在野研究ビギナーズ

勝手にはじめる研究生活
未読
在野研究ビギナーズ
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勝手にはじめる研究生活
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在野研究ビギナーズ
出版社
出版日
2019年09月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「在野研究」と聞くと、アカデミズムに加われなかった人たちによる周縁的で孤独な研究と、どこかマイナスなイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし本書はそのような「不安」を払拭してくれる。本人が自覚的であるかどうかにかかわらず、だれもが「在野研究者」になれるし、そうした生き方は人生を豊かにするのである。

本書の冒頭には「忙しい人のための4タイプの目次」が用意されており、自分がどういう研究をしたいかによって、どこの章を読むと役に立つのかが示されている。まさに「忙しい人」のための本として設計されているわけだ。またさまざまな「研究事例」が紹介されており、執筆者それぞれの苦労しているところにはどこか共通点があって、こちらも興味深い。そうした共通点から、自身の生活スタイルを省みることもできよう。

特定の人物にフォーカスしたり、文字や妖怪、はたまたハエに「ハマった」り、個人的な経験から仏教を専門にするなど、ノンフィクションとして見てもエキサイティングな内容に富む。バリエーション豊かな彼らの半生記を読んでいるうちに、自分の興味関心が広がることもあるかもしれない。

聞き取り調査の手法、文献検索の仕方など、「研究基礎」ともいえる事柄を自身の経験からまとめている章もある。いわゆる専門研究者を目指す人にとっても、役立つ部分は大きいのではないか。

著者

荒木 雄太 (あらき ゆうた)
1987年生まれ。在野研究者(専門は有島武郎)。明治大学文学部文学科日本文学専攻博士前期課程修了。2015年、第59回群像新人評論優秀賞を受賞。著書に『これからのエリック・ホッファーのために――在野研究者の生と心得』(東京書籍)ほか、『貧しい出版社』(フィルムアート社)、『仮説的偶然文学論』(月曜社)、『無責任の新体系』(晶文社)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    「在野研究」とは、大学に所属をもたない学問研究のことである。
  • 要点
    2
    在野研究には、基本的に私費で賄う研究費、大学図書館へのアクセスの制限、研究成果の発表先の制限、曖昧な肩書き、研究時間の捻出といった問題が共通している。
  • 要点
    3
    在野研究者はたいていの場合、他に収入がある。研究活動が生計の手段から切り離されているため、失敗するリスクを恐れず、大きい未開拓のテーマに挑戦しやすい。
  • 要点
    4
    どのような人と交わるか、どのような場に参加するかを考え、好きなものを好きなだけ研究することが大切である。

要約

働きながら研究を発表する

在野だからこそ挑戦的に
Xsandra/gettyimages

本書における「在野研究」とは、大学に所属をもたない学問研究のことである。前提として、執筆者それぞれの生活は異なる条件のもとで営まれている。本書の15人の著者が紹介している方法も、それぞれ視点が違う。自分の生活に照らして、読者自身がチューンナップしていくことが大切だ。

在野研究者のどこにメリット、デメリットがあるのかを考えるにあたって、本書ではまず政治学分野で在野研究をしている酒井大輔氏の事例が紹介される。政治学会にはジャーナリストや行政機関所属職員なども参加しており、政治学はそもそも研究者と実務者の垣根が低い。

それでも在野研究をするにあたって、以下の悩みを感じることがあるという。私費で賄う研究費(一部、テーマによっては助成金がでることもある)、大学図書館へのアクセスの制限、研究成果の発表先の問題、曖昧な肩書き、などである。その一方で、論文の発表先が学会誌であれば、平等に審査される。場合によっては、大学の研究者と共同研究という形にすることも可能だ。

そうした不利を乗り越えて在野研究をする意義は、失敗のリスクが大きい未開拓のテーマに挑戦しやすいことにある。研究活動が、生計の手段から切り離されているからだ。

論文を楽しむ

在野であれなんであれ、論文を読むことはまず、楽しい。新しい知見に触れられるし、その分野の泰斗と「対話」できる。また論文や学術書を購入することで、研究基盤を支援することも可能だ。研究会や学会などに赴き、耳学問するのもよいだろう。その領域を概観できるし、そうした場で他者と討議することで、互いに違った視点を提示し合える。

こうしたことを在野研究者の立場で「趣味」として行うと、たとえば口頭発表で思考の整理をしたり、論文を書く自由を享受したりできる。逆に研究者の人たちをオーガナイズして、アカデミックな領域では業績にカウントされにくいがニーズはあるテーマについて、後方支援することにもつながる。変化に対応しやすいことが、在野研究の強みでもある。

仕事と研究の二重生活

サラリーマンをしながら週末に好きな研究をする人間を「週末学者」と呼ぶ。

分野にもよるが、ひとりでやることが中心の研究であれば、仕事のない時間を使って、誰でも週末研究を行える。英語にはindependent scholarという肩書きがあり、海外だと在野研究者は一般的だ。

仕事と研究の二重生活を続けるためには、人的なネットワークを構築し、毎週一定の時間を研究にあて、体力づくりを怠らず、研究内容によっては語学力を養うことが求められる。研究のしやすいフレックスタイム制や、文献を安く手に入れる方法を見つけること、ネットを含めた成果発表媒体を探すことも重要だ。

研究者としての作法を守り、読書会や研究会への参加などでモチベーションを維持して、自分を取り巻く環境について工夫を重ねれば、40歳を過ぎても退職後でも、在野研究を続けることはできる。

一人でも多くの研究者を増やしたい
SDI Productions/gettyimages

在野研究者にはさまざまな種類があるが、生物学の分野ではむしろアマチュア研究者が大きな役割を果たしてきた。

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要約公開日 2019.11.21
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