ベルリン・都市・未来

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ベルリン・都市・未来
出版社
定価
3,300円(税込)
出版日
2018年07月18日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「本書は、壁崩壊後の都市再生を担った主役たちに焦点をあて、近年、スタートアップ都市として世界の注目を集めるベルリンを、『創発』という観点から描いた都市論の試みである」――あとがきの冒頭にあるこの一文が、本書の内容を一言で表している。ここで言う「創発」とは、スタートアップの積極誘致から寛容な移民政策まで、多様性の確保に多大な投資を行うことで、予定調和的でないクリエイティブな動きを生み出すことだ。

多くの日本人にとって、1989年の壁崩壊はもはや過去の出来事かもしれない。だが本書を読むと、壁によってもたらされた「失われた28年」が、今のベルリンの活況を生み出す源泉になっている様子がよくわかる。

インターネットの黎明期からデジタル社会環境を研究し、ベルリンと約30年のかかわりを持つ著者は、2015年春、大学教員の職を辞して3年間ベルリンに暮らした。その間に2つのオンラインメディアに連載された原稿が本書の下敷きになっている。そのせいもあってか、本書には、研究者による首尾一貫した論考というより、肌で感じたことをもとに変わりゆく「ベルリンの今」を切り取った躍動感が息づいている。

著者の視点は幅広い。ソーシャル・イノベーション、スタートアップ、コワーキング、贈与経済、多様性、クラブカルチャー、クリエイティブシティなど。こういったキーワードに関心がある読者にとっては、実に刺激的な一冊だろう。都市の未来を語り、自分たちの未来をつくるために、ぜひ知っておきたい「秘密のレシピ」が詰まった一冊だ。

ライター画像
小島和子

著者

武邑 光裕(たけむら みつひろ)
1954年生まれ。メディア美学者。クオン株式会社ベルリン支局長。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。1980年代よりメディア論を講じ、インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディアからAIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。著書に『記憶のゆくたて──デジタル・アーカイブの文化経済』、『さよなら、インターネット──GDPRはネットとデータをどう変えるのか』など。ベルリン在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    多様性に溢れたベルリンでは、「ネオ・ヒッピー」と呼ばれる起業家たちが市の経済を担っている。かつての「壁」からヒッピー的な文化が生まれ、世界から創造的な人材が集まっている。
  • 要点
    2
    再開発計画に反対したベルリン市民がユニークなエコビレッジをつくっている。そのコンセプトは市民の創造性を促すこと。一部企業の利益最大化を重視するシリコンバレーとは正反対の考え方だ。
  • 要点
    3
    都市文化事業が世界各地で開催されているが、一過性の観光収益を目指すと失敗する。地域の創造性を解放し、都市経営に市民が参加する必要がある。

要約

ベルリンはなぜ人々を魅了するのか?

ネオ・ヒッピーの街、ベルリン
bernardbodo/gettyimages

ベルリンは多国籍な街だ。外国人居住者65万人の国籍は186にわたり、人口360万人のうち18.4%はドイツのパスポートを持っていない。交通や水道など都市のインフラ企業、文化・観光産業をはじめとして、ベルリンの経済活動の多くは、中小の外国企業や国内外から参集する「ネオ・ヒッピー」と呼ばれる起業家たちが担っている。規模の経済を担う大企業よりも、個の経済活動が活発なのが特徴だ。

なぜベルリンの起業家たちをネオ・ヒッピーと呼ぶのか。ベルリンは壁崩壊の直後、一時的だが1960年代のヒッピー文化の夢を大規模に実現した、世界で唯一の街だったからだ。当時の旧東ベルリンには、廃屋スペースが無数にあった。ベルリンにいたアーティストやハッカー、DJたちは、そうしたスペースを無断占拠(スクウォット)し、街の再生を加速させた。ヒッピー文化が、瀕死だったベルリンを再生させる原動力だったのだ。

壁の時代の「遺産」がクリエイティブの源泉

ベルリンは、水路が多く住宅街の居心地が良い、暮らしやすい街だ。新築物件よりも価値の高い築100年の古いアパート群が大きな樹木に囲まれて立ち並び、数多くの公園やコミュニティ・ガーデンがある。コミュニティ・ガーデンは子どもたちにとっていい遊び場であると同時に、大人にとっては友人たちと語り合うビアガーデンとなっている。

特に市の中心部を東西に横切るシュプレー川沿いは魅力的なエリアだ。夏は夜11時近くまで日が落ちず、オープンカフェやレストランも賑わいを見せる。またここには、旧東ドイツの火力発電所跡地を利用した世界最高峰のクラブ「ベルクハイン」をはじめとしてさまざまなクラブが集まっている。200以上のデジタル音楽系企業が集積しているエリアでもある。

ベルリンには世界中から創造的人材が集まり、この地のクリエイティブ経済の活況を支えている。壁の時代の産業遺産的な遊休施設は貴重な文化資産だ。クラブ文化やスタートアップ企業、アーティストにとっては、そうした資産を生かした空間のほうが、新たな建造物よりもはるかに魅力的に映る。

再開発につきつける「NO」
bluejayphoto/gettyimages

21世紀初頭、シュプレー川沿いに「メディアシュプレー」計画が持ち上がった。この計画は、約180ヘクタールもの広大なエリアに多国籍メディア企業やクリエイティブ産業の主要企業を誘致するもので、事業主は、ベルリン市、地区議会、商工会議所などの代表者たちだ。ベルリン市は1990年代後半から、都市開発の遅れを取り戻そうと躍起になっていたのだ。だがベルリン市民は、グローバル企業の誘致と土地の売却益を求めていたわけではない。魅力的な水辺の土地が市民の生活に直結していることを望んでいたのだ。

2000年になると、建設ラッシュが始まった。鉄骨とガラスの現代建築群が次々と建ち、シュプレー川沿いにあった伝説のヒッピー・クラブは立ち退かざるを得なかった。市民のビーチはコンクリートに塗り替えられていった。

だが、ベルリン市民は黙っていなかった。2006年には最初の反対運動が起こった。1万6000人の署名をもとに地区選挙が実施され、新規の建設は河岸より50メートル以上の距離を保つこと、地上22メートル以上の高層建築の禁止、新たな橋梁の建設禁止など、計画に大きな修正が加えられる結果となった。

【必読ポイント!】ベルリンのエコビレッジ

Bar25からホルツマルクトへ
bernardbodo/gettyimages

シュプレー川沿いの土地にヒッピーの手が入ったことで、景観は一変した。反対運動の果てに放棄されたコンクリート建築の骨格は、廃材を利用した木造の外壁と窓で飾られた。中古レンガから生まれたアーバン・ビレッジには、サーカスやアクロバット用のスタジオ、子供の劇場がつくられた。クラブに行く両親が子供を預ける24時間営業の託児所もある。河畔にはビーバーが立ち寄る場所さえある。エコビレッジ、「ホルツマルクト」の誕生だ。

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