移民の政治経済学

未 読
移民の政治経済学
ジャンル
著者
ジョージ・ボージャス 岩本正明(訳)
出版社
定価
2,200円 (税抜)
出版日
2017年01月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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移民の政治経済学
移民の政治経済学
著者
ジョージ・ボージャス 岩本正明(訳)
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定価
2,200円 (税抜)
出版日
2017年01月10日
評点
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4.2
明瞭性
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革新性
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レビュー

本書はGeorge J. Borjas, We Wanted Workers, 2016の全訳である。著者はジョージ・ボージャス。公共政策の分野で世界をリードするハーバード・ケネディスクールで20年あまり教鞭をとる、移民経済学の世界的権威だ。

原題のWe Wanted Workersはスイスの作家であるマックス・フリッシュの言葉 ”We wanted workers, but we got people instead”(私たちが欲しかったのは労働者だが、来たのは生身の人間だった)を引用したものである。移民は単なる労働投入ではない。私たちと同じように生活を営み、経済や政治、社会、文化に影響を与える存在だ。移民の経済的な影響をきちんと理解するには、彼らを工場の中で働くロボットのように見なす、狭量な視野から抜け出さなければならない。こうした問題意識は、本書のなかで繰り返される重要なテーマのひとつである。

はたして移民を受け入れることで、受け入れ国の国民の生活は豊かになるのだろうか? 移民政策を考えるうえで、私たちがもっとも気になるのはこの点だろう。この質問に対する著者の答えは明快だ。少なくとも短期的には、移民の経済的影響は差し引きゼロ。つまり移民の受け入れによって、受け入れ国の国民全体が享受できる経済的メリットはほとんどないという。

とはいえキューバからの移民である著者は、移民受け入れの人道的役割も重視している。外国人労働者の活用が身近な問題になりつつある私たちにとって、必読の書といっていいだろう。

しいたに

著者

ジョージ・ボージャス (George J. Borjas)
1950年キューバ生まれ。1962年に米国に移住。コロンビア大学で経済学博士号取得。カリフォルニア大学を経て、1995年からハーバード・ケネディスクール教授。労働経済学の分野で最も権威のあるIZA賞を2011年に受賞している。主著にLabor Economics (McGraw-Hill, 1996; 7th edition, 2015), Heaven’s Door: Immigration Policy and the American Economy (Princeton University Press, 1999), Immigration Economics (Harvard University Press, 2014)

本書の要点

  • 要点
    1
    多くの経済学者が「移民は受け入れ国の富を増やし、地球から貧困をなくす」と主張してきた。だが著者は、そうした政治的に正しいとされる考えに距離を置きながら、移民の影響について包括的な研究をおこなっている。
  • 要点
    2
    移民のメリットを享受するのは移民自身と、より安価な労働力を手に入れることのできる資本家だ。そのしわ寄せをくらうのは、受け入れ国に住んでいる一部の労働者である。
  • 要点
    3
    こうした不都合な事実を受け入れ、それを是正する地に足のついた議論が移民政策には求められている。

要約

自由貿易が富をもたらすというシナリオ

期待を裏切ったNAFTA
goglik83/iStock/Thinkstock

これまで多くの経済学者が、国境のない世界について考えてきた。「貿易を制限する障壁を撤廃したらどうなるだろうか」という問いに対する大方の主張は、「自由貿易は世界全体の所得を増やし、各国の価格と賃金を平等化する」というものである。勝者と敗者をつくる(たとえば安い電気製品を買っている消費者が勝者、輸入品と競合する工場の従業員が敗者)ものの、利益の方が損失よりも大きいと一般的にはいわれてきた。

こうした前提に立って考えると、北米自由貿易協定(NAFTA)を導入することにより、メキシコ人の所得は大幅に改善し、メキシコから米国への移民は少なくなるはずだった。しかしNAFTA導入から10年経過した2004年までに、米国とメキシコの所得格差は10.6パーセント拡大。一方でメキシコの実質賃金は年率0.2パーセント下がりつづけた。

人の自由な移動は貧困を根絶するか

「自由貿易がより豊かでより平等な世界をもたらす」ことは実現しなかった。だが依然として一部の移民支持派の経済学者は、あらゆる国境を開放して人の移動を自由にすれば、世界の所得は数10兆ドル拡大し、世界の貧困は根絶されると主張している。

著者の試算によれば、世界のGDPを数10兆ドル規模増加させるような富を生み出すためには、家族も入れて世界の半数以上の人間が移動しなければならない。また富の再配分をすると、賃金の低い国の労働者の収入は2倍以上になるものの、賃金の高い国の労働者の賃金はおよそ4割下がってしまう。さらに別の富の再分配も起こる。世界の資本家の収入が、およそ6割も上昇するのだ。

もちろんこうした数字は、単なるシミュレーションの域を出るものではない。だがそれは移民支持派の経済学者の主張についても同様である。それにもかかわらず多くの経済学者が、こうしたシミュレーション上の数字をもとに、移民の政策に影響を与える提言をしている。はたしてそれは妥当なことなのだろうか。

【必読ポイント!】 移民は勝者と敗者をつくる

移民は「私たち全員にとっていい」という通説
Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock

フィデル・カストロは1980年4月20日、米国に移住したいキューバ人はマリエルの港から船で出国できると宣言した。最初のマリエリトズ(マリエルから出国したキューバ人)は、4月23日にマイアミへ到着。6月3日までに10万人を超えるキューバ人が移住し、マイアミの労働人口はおよそ8パーセント増えた。

こうした出来事の前後でマイアミの労働市場にどのような変化が現れたのかを見れば、キューバからの移民の影響を観測できる。この調査に当たったある研究者は、当時の白人労働者の時給がほとんど変化しなかったことから、次のように結論づけた。「マイアミの労働市場におけるキューバ人以外の労働者の賃金分布は、1979年から1985年にかけて驚くほど安定していた……このデータから言えるのは、マリエルからの移民の流入が米国人の賃金にマイナスを与えたことを示す証拠はほとんどないということだ」(1990年に発表された論文)。

この研究結果は米国において、移民は「私たち全員にとっていい」という通説を確立し広めるうえで、きわめて重要な役割を果たした。

特定の層の労働者がダメージを受ける

著者はマリエルからの移民の影響を、公表されている当時のデータを使ってもう一度分析してみた。著者のアプローチは、移民を教育レベルや年齢によって細かな「技能グループ」に分け、それに対応する米国の労働者のグループごとに、賃金がどのように変化するかを調べるというものである。その結果、前述の25年前の論文とはまったく異なる事実が見えてきた。

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