は番組の作り方、編集の仕方を抜本的に変えていく必要がある。

1 / 3

テレビとネットの戦い

動画サイトがテレビの脅威に

Tero Vesalainen/iStock/Thinkstock

いまやネットなくして生活は成り立たないといってよい。その状況はすでに当たり前過ぎて、ネットの威力について、多くの人が理解できていないというのが著者の印象だ。特にネットがメディア業界に与えたインパクトは非常に大きい。アメリカ発のネット動画配信サービスを提供する「ネットフリックス」や、Amazonが運営する「プライム・ビデオ」。これらが2015年に日本で始まってからは、計り知れない衝撃を私たちや既存のメディアに与え続けている。2000年以降、ネット広告の売上高はそれまで莫大だったテレビ広告の売上高を猛追し、2014年に1兆円の大台を超えた。広告業界の中では非常にシンボリックな出来事だったといっていい。また、結局成功はしなかったが、ネット企業がテレビ局を買収しようとするほどの資金力もつけていった。このほか動画サイトの成長も見逃せない。2005年12月にYouTubeが正式にサービスを開始し、その1年後にはニコニコ動画のサービスがスタートした。この頃から次第に、テレビを脅かす存在としてネットが認識され始めていった。iPhoneに代表されるスマホの登場などが、そうした動きに拍車をかけた。

新たなビジネスを持ち込んだ新興勢力

先に触れた「ネットフリックス」や「プライム・ビデオ」の存在は、テレビにとって決して過小評価できない存在である。なぜなら、両者の登場により、これまでの常識を覆すような変化が起きているからだ。その一つとして挙げられるのは、こうしたサービスがこれまでの動画配信サイトとは根本的に異なるビジネスモデルを有している点である。それは月額課金プラス都度課金の組み合わせによる会費制モデルだ。会費制ビジネスの強みは、「クリティカルマス」(商品やサービスが市場に爆発的に広がるために最低限必要な普及率)を超えた瞬間に、定常収入が際限なく上がっていく点にある。そのため、莫大な利益を生み出していく。そうなると、潤沢な資金を後ろ盾とし、莫大な制作費を投入して、よりクオリティの高いオリジナルコンテンツを生み出せる。テレビや映画と違って、時間的な尺に対する制約がない。そのため、長編のコンテンツを作ることも可能だ。アメリカでは多くのハリウッドスターたちが、こぞってネットフリックスの作品に出演する動きも出ている。

がんじがらめの日本のテレビ

nicoletaionescu/iStock/Thinkstock

ネットの猛烈な勢いに、テレビ局の人たちはもちろん気づいており、危機感を抱いている。ネット配信とどう併存していくかを模索中だ。ただし、テレビ局は大きなハンデを背負っている。その最たるものが芸能事務所の問題だ。所属タレントがネットに出演するのを、頑なに拒む事務所が一部存在する。このため、新興国では当たり前になっているテレビとネットの同時放送は、日本ではできないのが現状だ。仮にネットでも放送される場合には、新たな出演料が発生してしまう。こうした狭い視野での力関係が、日本全体のメディアの在り方にまで大きな影響を及ぼしている。このままでは世界の動きから、日本が取り残されかねない。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2382/3663文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2018.09.21
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

日本の分断
日本の分断
吉川徹
破壊者
破壊者
松浦勝人
マクルーハンはメッセージ
マクルーハンはメッセージ
服部桂
20億人の未来銀行
20億人の未来銀行
合田真
一発屋芸人列伝
一発屋芸人列伝
山田ルイ53世
宇宙ビジネスの衝撃
宇宙ビジネスの衝撃
大貫美鈴
銀行員はどう生きるか
銀行員はどう生きるか
浪川攻
熱海の奇跡
熱海の奇跡
市来広一郎

同じカテゴリーの要約

AIエージェント革命
AIエージェント革命
シグマクシス
愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?
愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?
ハヤシユタカ
ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司
ケーキの切れない非行少年たち
ケーキの切れない非行少年たち
宮口幸治
ローソン
ローソン
小川孔輔
両利きの経営(増補改訂版)
両利きの経営(増補改訂版)
チャールズ・A・オライリーマイケル・L・タッシュマン入山章栄(監訳・解説)冨山和彦(解説)渡部典子(訳)
トヨタの会議は30分
トヨタの会議は30分
山本大平
キーエンス解剖
キーエンス解剖
西岡杏
未来の年表
未来の年表
河合雅司
シン・ニホン
シン・ニホン
安宅和人