本書の要点

  • かつて「面白い」と言われた一発屋芸人達のネタは、つまらなくなったわけではない。ただ世間が彼らのネタについて、多くを知りすぎてしまっただけだ。

  • 「テレビ出演が多い=売れっ子芸人」というわけではない。お客さんの近くで笑いを届けつづけるお笑い芸人もいる。

  • かつてのネタで売れなくなったからといって、一発屋芸人たち自身が終わったわけではない。ネタを変え、スタイルを変え、仕事を変え、場所を変え、彼らはいまもお笑い界のどこかでたしかに生きつづけている。

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一発屋を変えた男 レイザーラモンHG

男気に溢れた、ポジティブな男

supershabashnyi/iStock/Thinkstock

2015年春、「一発会」なる会合が開かれ、総勢15人の一発屋芸人が集まった。旗振り役を務めたのは、かつてハードゲイというキャラクターで一世を風靡した、レイザーラモンHGだ。一発屋にはキャラ芸人が多い。そしてキャラに入りこむ人たちは、往々にして社交的ではなく、孤立してしまいがちである。だったら「一緒にやろうや」と思ったのが、彼がこの会を立ち上げたきっかけだという。現にこの会は一発屋芸人たちの心のセーフティネットとなっている。著者は彼のその男気溢れる性格を評し、「一発屋界の添え木」と呼んでいる。「僕たちは飽きた、面白くないと言われるが、そうではないと思う。僕たちのネタはずっと面白くて、ただ皆が“知りすぎてしまった”だけ。そもそも面白くてブレイクしたんだから」。このようにポジティブな彼の発言は、それまで惨めな存在と捉えられてきた一発屋芸人のあり方を変えた。現在では「しぶとく生き残っている人達」「久しぶりに見たら面白いネタ集」など、一発屋芸人を取り上げるメディアの態度も変わってきている。

彼はお笑いエリート

HGが所属するレイザーラモンというコンビは、若手漫才師の登竜門「今宮子供えびすマンザイ新人コンクール」で、約200組の頂点に立った華々しい経歴をもつ。しかもHGは吉本新喜劇で、ツッコミ役である“うどん屋の店主”に大抜擢されたこともある。これは場を仕切る技術がなければ務まらない役回りだ。正統派漫才ではウケない劣等生の、キャラによる“ドーピング”とは違い、彼はもともとお笑いエリート。才気溢れる若手芸人だったのである。

正気なエリートが狂気のハードゲイへ

HGはルックスがよく、人柄もよい。そして正気でもある。それなのにどうしてハードゲイという狂気を身にまとったのか。彼は昔から変な毛皮やベストなど、変わった格好をするのが好きだった。それに対する先輩からの「お前ハードゲイか!」という一言が、彼を覚醒させたのだという。そこから試行錯誤を重ね、あのグラサンとレザーファッションに行き着いたのだ。だがすべてをかけたキャラクターを吉本の社員にプレゼンするも、「お昼の生放送で無理やろ」と言われ、当初はまったく相手にされなかった。それでもとにかくハードゲイというキャラの可能性を信じつづけた彼は、ニューハーフパブでボーイとして働き、ショーにも出演。大阪と新宿二丁目のその界隈の重鎮に挨拶まで行くなど、ストイックに「役作り」を重ね、見事ハードゲイでブレイクを果たしたのであった。著者が正気だと思っていた男は、充分に常軌を逸していたのである。

ゲイ人からの華麗なる転身

Ildo Frazao/iStock/Thinkstock

現在はあのレザーファッションではなく、スーツに身を包みコンビで正統派漫才師として活動中だ。「THE MANZAI」にも出場し、決勝大会進出という快挙を成し遂げた。一発屋から漫才師へと、これまで誰も成しえなかった奇跡の復活をとげた彼は、やはり一発屋を変えた男といえる。

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“肉眼視聴率”ナンバーワン テツandトモ

営業だってエンターテインメント

M-1ファイナリスト、紅白出場、流行語大賞受賞など、栄光を手にしてきた一発屋界のレジェンド、それがテツandトモ(以下、テツトモ)だ。

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要約公開日 2018.09.03
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