本書の要点

  • 80年代の日本テレビは、「万年3位」と呼ばれ低迷していた。だがこのときの若手が中心となって、その後の日テレの起死回生を担っていく。

  • 「視聴者がおもしろいと思う番組」をつくること、それが“テレビ屋”の使命だ。

  • 役割や部署といった枠組みを超えた全社の結束、「視聴率」という明確な目標の設定が、日テレ大躍進の実現につながった。

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日テレ、起死回生の「クイズプロジェクト」

1000人にひとりの“金の卵”

natasaadzic/iStock/Thinkstock

NHK『紅白歌合戦』全盛の1980年代半ば、日本テレビにはスターディレクターが存在しなかった。当時のヒット番組も外部の制作会社に任せてつくっており、危機的な状況が続いていた。

会社の将来を危惧した日本テレビは、職務経験者を対象とした中途採用試験「クリエイターズオーディション」を実施。テレビCMで流したところ、約4000人が集まった。7次に渡る厳しい試験をくぐり抜けたのは4名だけ。そのうちのひとりが五味一男だ。

88年春、「ゴールデンタイムのクイズ番組」をつくるという企画募集が、日本テレビの社員たちに通知された。当時フジテレビには『なるほど! ザ・ワールド』、TBSには『世界まるごとHOWマッチ』という、局の“顔”ともいうべきクイズ番組があった。しかし日本テレビには年1回放送の『アメリカ横断ウルトラクイズ』こそあったものの、レギュラーの人気特番はまだなかったのである。

その社運を賭けた「クイズプロジェクト」メンバーに、五味一男は選ばれた。他に選ばれたのは小杉善信、渡辺弘、吉川圭三の3名。五味以外の3人は、76年(昭和51)以降に入社した生え抜きの若手である。一方の五味は、当時排他的な社風であった日本テレビの中途入社第一号だった。まさに即戦力を期待された“期待の新人”として、「クイズプロジェクト」に参加することとなる。

五味一男と『クイズ世界はSHOW byショーバイ』

当時の日本テレビの水曜夜8時は、“魔の不毛地帯”と呼ばれるほどレギュラー番組が根づかなかった。88年10月、そこに投入されたのが『クイズ世界はSHOW by ショーバイ』だ。演出を五味、プロデューサーを小杉が務めた。「クイズプロジェクト」が心血注いでつくった番組である。

番組が開始する前、2人はNHK『クイズ百点満点』など多くの人気クイズ番組を手がけた構成作家、井上頌一のもとへ毎週通い、クイズ番組について学びを深めた。加えて五味は『クイズダービー』『クイズところ変われば!?』など、当時各局で放送されていた20本近くのクイズ番組をくまなく視聴。徹底的に研究を重ねた。

しかし番組初回の視聴率は12%とそこそこだったものの、それ以降は10%前後と振るわず、なかなか上がる兆しも見えなかった。五味としては自分を否定されるようなものである。しかしあるとき女性週刊誌を飛ばし読みしていると、「美容」関係の記事や広告がやたら多いことに気づいた。「これだ!」と思わず叫んだ五味。そうして放送した「美容」の回は、過去最高の視聴率を獲得した。番組開始から3カ月後のことだ。

自分の好きなことではなく、「大勢の人の興味のあるもの」にどうやって焦点を当てるかが大事――まさに目からウロコが落ちる思いだった。それまではいかに個性的であるかばかりを考えていた五味が、「覚醒」した瞬間である。

吉川圭三と『世界まる見え!テレビ特捜部』

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90年7月、「クイズプロジェクト」のメンバー吉川圭三が立ち上げた『世界まる見え!テレビ特捜部』が始まった。同番組の特徴は、世界中のあらゆるジャンルの番組のおもしろい部分だけを編集して見せるという、当時としては斬新な手法にある。所ジョージと楠田枝里子の司会で始まり、3カ月で一旦終了したものの、好評のため半年後に復活。ビートたけしが加わると、局の看板番組に躍り出た。

この番組が生まれた背景は6年前に遡る。

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要約公開日 2018.11.23
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