デジタル・エイプ

テクノロジーは人間をこう変えていく
未読
デジタル・エイプ
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テクノロジーは人間をこう変えていく
未読
デジタル・エイプ
出版社
クロスメディア・パブリッシング

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定価
2,398円(税込)
出版日
2018年10月11日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

デジタル・エイプとはデジタルなサル、すなわちスマホなしでは1日たりとも過ごせない「私たち」のことである。

1967年、動物学者デズモンド・モリス博士は『裸のサル(The Naked Ape)』という本を発表してセンセーションを巻き起こした。本書『デジタル・エイプ(The Digital Ape)』はそのオマージュだ。すなわち裸になったこと(Naked)が、人類と他の類人猿を決定的に隔てたように、いまデジタルなテクノロジー(Digital)が、これまでの人類の生き方を決定的に変えようとしているというわけである。

デジタル・エイプの暮らす環境には、当然ながら光と影がある。光の部分は、人間の能力がデジタルなパワーと結び付くことによって、飛躍的な成果を生み出している姿だ。そしてその影に当たるのは、政府や新興の巨大テクノロジー企業のデータや富の扱いをめぐる公平性、透明性といった観点からの疑義である。

とはいえ著者らは、デジタルが私たちにより自由な社会と、公平な民主主義をもたらすだろうという楽観主義の立場を取る。そして私たちが取り組まなければいけないことは何か、またルールが必要だとすれば何を基準とするのかというテーマについて、網羅的な議論を行っている。

人類史という大きなパースペクティブからデジタルを論じた本書は、私たちの未来を考えるうえで欠かすことのできない、数多くの貴重な視点を与えてくれるはずだ。

ライター画像
しいたに

著者

ナイジェル・シャドボルト (Nigel Shadbolt)
オックスフォード大学コンピューターサイエンス教授、同大学ジーザス・カレッジ学寮長。オープンデータ研究所会長兼共同創立者。1956年ロンドン生まれ。ティム・バーナーズ=リーと共同で「www」の仕組みを開発。英国を代表するコンピューター科学者で、最先端の人工知能・Webサイエンス研究者の一人。王立協会、王立工学アカデミーならびに英国コンピューター協会にてフェローを務めるほか、英国コンピューター協会では会長も務めた。2013年に科学と工学への貢献により「ナイト」の称号を贈られる。

ロジャー・ハンプソン (Roger Hampson)
経済学者・公務員。2016年初めまでロンドンのレッドブリッジ区長を16年間務め、同区はウェブを使ったサービス改革・住民の行政参加・情報公開などにおいて高い評価を得る。長年、社会福祉事業の責任者を務めるとともに、他の評議会や委員会の運営にもあたった。1986年までは経済学者として社会政策を専門とし、ケント大学対人社会サービス研究所の主任研究員などを歴任。現在は地方公共データ委員会のメンバーやオープンデータ研究所の非業務執行理事などを務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    デジタルテクノロジーは、私たちの社会を大きく変えようとしている。それは文化的な「進化」とも呼ぶべき規模だ。すなわち「裸のサル」から「デジタルなサル」への進化がいま起こっている。
  • 要点
    2
    AIが意識を獲得する日は当分来ないし、人間の仕事を根こそぎ奪い去ってしまうことも起こりえない。人間の持つ独創性は、今後も新たな仕事を生み出し続けるだろう。
  • 要点
    3
    デジタルなデータは、基本的に公共財とみなすべきである。同時に個人のプライバシーは尊重されなければならない。この2つのバランスをとることが、新しい時代の民主主義を実現するカギとなる。

要約

新しい道具が、新しい私たちをつくり出す

デジタル前史
Inna Luzan/gettyimages

私たち現生人類(ホモ・サピエンス)の遺伝子の96パーセントは、最も近い親戚であるチンパンジーと共通している。私たちを人間としているユニークな4パーセントの主要な成分は、親指をほかの指と対置できるようにする遺伝子だ。この親指のおかげで私たちは「道具」をつくり、言語・文化・知識などの集団的な知性を生み出すことができた。

道具は、ホモ・サピエンスが進化したことによりつくり出された「結果」ではなく、私たちの進化を後押しした「要因」である。とりわけ「火」を使いこなしたことは、決定的に重要であった。火を食物の調理に利用することによって、胃の中で同じ量の食物を、より少ないエネルギーで処理できるようになった。その結果、体は余ったエネルギーを脳に回し、大きくなった脳はシェルター(風雨をしのぐ場所)や衣類、ハンドアックス(手に握って使う多用途の石器)などの画期的な道具を生み出した。そしてそれらのツールが、脳の能力を急速に増大させるという好循環を生んだ。

「変化」を超えて「進化」へ

いま私たちデジタルなサルが手にしているのは、コンピューターという新しい道具である。デジタルインフラのおかげで私たちはつながり合い、豊かになった集団的知性を使って、驚くほど幅広い問題に取り組めるようになった。

さらにこれからの10年で、極小のスケールで動作するナノマシンと量子コンピューターが本格的に導入されれば、私たちの個人的・社会的能力は、かつてないほど拡大するだろう。

私たちは自分の遺伝子・物理的実在・場所・時間、そして空間の性質をコントロールできる、新しいバージョンの人類に変化しつつある。これは単なる「変化」を超えた「進化」といっていい。

【必読ポイント!】 デジタルの光と影

ソーシャルマシン

「ウィキペディア」は人類史上最も包括的で、最も利用しやすい百科事典だ。こうした特長をもたらした要因として、メカニズムにワールド・ワイド・ウェブ(www)を採用している点が挙げられる。人間の能力とテクノロジーのパワーを結び付けて成果を生む仕組みを「ソーシャルマシン」と呼ぶが、ウィキペディアはその最も美しい例といえよう。そこでは人間の主導のもと、人間とテクノロジーがひとつの意識を持ったプロセスに統合されている。

ウィキペディアの編集ソフトは執筆者のマシンではなく、インターネットのページ上にある。創設者のジミー・ウェールズは、これをボランティア執筆者のコミュニティーに発展させた。それはインターネットの理念、振る舞い、テクノロジーにぴったりと合っていた。そこでは信頼性を高めるために、緻密なアルゴリズムも取り入れられている。こうしたアルゴリズムによって、テクノロジー自体がまるで生き物のように価値を加えたり、コンテンツを分析したり、編集したりすることができるようになった。しかしそれはあくまでも人間の意識と判断の下において実行されている。

AIは仕事を奪うか
metamorworks/gettyimages

AI(人工知能)については、いま2つの不安がささやかれている。1つはいわゆるシンギュラリティの問題だ。つまりAIがやがて意識を獲得する日が来るのではないか、そして私たちのライバルとなり、やがては人類に終わりをもたらすのではないかという危惧である。

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