世界的な調査会社ギャラップの調査によると、日本企業では「やる気のない社員」が全体の7割を占めている。また、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%。139カ国中132位と最下位クラスだ。勤勉な国民性とされてきた日本人だが、いまや会社員の大半が「やる気のない」状態にある。また他の調査によると、会社と上司に対する信頼度についても、日本は他の先進国と比べて低いという。
この数年、日本の大手企業で人材流出が問題視されている。優秀な若手ほど早く辞めてしまうと漏らす声も少なくない。生産性の低さという課題も、依然として横たわっている。こうした深刻な状況を打破するカギが「エンゲージメント」である。
コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンによると、エンゲージメントの定義はこうだ。「従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲」。
エンゲージメントという単語は、約束、契約、婚約など多様な意味をもつ。いずれも中核にある概念は「関わり合い」「関係性」だ。このことからも、単に組織が戦略を掲げるだけ、個人が力を発揮するだけでは、エンゲージメントは成り立たないといえる。
また、ここでのエンゲージメントとは、組織や一緒に働くメンバーに対する愛着があることと、仕事の内容自体にも主体性をもてていることの両方を含んでいる。エンゲージメントを高めれば、人が生き生きと働いて本領を発揮し、成果を上げる組織をつくることが可能となる。
エンゲージメントに似た言葉として、「従業員満足度」「モチベーション」「ロイヤルティ」といった言葉がある。これらとの違いを整理しよう。
まず従業員満足度は、「従業員がどれだけ会社や職場に満足しているか」を定量化したものである。主な項目は給与、福利厚生、人間関係などだ。ただし、個々の社員の満足度が高いからといって、「主体的・自発的に仕事に取り組めている」とは限らない。つまり、従業員満足度が上がっても、企業の収益や個人の生産性が上がるわけではない。
つづいてモチベーションは、ものごとに取り組む意欲を引き出す「動機づけ」を意味する。モチベーションの高さとエンゲージメントの高さはしばしば相関する。だが、あくまで前者は個々人の動機づけである。個々人が「協働」できなければ、組織としての成果につながるとは限らない。
さらに、ロイヤルティとは、忠誠、忠実の意味をもち、従業員の自社に対する帰属意識、愛社精神などを指す。関係性に基づく概念という意味ではエンゲージメントに似ている。だが、ロイヤルティという言葉は主従関係・上下関係を前提としたニュアンスをもつ。一方、エンゲージメントの概念は、個人と組織を対等な存在ととらえている。その意味では違いがあるといえる。
これらの類似概念との違いを知ることで、エンゲージメントの意味合いをより深く理解できるだろう。
世界中の成長企業でエンゲージメントが注目されている。会社の経営指標として、エンゲージメントの強さを診断したスコアを用いるケースも増える一方だ。優良企業がエンゲージメントを重視するのはなぜか。
3,400冊以上の要約が楽しめる