欧州ポピュリズム

EU分断は避けられるか
未読
欧州ポピュリズム
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EU分断は避けられるか
未読
欧州ポピュリズム
出版社
出版日
2018年05月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

2017年は欧州におけるポピュリズム政党の台頭が目立った1年であった。5月7日におこなわれたフランス大統領選挙は、39歳の若きエリートであるエマニュエル・マクロン氏と、極右政党「国民戦線」の女性党首マリーヌ・ルペン氏の一騎打ちに。結果はマクロン氏の勝利に終わったが、反EU、反グローバル化、反移民、反イスラムの立場をとったルペン氏も健闘し、33.9%もの票を集めた。もし彼女が当選し、議会で過半数を制していたら、公約に掲げていたFrexit(フランスのEU離脱)が実現していただろう。もしそうなっていたら、いま頃EUは崩壊していたかもしれない。

また9月24日のドイツ総選挙では、反EU・反移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢」(AfD)が野党第一党に躍り出た。政権掌握まではいかなかったが、EUの要である大国でポピュリスト政党が大躍進したことは、世界中に衝撃を与えた。

本書は「欧州の衝撃」がなぜいま立て続けに起こっているのか、その内的・外的要因やEUの構造的欠陥を指摘するとともに、EUという特異な存在について詳しく解説している。

世界がこれまで以上に近くなった現在、日本に住んでいる人にとっても欧州情勢は他人事ではない。いまや当たり前にある「EU」という存在の成り立ちや実情は、案外知られていないところだ。本書をじっくりお読みいただき、EUや欧州の現状について理解を深めていただければと思う。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

庄司 克宏 (しょうじ かつひろ)
1957年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。横浜国立大学大学院教授などを経て、慶應義塾大学大学院法務研究科教授、現在、ジャン・モネEU研究センター所長。EUの法制度と政策を専門とし、著書に『欧州連合』(岩波新書)、『欧州の危機』(東洋経済新報社)、『はじめてのEU法』(有斐閣)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    欧州の多くの国で、ポピュリスト政党が台頭してきている。彼らは欧州金融危機、一部加盟国の債権問題、移民・難民問題などをきっかけに、大衆の支持を獲得してきた。その背景にはエリートへの不満も見え隠れする。
  • 要点
    2
    EUは政治エリートが主導する政体であり、互いの信頼関係を前提としている。しかしそれが崩れた現在、EUの存在意義は危ぶまれている。
  • 要点
    3
    シリアなどからの大量の難民流入問題について、エリートと大衆の意見は真っ向から対立している。

要約

欧州で急拡大している「欧州ポピュリズム」とは

大衆とエリートの対立構造
stevanovicigor/iStock/Thinkstock

冷戦終結後、欧州ではリベラルの秩序が崩壊しはじめているといわれる。そうした指摘のなかには、「ポピュリズム」の台頭が西側諸国のリベラル・デモクラシー(立憲民主主義)体制を危機にさらしたという声も含まれている。

「大衆迎合主義」とも称されるポピュリズムは、以下のように定義される。「特権的エリートに対抗して一般大衆の利益、文化的特性および自然な感情を強調する政治活動。正当化のために、ポピュリストはしばしばチェック・アンド・バランスや少数派の権利にあまり配慮することなく、直接に、すなわち大衆集会、国民(住民)投票や、大衆民主主義の他の形を通じて、多数派の意思に訴える」(Di Tella 1995)。

このようにポピュリズムでは、「多数派の一般大衆」と「特権的エリート」の対抗関係が前提とされ、政治は民衆の一般意思の表明であるべきと主張される。

ポピュリスト政党は、移民排斥を主張する排外主義・ポピュリズムと、司法権の独立などを否定しようとする反リベラル・ポピュリズムに大別できる。前者はとくに急進右派や極右に見られ、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」(AfD)、オランダの「自由党」(PVV)、「イギリス独立党」などがこれに当たる。

リベラル・デモクラシーの崩壊

西側諸国の秩序の中核であったリベラル・デモクラシーは、リベラルとデモクラシーの2本の柱で支えられている。ただしリベラルの柱では法が国家の最高権威とされる一方で、デモクラシーの柱における最高権威は法ではなく人民にある。ゆえに両者の関係は常に不安定であり、バランスが崩れるとポピュリズム(過剰な多数派支配)、もしくは急進的多元主義(過剰な少数派支配)に陥ってしまう。

リベラル・デモクラシーの真骨頂は、たとえ敗れても次にまた勝つ機会があることだ。したがって敗者になっても亡命したり潜伏したりする必要はない。しかしポピュリストは「国民の意思はいかなる力からも制約を受けるべきではない」と考え、選挙で負けた人々を含む少数派の保護という、リベラル・デモクラシーの基本前提を否定する。

EUがポピュリストに不評を買っている理由もここに見いだせる。EUはリベラル・デモクラシー(とくにリベラル)を体現している政体だ。EUの主要機関であるコミッション(欧州委員会)、EU司法裁判所、欧州中央銀行は、選挙で選ばれない独立した「非多数派機関」である。これらの機関は加盟国政府と国内多数派の行動に制限を課すことがあるため、ポピュリストの目には「国民の意思を邪魔している」と映る。そのためEUはポピュリスト政党の標的にされるのだ。

グローバル化による「負の影響」
Morrison1977/iStock/Thinkstock

EUの中心的な存在意義は、物・人・サービス・資本の自由移動から成る単一市場の構築と発展にある。EUの単一市場は「完全雇用および社会的進歩を目標とする、高度の競争力を伴う社会的市場経済」(EU条約第3条3項)を理念とし、経済的弱者の保護など社会面にも配慮している。

2007年3月に発表された「ベルリン宣言」では、単一市場と単一通貨ユーロがグローバル化に対抗するための手段として位置づけられた。しかし翌年以降、EUは度重なる危機に襲われる。2008年秋にリーマンショックを発端とする世界金融危機に見舞われ、2010年にはギリシャをはじめとする一部の加盟国の深刻な債務危機がのしかかった。

さらに2015年にはシリアなどから100万人以上の難民が押し寄せ、欧州全体が混乱状態に。

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要約公開日 2018.10.10
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