教え学ぶ技術

問いをいかに編集するのか
未読
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問いをいかに編集するのか
未読
教え学ぶ技術
出版社
出版日
2019年09月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

本書で紹介されている教育法を簡潔にまとめれば、「世界のエリートや教養人が学び、実践するオックスフォード流アクティブ・ラーニングの方法」となるのではないだろうか。

日本でも初等教育から高等教育まで、アクティブ・ラーニングの手法を積極的に取り入れており、さまざまな取り組みがなされている。だがそもそも教える側の教師の多くは、効果的なアクティブ・ラーニングの授業や指導をほとんど受けてこなかったためいざ教育の現場で実践しようとしても、なかなか効果的な指導を行えないのが実状だ。現場で教育を担う教員も、どのように実践すればよいのか戸惑っている。

本書がユニークなのは、オックスフォード大学教員の苅谷氏が「先生」役、オックスフォード大学大学院修士課程を修了した石澤氏が「生徒」役となり、実際にオックスフォード大学で行われている個別指導「チュートリアルキム」(「スーパービジョン」)を再現している点である。その目標は、むやみに多くの知識を暗記することでも、相手を打ち負かすべく一方的に自分の主張をすることでもない。文献を丁寧に読み込み、問題を的確に把握し、議論を通して思考を発展させていくことだ。

そうした「批判的思考」を使いこなせる人間こそが、これからの社会においても替えが効かない存在になっていくはずである。教育者として、真の批判的思考を育てる教育をいかに行うべきか。そして学習者として、それをいかに学ぶべきか。本書から得られるものは、きわめて大きい。

ライター画像
大賀祐樹

著者

苅谷 剛彦 (かりや たけひこ)
1955年生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ノースウェスタン大学大学院博士課程修了、Ph.D(社会学)取得。東京大学大学院教育学研究科教授を経て、オックスフォード大学教授。専攻は社会学、現代日本社会論。著書に『知的複眼思考法』(講談社+α文庫)『大衆教育社会のゆくえ』『教育と平等』(中公新書)などがある。

石澤 麻子 (いしざわ あさこ)
1989年生まれ。国際基督教大学(文化人類学専攻)卒。オックスフォード大学大学院現代日本研究修士課程修了。帰国後、コンサルティング会社に入社。退職後、フリーで記事の翻訳、執筆を中心に活動。

本書の要点

  • 要点
    1
    生産的な議論をするための思考力を鍛えるには、「問いを編集する」技術が必要になる。
  • 要点
    2
    エッセイを通じて学生の思考過程を想像しつつ、より論理的に考える方法を教えるのが、オックスフォードの「チュートリアル」におけるもっとも基本的なやり方だ。
  • 要点
    3
    知的なキャッチボールを通して、学生の関心領域からカギとなる言葉や視点を引き出し、問いを発展させるのが教師に求められる技術=アートである。

要約

議論をする力を養うためには

「問いを編集する」技術
Melpomenem/gettyimages

議論が噛み合うことで、新たな認識が生まれ、自分の見方が相対化される。そしてより広い視野に立った議論ができるようになる――これが理想的な議論のあり方だ。しかし実際は、賛否両論の意見が飛び交って「炎上」し、互いの主張をぶつけ合うだけで、議論が噛み合わないことが多い。逆に顔見知り同士だと「空気を読む」ことが期待され、議論が発展しないということもままある。これらの事象は両極端のように見えるが、議論の捉え方と進め方に問題があるという点では共通している。

人とは異なる考えをうまく伝えたり、なれ合いになりがちな議論の場で自分の考えを明確に示したりするのに必要なのが、「問いを編集する」という技術だ。議論が噛み合わない原因のひとつは、互いの問いにすれ違いが生じていることにある。問いが共有されず、ずれが認識されないままでは、いくら意見を言い合っても議論は平行線のままだ。重要なのは、問いをどこまで明確に意識するかである。

「問いを使いこなす」技術

議論(argument)をするとき、私たちはあるテーマ (主題)について考える。そして日常会話と違い、議論においてはなんらかの発展や展開が期待される。では、あるテーマにアプローチするとき、どのように切り込んでいけばいいのか。どうやって自分の見解や意見を考え、まとめていくべきなのか。

自分なりに問いを立て、その問いに答えようとすることで、考えを展開していく。それが「問い」からのアプローチである。あるテーマについて賛成か反対か、具体的な例証はなにか、他のことばで言い換えるとどうなるのか、どんなことに例えられるのか……このように問いを立てていくことで、多角的な視点から物事をとらえ、複雑で高度な議論への足がかりをつくることができる。

これは大学の小論文や卒業論文を書くときにだけ必要な技術ではない。社会に出てからも、私たちはさまざまな問題や課題(problem)に直面し、そのたびに解答が求められる。そのときも問いとして課題をとらえ直し、問いへの答えを考えることで、適切な解決策を導くことが可能になる。コミュニケーションが不毛になるような状況を打開するのにも、問いへの自覚がカギとなるのだ。

「批判的な思考」を育てる
SIphotography/gettyimages

どのように問いを立てるか、立てた問いをどのように展開していけばよいかという「思考の技術」を学ぶ機会は、残念ながら日本の教育に十分に備わっているようには見えない。「探究学習」や「アクティブ・ラーニング」のような新しい学習法も奨励されているが、そもそも教える側にそのような思考や教える技術が十分に備わっているとは限らないのだ。

他方で著者の苅谷氏が在籍するオックスフォード大学では、「チュートリアル」(大学院の場合は「スーパービジョン」)と呼ばれる学生への個人指導が行われている。週に1回1時間、学生1人~3人に対し1人の教員がついて、小論文を書くための問い(エッセイ・クエスチョン)と、読むべき課題文献(毎週10冊ほど)のリストが渡される。学生は小論文を執筆し、それを元に教員との間で質疑応答や議論が行われる。こういった読み書きを中心とした個別学習を通じて、「批判的な思考」を育てるのである。

問いの立て方と思考法

エッセイを元にした指導

ここからは苅谷氏が「先生」役に、石澤氏が「学生」役になり、実際にチュートリアルを行なっていく。

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要約公開日 2019.11.03
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