トイレは世界を救う
トイレは世界を救う
ミスター・トイレが語る 貧困と世界ウンコ情勢
トイレは世界を救う
出版社
出版日
2019年10月29日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

1年間に2500回、生涯では約3年間――これだけ人はトイレに入っている。生活と切っても切れない関係にあるトイレは、日本人にとっては当たり前の存在である。しかし、世界には、安全で整備されたトイレにアクセスできない人が42億人もいる。トイレが未整備のために土壌汚染が進み、毎日1400人以上の子供が下痢で亡くなっているのだ。

その現状を打破すべく立ち上がったのが、「ミスター・トイレ」と呼ばれる著者、ジャック・シムである。彼は40歳で全くの経験のない状態から、世界のトイレ・衛生問題に取り組み、WTO(世界トイレ機関)の設立などを実現してきた社会起業家だ。本書はそのクレイジーな軌跡を追った一冊である。トイレ問題という世界のタブーに切り込む際に、著者が目をつけたのは「ユーモア(笑い)」だ。人々の感情に着目して、各国の価値観を味方につけることで世界を巻き込んでいった。

トイレの整備が進んでいない途上国では、トイレに対する考え方もさまざまである。そんな状況下でトイレ文化を育んできた、オリジナリティあふれる戦略とは何なのか? 文化の違いからくる溝に橋をかけていく著者の姿からは、SDGsの目標達成や、グローバルビジネスの展開におけるヒントを数多く学べるだろう。何より、著者の生き方やマインドセットを深く知れば知るほど、自分のミッションについても問い直されるはずだ。水に流してはいけない話ばかりの本書を読めば、必ずや元気が湧いてくることだろう。

ライター画像
木下隆志

著者

ジャック・シム
Jack Sim
シンガポールの社会起業家、別名「ミスター・トイレ」。会社経営などを経て、2001年、国際NPO団体WTO(世界トイレ機関)を創設。世界各国での「ワールド・トイレ・サミット」開催や「世界トイレ大学」創立、サステナブルなトイレのデザイン・製品開発などの事業を通し、トイレの普及啓蒙に努める。2013年、国連の全会一致でWTOの創設日(11月19日)が「世界トイレの日」に制定された。『TIME』誌が選ぶ環境ヒーロー賞、エリザベス女王の「ポイント・オブ・ライツ」賞など数々の賞を受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    トイレ問題が改善されない最大の理由は、トイレ問題がタブーとされているからだ。
  • 要点
    2
    タブーの壁を打ち破るために著者がとった戦略は、ユーモア(笑い)である。タブーが「鍵がかけられた扉」であるならば、ユーモアはその扉を開ける鍵となる。
  • 要点
    3
    著者は途上国でトイレを普及させるために、建設的な嫉妬という感情を利用した。
  • 要点
    4
    社会課題に貢献したいと考えている人は、「まだ充分に関心を向けられていない課題」に注目するとよい。

要約

トイレに着地するまで

世界トイレ機関(WTO)

「トイレは世界で最も幸せな部屋だ。トイレに入る前は居心地が悪く、不安でイライラしていても、出てきたらハッピーだからだ」。ミスター・トイレの異名をとる著者は、このように語る。

著者はゼロから40歳で社会起業家となり、2001年にWTO(World Toilet Organization=世界トイレ機関)を立ち上げた。WTOがめざすのは、人々にトイレの重要性を理解してもらい、世界中のトイレ健全化活動を推進することである。2013年には、国連の全会一致でトイレの日(11月19日)の制定にこぎつけた。

なぜトイレなのか?
TheDman/gettyimages

世界中どこにいっても欠かせないもの、それがトイレである。しかし、世界の3人に1人(約23億人)はトイレのない生活を送っているのが現状だ。彼らは物陰や川、茂みの裏などで用を足している。そのため、糞尿は処理されないまま放置されてしまう。そして、世界の人口の半数以上にあたる約42億人は、きちんとした下水処理がなされていない環境下にあるか、屋外で排泄しているという。

これは、川や湖、地下水の汚染の原因となっている。現に、水の汚染により命を落とす5才未満の子供は、毎年52万5000人にのぼる。また、世界中の女性の3人に1人が、安全なトイレ環境がないために、病気やレイプなどの危険にさらされている。

「トイレが確保されることがポジティブ連鎖の始まり」。この事実に、多くの人に気づいてもらうことが著者の願いだ。きちんとしたトイレが使えると、人々は尊厳を取り戻し、病気が減少し、就学率が向上する。ひいては、生産性も向上し、貧困の減少につながるのだ。

最大のタブーは「トイレ」

では、なぜ世界中のトイレ問題が改善されないのか。最大の理由は、トイレ問題がタブーとされてきたためだ。人々の羞恥心がトイレや衛生問題の解決を妨げている。

これまで、世界にはさまざまなタブーが存在していた。奴隷制、LGBTなど、タブーを壊そうとする人が登場し、そのたびに社会は進化を遂げてきた。このように、タブーをなくせば世界は大きく変わる。

【必読ポイント!】 くさいものにフタをせず、笑いに変える

なぜユーモアなのか?
siaivo/gettyimages

人々の考えを変え、トイレというタブーを打ち破るために、著者がとった戦略はユーモア(笑い)である。なぜユーモアなのか。例えば、「トイレを使わなければ病気になる、死の危険がある」などと、恐怖をかきたててトイレを普及させる方法もある。しかし、著者の経験上、これでは全体のエネルギーが縮小してしまうことがわかっていた。一方、愛情をベースとしたアプローチをとれば、エネルギーが無限に広がる可能性がある。

たった3人で運営しているWTOのミッションは、トイレという社会課題の認知を高め、トイレをステータス・シンボルにすることだ。58カ国にまたがる235の協力メンバー団体とコラボレーションしながら、トイレ問題の普及に向けて、知恵を絞ってきた。

トイレ問題を優先的にメディアで報道してもらうには、それが面白い内容であることが重要となる。そこで、ユーモアがその最強の橋渡し役になるのだ。

ムーブメントで人を巻き込み、社会を変えていく

トイレをたくさんつくる、資金を募るという方法ではなく、タブーと闘うことを著者は選んだ。それは、一人の人間で達成できることには限界があるためだ。もし1万個のトイレをつくっても、世界が必要としているのは10億個のトイレである。

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要約公開日 2019.11.15
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