神様がくれた「ピンクの靴」

「奇跡のシューズ」をつくった小さな靴会社の物語
未読
神様がくれた「ピンクの靴」
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「奇跡のシューズ」をつくった小さな靴会社の物語
未読
神様がくれた「ピンクの靴」
出版社
出版日
2019年01月29日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

いい靴を履けば、心も歩き出す。本書には、そんな奇跡のケアシューズ「あゆみ」を生み出した、徳武産業のエピソードが綴られている。

タイトルにもなっている「ピンクの靴」がその奇跡を物語るいい例であろう。詳しくは要約の中で触れているが、歩くことをあきらめていた1人の女性が「ピンクの靴」との出会いをきっかけに、再び自分の足で歩けるようになった。「ピンクの靴」の女性をはじめ、自分の足で歩きたいお年寄りと、お年寄りの夢を叶えたい開発者の強い思いが込められているのが「あゆみ」である。

人は、いつの間にか初心を忘れてしまうものである。特に仕事が絡めば、打算的になることもあるし、利益の追求も必要だ。なかなか純粋ではいられないものではないだろうか。しかし、徳武産業の会長である十河(そごう)さんは、「困っているお年寄りのために」という軸から決してブレることがない。

その結果、「あゆみ」はケアシューズのトップブランドとなり、多くのお客様に愛されることとなった。そして十河さんは、今もなお、必要とされている靴を開発し続けている。その真摯な姿勢には、本当に敬服させられる。

たった1足の靴が、その後の人生を変えるほどの影響力を持つ。その靴に込められた思いや優しさが利用者の背中を押すのかもしれない。改めて、自分の仕事の意義や原点を考えさせられる一冊だ。

ライター画像
中山寒稀

著者

佐藤 和夫(さとう かずお)
1952年北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、出版社勤務。経営雑誌編集長、社団法人事務局長などを経て出版社設立。2,000社を超える企業取材を通して、人間としての経営者と企業経営のあり方を洞察してきた。現在「人を大切にする経営学会」常任理事。一般社団法人「豊島いい会社づくり推進会」会長。「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員。株式会社あさ出版代表取締役。

本書の要点

  • 要点
    1
    「困っているお年寄りのための靴をつくりたい」という思いがケアシューズ「あゆみ」開発の原点だ。歩きやすい靴があれば、積極的に歩くようになり、寝たきりになるリスクを減らせる。
  • 要点
    2
    ある老人ホームでは、歩くことをあきらめていた人が「ピンクの靴を履きたい」という思いからリハビリを再開し、再び自分の足で歩くという夢を叶えた。
  • 要点
    3
    徳武産業の待遇改善や働きがいがある環境づくりは、過去の失敗から生まれている。今や退職率は低く、家族で入社して働く人も多い。

要約

「あゆみ」が生まれるまで

魔法のケアシューズ
bee32/gettyimages

平成24年、香川県にある小さな靴メーカーが「日本でいちばん大切にしたい会社大賞・審査委員会特別賞」を受賞した。その会社を徳武産業という。

受賞の理由は、徳武産業がつくるケアシューズにある。このケアシューズは、高齢者や障害がある人のための靴で、驚くほど軽い。歩くのが楽しくなるような小さな工夫がいくつも施されている。

色はカラフルで、従来の高齢者用の靴とはまったく異なるデザインだ。つま先は床からそりあがり、小さな段差にもつまずかないようになっている。左右の脚の長さが違う人のために靴底の高さを変えたり、半身が不随の人のために着脱用のベルトの向きを調整したりすることも可能だ。さらに、左右どちらかの靴だけを買ったり、左右で違うサイズの靴を買ったりすることもできる。足や体の状態によって、片方の靴だけが傷む人もいるし、左右の足の大きさが異なる人もいるからだ。病気で足が変形している人のために、サイズや大きさを変えて靴を組み立てる特注システムも用意されている。しかも、ここまでつくり込まれているにもかかわらず、費用は決して高くない。

「困っているお年寄りの方の役に立ちたい」――徳武産業の会長、十河(そごう)孝男さんは、そんな動機でケアシューズの製造を始めた。

歩きやすく、転ばない靴をつくる
kynny/gettyimages

平成5年春のこと。ルームシューズのメーカーだった徳武産業は、売り上げの多くを頼っていた通販会社から取引を縮小され、売上減に苦しんでいた。そんな折、地元にある特別養護老人施設の石川園長(現理事長)から、「入所者の転倒が相次いで、困っているんです。お年寄りが転ばないですむ靴をつくってもらえないでしょうか」という相談を持ち掛けられる。

十河さんはさっそく、施設に向かった。そこにいたのは、ヨチヨチと自力で歩いている人、歩行器を押している人、車椅子の人たちだった。その光景を見た十河さんは、「ここに新しい商品を待っている人がたくさんいる」と感じた。

高齢者は、転倒するとすぐに骨折して、寝たきりになってしまう。寝たきりになると、頭や体の機能が衰えて、亡くなってしまう人が多いという。転ばない靴をつくることができれば、お年寄りの生活の質を守り、命を守ることができる。

十河さんは、試作品をつくっては、老人ホームに通った。試行錯誤を繰り返すうちに、高齢者の深刻な足の悩みを目の当たりにすることになった。むくみやリウマチ、外反母趾などにより左右の足の大きさや形、長さが異なっている人には、足にぴったり合う靴が、脳卒中などの病気で体が不自由になっている人には、簡単に履ける靴が必要だと痛感した。

しかし当時、高齢者の体の状態に合わせた介護用の靴はどこにもなかった。足に合わない靴を履いていたり、転ぶリスクを抱えていたりすると、歩くことが苦痛になってしまう。するとだんだん歩かなくなり、寝たきりになる可能性が高くなってしまうことにも気づいた。高齢者が楽に履けて、歩きやすい靴――そんな靴をつくるべく、十河さんは試行錯誤を繰り返した。

初めての赤字転落

2年の試行錯誤の末、ケアシューズ「あゆみ」は、平成7年の5月に発売を迎えた。しかし、「あゆみ」の売り上げは思ったほどは伸びなかった。認知度が全くなかったからだ。

さらに悪いことに、同じタイミングで、徳武産業が赤字転落をすることがわかった。創業して初めての赤字だった。

怒りとあせりと不安を募らせた十河さんは、自身が「あゆみ」の開発に専念していた間に事業を回してくれていた部下3名を叱責してしまう。ボーナスを出すことも社員を昇給させることもできなくなり、責任者だった3名を含め、退職者を出してしまった。社員の退職と赤字転落によって、十河さんの心は折れかけていた。

【必読のポイント!】靴に込められた思い

死ぬまでに赤い靴を履いてみたかった

そんなとき、老人ホームを訪れた十河さんは、あるおばあさんと出会った。

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要約公開日 2019.05.01
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